歩行時、膝関節には体重の約3〜4倍もの力がかかるとされています。靴のサイズや形状が合わないと、この大きな力が膝の一部に偏って加わり続け、軟骨の摩耗が進む可能性があります。変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)は日本国内で患者さんも少なくない状態です。その進行のしくみと、靴との関係について詳しく解説します。

監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医
サイズの合わない靴と膝関節の破壊——見えないダメージの正体
サイズの合わない靴を履き続けると、歩行時のバランスや荷重のかかり方に変化が生じることがあります。その結果、膝関節の一部に負担が集中し、膝の痛みや機能低下につながる可能性があります。ここでは、靴のサイズや構造が膝関節に与える影響について詳しく解説します。
膝関節にかかる力と靴の関係
膝関節は、歩行時に体重の約3〜4倍もの力を受けるといわれています。この力がいかに大きいかは、体重60kgの方であれば歩くたびに膝に180〜240kg相当の力がかかることからもわかります。サイズや形状が足に合った靴では、歩行時の荷重が比較的均等に分散されやすくなります。一方で、サイズの合わない靴では歩行バランスが乱れ、膝関節への負担が偏る可能性があります。
たとえば、靴底(そこ)のクッションが薄すぎる靴や、サイズが小さくて足が内側に倒れやすい靴を履くと、膝が内側に入る「膝の内反(ないはん)」や外側に広がる「膝の外反(がいはん)」が起こりやすくなります。膝の内反・外反が続くと、関節の軟骨(なんこつ)が偏って摩耗(まもう)するため、将来的に変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)につながる可能性があります。
変形性膝関節症は、膝の軟骨が徐々にすり減り、骨と骨が直接接触するようになる状態です。進行すると、歩行時に強い痛みが生じ、膝が変形して正座や階段の昇降が困難になります。日本における変形性膝関節症の患者さんは、自覚症状のある人だけで推定1,000万人を超えるとされており、特に中高年の方に多く見られます。
軟骨の摩耗と膝関節破壊の進行プロセス
膝関節の軟骨は、歩行や運動の際に衝撃を吸収し、関節を滑らかに動かす重要な役割を担っています。しかし、軟骨には血管がほとんど存在しないため、一度損傷すると修復能力は限られており、加齢や繰り返される負荷による変性が徐々に進行していきます。
靴のサイズが合わないことで生じる膝への偏った負荷は、軟骨の特定部分に繰り返しストレスを与えます。初期の段階では、軟骨の表面がわずかに傷つく程度ですが、時間とともに傷が深くなり、軟骨が薄くなっていきます。軟骨が薄くなると、膝の関節腔(かんせつくう)が狭くなり、骨と骨の間のクッションが失われていきます。
この状態が進むと、骨の変形が始まります。骨の端部(たんぶ)に「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる出っ張りが形成されることもあり、これが膝の動きをさらに制限することがあります。重症化すると、歩行や階段の昇り降りが困難になることもあります。そのため膝への負担を減らすためには、体重管理や筋力維持とともに、自分の足に合った靴を選び、歩行時の荷重バランスを整えることも大切です。
まとめ
サイズの合わない靴による影響は、足の痛みや変形だけでなく、歩行バランスの乱れや膝関節への負担増加、さらには全身の姿勢や動作にも影響を及ぼす可能性があります。毎日の靴選びは、健康な歩行を長く続けるための重要な習慣です。靴のサイズが合っているかどうか、靴底の摩耗状態はどうか、試し履きをせずに購入していないかなど、今一度見直してみることをおすすめします。足や膝に痛みや違和感を感じている方は、自己判断で対処を続けるのではなく、整形外科や整形外科内の足・膝外来への相談を検討してみてください。靴は毎日使う“健康器具”ともいえる存在です。足に合った一足を選ぶことが、足・膝・腰の健康を守る第一歩になるでしょう。
参考文献
日本整形外科学会「変形性膝関節症」
日本整形外科学会「外反母趾」
国立長寿医療研究センター「ロコモティブシンドローム(ロコモ)をご存知ですか」
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
- 「巻き爪は何科」で診てもらえるかご存知ですか?治療法についても解説!【医師監修】
──────────── - 【医師解説】繰り返す足のタコ、ウオノメは病院で治療できる!? 再発予防法も聞く
──────────── - 「扁平足」の症状・原因・セルフチェック法はご存知ですか?医師が監修!
────────────

