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犬が大好きになるきっかけをくれた「はじまりの犬」、海。/犬からの手紙が教えてくれたこと(1)

犬が大好きになるきっかけをくれた「はじまりの犬」、海。/犬からの手紙が教えてくれたこと(1)

【第1話】素直になれない不器用犬~マルチーズの海~







(C)皐月コハル・さかぐちまや/スターツ出版 無断転載禁止

 私は子どもの頃から犬が大好きだった。

 むしろ犬になりたいと思っていた。

 犬になりたいと思う前、幼稚園の頃はパンダになりたかった。パンダを見たことはないけれど。どうやら私は好きなものになりたいと思うたちらしい。

 今は見かけないけれど、私の子どもの頃は野良犬がいた。謎な犬種。顔は基本的に怖い。そして噛みついてくる。私は野良犬にかじられ怪我をしたこともあるけれど、犬を嫌いになったことはない。

 犬になりたいと思ったのは、祖父母の家に犬が来てからだ。

 私の母の妹は犬のブリーダーをしていて、その関係で祖父母の家にはマルチーズが五匹いた。小学生の頃の私は祖父母の家に夏休みや冬休みに行くたびに犬を可愛がるというよりも、自分も犬のような生活を送っていた。

 祖母が犬たちに砂肝をコトコトと煮るのだが、それを犬と並んで食べていた。砂肝が楽しみなわけではない。私がマルチーズたちと自分は仲間だと思っていたのだ。

 その証拠に大工だった祖父が作った木製の犬用ケージに私も入って寝ていた。北海道なので、さすがに冬場は布団に寝たのだけれど、犬たちが一緒にいないと嫌だと言い、布団に犬たちを連れて来て、犬とギュウギュウになりながら寝ていたのだ。

 五匹の犬たちの中で、唯一のメスである『海』という子がいた。

 海は祖父以外の人間が大嫌いで、特に子どもが嫌いである。私は一度でいいから海を抱っこしたかった。一緒に寝てみたかった。他の四匹はケージに一緒に入ってくれるし、横でお座りして砂肝を食べていても、

「変なやつだなあ」

 とは思っていただろうけれど、仲間外れにはされなかった。とりあえず、彼らから見たら自分たちとは随分とビジュアルの違う仲間だと思ってくれていたと思う。 

 しかし、海は「一緒に寝よう!」と言おうが、おやつをあげようとしようが一切無視。無視どころか、汚いモノでも見るような視線を送ってくる。

 たぶん、海は自分は「人間」で私を「犬」だと思っていたと思う。振る舞いがもうプライドの高い女性のようなのだ。

 私が犬のケージに入って生活をするので、祖父が犬たちのケージの並びに私用のケージを作ってくれた。私はめちゃくちゃ喜んで、毛布を入れてゴロゴロしたり、仲間の犬たちをマイケージに招待した。ドアはなく開放的。犬たちも自由に出入りできる私のケージは素晴らしかった。



 私はマイケージに四匹を集め、

「どうしたら海と仲良くなれると思う?」

 と、本気で相談していた。犬たちは「哀れな娘よ」と言わんばかりに顔をペロペロ舐めてくれるだけ。そうか、自分で考えろということなのか。私は女の子だし、皆は男の子だ。女の子同士の友情はわからないのか。これは私と海の問題なのか。と、小学生になったばかりの私は自分を鼓舞した。

 たぶん、その頃から犬の気持ちを勝手に代弁する癖が出たのだと思う。それは現在、いい歳のオバサンと言われる年代になっても変わらない。

 私の犬遍歴の最初は海である。

 私にとって、海は「はじまりの犬」なのだ。

 それから、海と私の数年に渡る攻防が始まるのである。



 海と会えるのは夏休みや冬休み。

 祖父母の家に行く時には

「今度こそ海を抱っこして散歩に連れて行く」

 と、心に誓い向かうのだ。

 今のマルチーズの定番カットはわからないけれど、海の時代は耳の毛を長くサラサラに。おでこの毛をリボンのようなもので結んでいた。四匹の男の子は結構短めにカットしていたと思う。

 白くてサラサラの海に触りたい。が、何度チャレンジしても歯を剥けられる。では、リボンのところを触ってみようと手を伸ばすと「ガウ!!」と言われる。「気安く触らないで!!」と海の声が聞こえてきそうだ。

 海に見せつけるように他の犬たちを抱っこしたり、イチャイチャしてみたけれど、海はこちらを全く気にしない。唯一の女の子で一番年上。女王様のように偉そうにしていた。

 それでも私は懲りなかった。

最初に祖父母の家に来たのは海だった。すごく可愛いと思った。犬がこんなに可愛いと思ったのは海を見たからだ。だから、絶対に仲良くなりたかったのだ。

「海! 一緒に並んで食べよう!」

 毎回、海を誘ってみるが、祖父に自分の分を遠く離れた皿に置いてもらい、「フン」と私を鼻で笑いながら食べていた。「みんなで食べると美味しいよ!」と言っても、「そういうの興味ないので」という顔をしている。

 ――私が小三の時に祖母が亡くなった。

 それからは益々、海は祖父以外に懐かなくなった。

 海と寝たい、抱っこしたい。

 そうだ! 祖父と海と三人で寝ればいいのだ!



 名案を思い付いて、祖父の部屋で寝ようとするが「コハル。海はコハルと寝るのが嫌みたいだから、ケージで寝てくれ」と言われた。海は歯を?きだして怒っていた。

「海はなんで私と仲良くしないのかな? 女の子同士なのに」

 ケージに戻り、他の犬にまた相談するも「知らんがな」という態度でくっついてくるだけであった。



 私が小学五年生か六年生くらいの頃には、他の四匹は叔母である母の妹の元に戻り、海だけが祖父母の家にいた。海は威勢のいいプライドが高い女性から、おばあちゃん犬になった。

 サラサラにしていた毛も短くカットして、ケアをしやすいようになった。

 食べ物も柔らかい物になった。「海はおばあちゃんだから」と祖父に説明された。

 海はおばあちゃんになって、少しだけ諦めたのか背中を触ることだけは許してくれた。私は喜んで撫でるが、海は嫌な顔をしていた。普通は撫でたら気持ちよさそうにするものだろうけれど、我慢しているように思えた。

 それでも私は嬉しくて背中をそっと撫でていた。本当は白くて毛がサラサラな時も触りたかったなぁと思いながら。

 その日は海を初めて抱っこした。背中は撫でさせてくれるが、それ以外は怒るはずの海が近づいてきた。自分から近づくことは今までない。

 そっと抱き上げようとしても嫌がることはなかった。もちろん、甘えてはこなかったが。

 私はすごく嬉しかった。海はとても温かく、思っているよりも軽かった。

「やっと抱っこさせてくれたね」

 私が言っても、相変わらず「フン」という顔をしていた。

 翌朝、もう一人の叔母の部屋で寝ていると、祖父が入ってきた。

「海が死んだ」

 叔母と慌てて起きて、祖父の部屋に行った。

 海は祖父のベッドの上で冷たくなっていた。



 老犬にはなったけれど、どこか具合が悪い様子もなく、ゆっくりと動くけれどヨロヨロとしている様子はなかった。

 海の体を触ったけれど、前日の温もりはなかった。

 私は動物の死に初めて直面した。

 まだ幼かったから、実感はなかったのだけれど、涙が流れた。ショックというよりも寂しかったのだ。お別れするから天敵の私に最後に嫌々ながらも抱っこされてくれたのか。

 祖父が海を入れる木箱を作った。蓋をする前に海の頭を撫でた。

 海は祖母が植えた梅の木の下に埋葬して、私は木札に『海のお墓』と書いた。

 翌年、花がキレイに咲いたと祖父から聞いた。


 私の始まりの犬、海。

 海のおかげで犬が大好きになった私は、

 そのあとに色々な犬と出会うことになる。







(C)皐月コハル・さかぐちまや/スターツ出版 無断転載禁止

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