「週末の寝だめは身体に悪い」と思い込んでいる方は少なくないかもしれません。しかし、アメリカの国民健康栄養調査(NHANES)のデータをもとにした研究では、1〜2時間程度の週末補眠は脳卒中の有病率の低下と関連していることが報告されています。本当のリスクがどこにあるのか、ここから詳しく見ていきましょう。

監修医師:
後平 泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院)
2009年に旭川医科大学医学部を卒業。循環器内科のスペシャリストとして、長年、札幌東徳洲会病院を中心に救急医療や心疾患の治療に従事。2023年には睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長を歴任し、最新技術を用いた診療体制の構築に尽力。2024年より病院長に就任し、2025年10月の「札幌もいわ徳洲会病院」への名称変更。日本循環器学会 認定循環器専門医。日本睡眠学会 総合専門医・指導医。日本スポーツ協会公認 スポーツドクター。日本内科学会 認定内科医。
休日だけの寝だめと脳卒中の前兆——本当のリスクはどこにあるか
このセクションでは、寝だめそのものではなく、その背景に潜む「慢性的な睡眠不足」と「社会的時差ぼけ」という2つの要因が、脳卒中を含む心血管リスクとどのように結びついているかを解説します。
慢性的な睡眠不足(睡眠負債)が身体に与える影響
週末に長く眠りたくなるという状態は、そもそも平日に十分な睡眠が取れていないことを意味しています。この「足りない睡眠が積み重なった状態」を、睡眠負債と呼びます。睡眠負債とは、必要な睡眠時間と実際に眠れた時間の差が蓄積された状態であり、一日や二日の休息では容易に解消されないとされています。
慢性的な睡眠不足は、身体のさまざまな機能に影響を及ぼします。自律神経のバランスが乱れやすくなり、血圧や血糖の調整機能に影響が生じる可能性があります。また、炎症に関連する物質の分泌が増加したり、血管内皮(血管の内側を覆う細胞)の働きが低下したりすることも、研究において指摘されています。
心血管疾患との関連という観点からは、慢性的な睡眠不足は血圧上昇のリスクと関連し、動脈硬化(血管が硬くなること)の進行を促す可能性があるとも考えられています。これらの変化は、脳卒中のリスクに関わる要素と重なっています。
重要なのは、これらのリスクは「週末に長く眠ること」から生じるのではなく、「平日に慢性的に眠れていないこと」から生じているという点です。週末の寝だめはその結果として現れている行動であり、原因ではありません。したがって、寝だめをやめることよりも、平日の睡眠不足を解消することの方が、健康管理の観点からはより本質的な課題と言えます。
睡眠リズムの不規則性と脳卒中リスクの関連
もう一つの重要なリスク要因が、睡眠リズムの不規則性です。平日と休日で就寝・起床の時刻が大きくずれる状態は、研究者の間で「社会的時差ぼけ」と呼ばれています。これは、海外旅行のときに経験する時差ぼけと似たような状態が、毎週末に繰り返されるようなものだとイメージすると理解しやすいかもしれません。
社会的時差ぼけの状態では、身体の内部時計(体内時計)が混乱した状態になります。本来、体内時計は一定のリズムを刻みながら、ホルモンの分泌や体温の変動、代謝の活性化などを調整しています。この調整機能が乱れると、血圧の日内変動(一日の中での血圧の上がり下がり)が不安定になり、心血管系への負荷が増す可能性があります。
研究においては、睡眠リズムの不規則性が心血管疾患との関連を示すデータが複数報告されています。この観点から考えると、「脳卒中リスクを高める可能性がある」のは、寝だめで長く眠ることそのものではなく、平日と休日で生活リズムが大幅にずれることだと整理できます。
したがって、休日の寝だめに際して意識すべきことは、「いつもより少し長く眠る」こと自体ではなく、「就寝・起床の時刻のずれをできるだけ小さく保つ」ことに焦点を当てることが、より的確なアプローチと言えるでしょう。
まとめ
休日の寝だめそのものが直ちに脳卒中を引き起こすという根拠は現時点では乏しく、適度な補眠はむしろ中立〜保護的とする研究もあります。本当のリスクは、平日の慢性的な睡眠不足(睡眠負債)と、平日・休日の就寝・起床時刻の大幅なずれ(社会的時差ぼけ)にあります。体内時計を守るためには、週末の起床時刻を平日と大きくずらさない工夫と、平日から十分な睡眠を確保する意識が重要です。気になる症状が続く場合には、内科や神経内科への相談をご検討ください。
参考文献
国立循環器病研究センター「脳卒中」
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」
- 医師が教える「理想の睡眠時間」あなたは寝不足? それとも寝すぎ? 1日8時間説の真実
──────────── - 「脳卒中の初期症状」として疑われる「手のしびれ」の特徴はご存知ですか?【医師解説】
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