目覚めたと同時にすぐ起き上がる——そんな習慣に、思わぬリスクが潜んでいるかもしれません。
急いで立ち上がる動作は、脳への血流を一時的に乱す可能性があります。特に高齢の方や動脈硬化が進んでいる方では、血流の調整機能が低下していることもあり、めまいや脳血管への負担につながりやすいとされています。また、冬場の温度差による血圧変動も見逃せないポイントです。布団の中での軽い手足の運動や深呼吸など、起床時の「ひと工夫」が血管を守る一歩になります。

監修医師:
伊藤 たえ(医師)
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
脳梗塞リスクを高める朝のNG行動——具体的に避けるべきこと
このセクションでは、朝の習慣の中で脳梗塞リスクを高めると考えられる具体的な行動を取り上げます。脳梗塞は突然発症する病気というイメージを持たれがちですが、その背景には長年積み重なった生活習慣や、発症当日の体の状態が深く関係しています。特に朝は、睡眠中の脱水や血圧上昇、自律神経の切り替わりなどによって血管への負担が大きくなりやすい時間帯です。
何気なく続けている朝の行動が、知らず知らずのうちに脳梗塞のリスクを高めている可能性もあります。ご自身の生活習慣と照らし合わせながら、改善できるポイントがないか確認してみましょう。
水分補給を怠る・熱いシャワーを浴びる
朝起きたときに、すぐ仕事や家事の準備に取りかかり、水分をとらないまま活動を始めてしまう方は少なくありません。しかし、脳梗塞予防という観点から見ると、この習慣には注意が必要です。
人は睡眠中にも呼吸や発汗によって水分を失っています。季節や室温によって差はありますが、一晩でコップ1〜2杯分程度の水分が失われることもあるといわれています。そのため、起床時の体は軽度の脱水状態になっている場合があり、血液も通常より濃くなりやすい状態です。
血液中の水分量が減少すると、血液の粘度(ねばり気)が高くなります。メディアなどで「血液がドロドロになった」といわれる状態で、血流が悪くなるだけでなく、血栓(血の塊)が形成されやすくなります。特に動脈硬化が進行している方や高血圧・糖尿病・脂質異常症を抱えている方では、この影響を受けやすいため注意が必要です。
さらに、朝食をとらずに活動を始めたり、コーヒーだけで済ませたりすると、水分不足が十分に補われないまま時間が経過してしまいます。利尿作用のある飲み物だけに頼るのではなく、まずは水や白湯などでしっかり水分を補給することが大切です。
起床後はコップ1杯(150〜200mL程度)の水をゆっくり飲む習慣を心がけましょう。冷たい水は胃腸に刺激を与えることがあるため、常温の水や白湯を選ぶと体への負担を抑えやすくなります。たった1杯の水でも、血液の濃縮を改善し、血流を保つための重要な一歩になります。
また、朝の入浴やシャワーの温度にも注意が必要です。
目覚めを良くするために熱いシャワーを浴びる方もいますが、42℃以上の熱いお湯は体に強い刺激を与えます。熱いお湯を浴びると交感神経が急激に活性化し、心拍数や血圧が上昇します。起床直後はもともと血圧が上がりやすい時間帯であるため、この変化が重なることで血管への負担が大きくなります。
さらに冬場は、暖かい寝室から寒い脱衣所や浴室へ移動する際に大きな温度差が生じます。この温度差によって血圧が急激に変動する現象は「ヒートショック」と呼ばれ、高齢者を中心に重大な健康被害を引き起こすことが知られています。
ヒートショックは心筋梗塞や不整脈だけでなく、脳梗塞や脳出血など脳血管障害のリスクにも関係すると考えられています。特に高血圧の方や高齢者の方は、浴室や脱衣所を事前に暖め、38〜40℃程度のぬるめのお湯を利用することが望ましいでしょう。
朝の水分補給と入浴環境の見直しは、特別な準備を必要としない一方で、脳梗塞予防に役立つ重要な生活習慣の一つです。
朝食の偏り・過度な塩分摂取
朝食の内容も、脳梗塞リスクを左右する重要な要素です。
忙しい朝は手軽に済ませられる食品を選びがちですが、その内容によっては血圧や血糖値に悪影響を及ぼし、長期的に血管の健康を損なう可能性があります。
特に注意したいのが塩分のとり過ぎです。
日本人の食生活は世界的に見ても塩分摂取量が多い傾向があるとされており、朝食にも塩分が多く含まれる食品が少なくありません。たとえば、漬物、塩鮭、梅干し、インスタント味噌汁、加工肉製品などは手軽で人気がありますが、組み合わせによっては朝食だけでかなりの塩分量になることがあります。
塩分を過剰に摂取すると、体内のナトリウム濃度が上昇し、それを薄めようとして体内に水分が保持されます。その結果、血液量が増加して血圧が上昇しやすくなります。
高血圧は脳梗塞の最大級の危険因子の一つです。長期間にわたり高血圧状態が続くと血管の内壁が傷つき、動脈硬化が進行します。硬くもろくなった血管では血栓ができやすくなり、脳梗塞の発症につながる可能性があります。
また、塩分過多の食生活は高血圧だけでなく、腎臓への負担や心血管疾患リスクの上昇にも関係するとされています。そのため、朝食ではできるだけ薄味を心がけ、野菜や果物、たんぱく質をバランスよく取り入れることが望ましいでしょう。
一方で、「朝食を抜く」という習慣にも注意が必要です。ダイエットや時間不足を理由に朝食をとらない方もいますが、長時間の空腹状態が続くと血糖値のコントロールが乱れやすくなります。特に昼食時に一気に糖質を摂取すると、血糖値が急激に上昇する「血糖スパイク」が起こりやすくなります。
血糖値が急上昇すると、血管の内皮細胞がダメージを受けやすくなり、動脈硬化を進行させる要因となります。こうした変化はすぐに自覚症状として現れるわけではありませんが、長年積み重なることで脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高める可能性があります。
理想的な朝食は、主食・主菜・副菜を組み合わせた栄養バランスのよい内容です。ご飯や全粒パンなどの炭水化物に加え、卵や魚、大豆製品などのたんぱく質、そして野菜や果物を取り入れることで、血糖値の急激な変動を抑えながらエネルギー補給を行うことができます。
朝食は単なるエネルギー補給ではなく、血管の健康を守るための重要な習慣でもあります。毎日の積み重ねが将来の脳梗塞予防につながることを意識しながら、食事内容を見直してみることが大切です。
まとめ
脳梗塞は、日常のさりげない習慣の積み重ねによってリスクが高まる疾患です。朝の起き方から食事・運動・睡眠まで、日々の行動を少し意識するだけで、脳梗塞のリスクを下げることにつながります。TIAのような前兆サインを見逃さず、定期的な検診で自分の体の状態を把握することも大切です。気になる症状がある方や持病をお持ちの方は、神経内科や内科、脳神経外科などを受診し、専門の医師に相談することをおすすめします。自分と大切な方の命を守るために、今日から一歩を踏み出してください。
参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット「脳血管疾患(脳卒中)」
国立循環器病研究センター「脳卒中」
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」
日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)」
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