閉経前後になると、女性ホルモンの分泌が減少し、更年期障害が始まるということはご存じだと思います。
さまざまな症状があったり、疲れやすさや不眠などが起こったりと、更年期が始まることへの不安がある方や、いま実際に更年期症状に悩まされている方も多いのではないでしょうか。
実は、更年期症状には治療方法があるのです。
山城公園レディースクリニック理事長國見幸太郎先生による解説です。

ホルモン補充療法(HRT)って知っていますか?
ホルモン補充療法:HRT(Hormone Replacement Therapy)とは、閉経前後に低下してしまう女性ホルモン(エストロゲン)を薬で補う治療法のことです。
HRTは、更年期女性の健康と生活の質(QOL)を改善するための重要な治療法です。
しかし、2002年に報告された米国の大規模研究(WHI研究)の影響で、「HRTは危険」というイメージが広まり、日本では十分に活用されているとは言えません。
その後20年以上にわたり研究が積み重ねられ、現在では適切な対象者に適切な方法で行えば、安全性と有効性の高い治療であることが明らかになっています。
2025年版ホルモン補充療法ガイドラインでも、その有用性が改めて示されています。
更年期症状は「我慢するもの」ではありません
女性は閉経前後になると、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少します。その結果、ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)、発汗、動悸、不眠、イライラ、気分の落ち込み、関節痛、疲労感など、さまざまな更年期症状が現れます。
これらの症状は仕事や家事、趣味、人間関係にも影響し、生活の質を大きく低下させることがあります。
HRTは不足したエストロゲンを補うことで、これらの症状を根本から改善する治療です。
特にホットフラッシュや寝汗などの血管運動神経症状に対しては最も効果的な治療法とされ、症状の頻度や強さを大幅に軽減します。
また、不眠、腟の乾燥感、性交痛、関節痛、頻尿などの改善も期待できます。
HRTは将来の健康にも役立ちます
エストロゲンには単に生殖機能を維持するだけでなく、骨や血管、皮膚、脳、泌尿生殖器など全身の健康を守る働きがあります。
閉経後にエストロゲンが減少すると、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まり、膣や尿道の萎縮による尿もれや頻尿なども起こりやすくなります。
HRTには骨密度の低下を抑え、骨粗鬆症や骨折を予防する効果があります。
また、閉経関連尿路性器症候群(GSM)と呼ばれる膣乾燥感、性交痛、頻尿、再発性膀胱炎などの症状改善にも有効です。
近年ではロコモティブシンドロームやフレイル予防への可能性についても研究が進められています。
「乳がんが心配」という不安について
HRTをためらう理由として最も多いのが乳がんへの不安です。
しかし現在では、乳がんリスクは治療開始年齢や投与期間、使用するホルモンの種類によって異なることがわかっています。
特に閉経後早期に開始するHRTでは利益がリスクを大きく上回るケースが多く、ガイドラインでも適切な管理下での使用が推奨されています。
また、近年の研究では「HRTが乳がんを新たに発生させる」というより、「もともと存在していた乳がんの発見を早める可能性がある」という考え方も示されています。
もちろんリスクがゼロになるわけではありませんが、定期的な乳がん検診を受けながら治療することで安全性を高めることができます。
HRTは誰でも受けられるわけではありません
HRTは万能ではありません。
乳がんや子宮体がんの既往、重篤な肝疾患、血栓症の既往などでは慎重な判断が必要です。
また、治療開始前には問診、血圧測定、婦人科診察、乳房検査などを行い、一人ひとりの健康状態を評価します。
現在は飲み薬だけでなく、貼り薬やジェル製剤なども利用できるようになり、患者さんの症状やリスクに応じて選択できます。
特に経皮製剤は血栓症リスクへの影響が少ないと考えられており、選択肢が広がっています。
「閉経後10年以内」がひとつの目安
近年の研究では、閉経後早期に開始するHRTほど利益が大きく、心血管系への悪影響も少ないことが示されています。
このため、更年期症状に悩む女性では「閉経後10年以内」「60歳未満」が治療開始のひとつの目安とされています。
ただし、年齢だけで一律に判断するものではなく、症状や健康状態に応じて個別に判断されます。
人生100年時代の女性医療として
日本人女性の平均寿命は87歳を超えています。
50歳前後で閉経した後も、人生の約40年を女性ホルモンの少ない状態で過ごすことになります。
その長い期間を、つらい症状を我慢しながら過ごす必要はありません。
HRTは若返りの治療ではありません。
失われた女性ホルモンを補い、更年期症状を改善し、骨や泌尿生殖器の健康を守りながら、その人らしい生活を支える医療です。
適切な診断と定期的な管理のもとで行えば、多くの女性にとって大きな恩恵をもたらします。
更年期は人生の終わりではなく、新たな人生のスタートです。
つらい症状を「年齢のせいだから仕方がない」と諦めるのではなく、専門医に相談し、自分に合った治療法を選択することが大切です。
HRTは、その選択肢の中でも最も科学的根拠が確立された治療法のひとつなのです。
執筆者

國見幸太郎先生
山城公園レディースクリニック 院長
徳島市の産婦人科医。
女性のライフステージに寄り添う医療を提供し、更年期医療やホルモン補充療法、フェムテック領域に注力。
予防医療の啓発や地域医療への貢献にも積極的に取り組む。
クリニック運営と並行し、講演・執筆活動を通じて正しい医療情報の発信に努めている。
山城公園レディースクリニック
http://yamashiro-park-lc.jp/

