色々なところで話題にのぼるマンジャロ。具体的にはどんな病気の人に処方されるものなの?ダイエットがメインの薬ではないと聞いたけれど、本当?市販で売っているものにリスクはあるの?そんな疑問について、今回は医療法人松徳会松本クリニック院長の松本和隆先生にお伺いしました。

最近、SNSやニュースで「注射するだけで簡単に痩せられる夢の薬」のように紹介される「マンジャロ」という名前を、目にする機会が増えたのではないでしょうか。
私のクリニックでも来院された方が「マンジャロって使えますか?」といきなり尋ねられる事がとても多くなり、影響力の強さを肌で感じております。
確かにマンジャロを投与した方で、食欲が減ったり体重が減ったりすることはしばしば経験いたします。
ただ、ご自身やお子さんの体重が気になるとき、いきなり「薬」を、と考えるのはおすすめしません。
健康的な体づくりの土台は、まず「毎日の生活習慣を整えること」です。バランスのよい食事、しっかりとした睡眠、適度な運動。特に睡眠不足や夜ふかしはホルモンバランスが崩れて肥満のリスクを高めることが知られています。
また、間食や朝食のとり方を見直すだけでも、体は少しずつ変わっていきます。
そのうえで、「体重の増え方が急」「健康診断で異常を指摘された」「月経が乱れている」「強いだるさがある」、あるいは反対に「痩せたい気持ちが強すぎる」と感じるときは、自己判断せず、かかりつけ医やお子さんの場合は小児科の先生に相談してください。
そのことを大前提として、今回は皆さんが気になっている「マンジャロ」について、医師の立場から順番に解説します。
マンジャロってどんな薬なの?
マンジャロ(成分名:チルゼパチド)は、もともと大人の「2型糖尿病」を治療するために開発されたお薬です。
正式な商品名は「マンジャロ皮下注」といいます。
週に1回、おなかや太ももなどに自分で打つ注射薬で、ドラッグストアで買える市販薬ではありません。
特徴は、体の中の2つのホルモン(GIPとGLP-1。どちらも血糖値を調整する助けをするホルモンです)の受け皿に同時に働きかける点です。
難しく聞こえますが、ようするに「血糖値が高いときにインスリン(血糖を下げるホルモン)の分泌を助けて血糖を下げ、同時に脳の食欲を抑え、胃の動きをゆっくりにして満腹感を長持ちさせる」薬、ということです。
その結果として、自然と食事量が減り、体重が減ることが臨床試験で確認されています。
日本人の2型糖尿病の患者さんを対象にした国内の第III相試験(SURPASS J-mono試験)では、マンジャロ投与開始から52週間(約1年)後に、最も多い用量(15mg)で血糖の指標であるHbA1c(過去1〜2か月の血糖の平均を示す数値)が約2.8%下がり、体重も平均で約10.7kg減りました。
比較に使われた別の注射薬よりも、はっきり大きな効果でした。
ここで大切なのは、マンジャロは「血糖を下げる薬」が本来の役割で、体重が減るのは『その結果として起こること』だという点です。
あえていうなら、体重減少効果はマンジャロという薬の副作用であるということです。
「痩せる可能性がある」ことと、「誰が使ってもいいダイエット薬」であることは、まったく別の話です。
実際、同じチルゼパチドでも、「肥満症」の適応症を持った治療薬としては別ブランド(ゼップバウンド)が用意されており、その対象も「BMI(体格指数:25以上が肥満と定義される。)が27以上で、関連する健康障害を2つ以上持つ者」または「BMI35以上の者」など、使用には厳しい条件が設定されています。
日本肥満学会も、健康障害のない肥満や、まして普通体重・低体重の方の美容目的には用いる薬ではない、と明言しています。
どういう病気の人に処方されるの?
基本的にマンジャロは、適切な食事療法・運動療法をしっかり行っても血糖コントロールが難しい「大人の2型糖尿病の患者さん」に対して処方されます。
インスリンの代わりになる薬ではなく、1型糖尿病の方や、重い感染症・緊急手術が必要なときなどには使えません。マンジャロの副作用で多いのは、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、食欲低下といった胃腸の不調です。
国内の試験では、用量に応じて吐き気が約12〜20%、便秘が約14〜18%、食欲減退が約14〜21%の方に見られました。つまり「食欲がなくなる」のは、薬の『都合のよい効果』ではなく、副作用と表裏一体なのです。もともと体が細い方、食事量が少ない方、ご高齢の方、体力が落ちている方では、食欲低下により体重が減りすぎて体調を崩すことがあります。
マンジャロの添付文書(薬の公式な説明書)にも、はじめのBMIが23未満の方では有効性・安全性が確認されていない、と書かれています。
さらに頻度は低いものの、低血糖(血糖が下がりすぎて倒れること)、急性膵炎(すい臓の激しい炎症)、胆のう炎・胆管炎、腸閉塞(イレウス)、アナフィラキシーなど、命に関わる重い副作用が起こることもあります。
特に糖尿病患者でインスリンや一部の飲み薬と併用すると低血糖のリスクが上がります。
マンジャロを使用していて、強い腹痛が続く、繰り返し吐く、お腹がひどく張る、といったときは要注意であり、主治医に報告する必要があります。そして、妊娠中の方、妊娠している可能性のある方には使えません。妊娠を希望する女性は、使用中と最終投与から1か月は避妊が必要です。また、ピル(経口避妊薬)の効きを弱める可能性もあります。
小児を対象とした安全性・有効性の試験は行われていません。

お医者さんに頼めば処方してもらえるの?
マンジャロは医師の処方箋が必要な医療用医薬品です。市販では買えません。
では「医師に頼めば誰でも出してもらえるか」というと、これも違います。
医師は、病気の有無、体格、持病、飲んでいる薬、妊娠の可能性、副作用のリスクなどを確認し、本当に必要かを判断する責任があります。
残念ながら最近は、一部の美容クリニックやオンライン診療で、健康保険のきかない「自由診療」として、ダイエット目的で手軽に処方されてしまうケースが増えています。
オンライン診療そのものは国が指針を定めた正式な医療ですが、国民生活センターは「痩身目的のオンライン診療で処方された薬が、実は糖尿病治療薬だった」といったトラブルへの注意を呼びかけ、痩身目的での安全性・有効性は確認されていないと明記しています。
問題は「オンラインだから悪い」のではなく、十分な診察や説明がないまま、強い薬が『手軽さ』だけで広がってしまうことにあります。
加えて、美容目的の購入が増えることで、本来治療が必要な糖尿病の患者さんに薬が行き渡らなくなるという深刻な事態も起きており、厚生労働省や日本糖尿病学会、製造元の日本イーライリリーも、適正な使用を強く呼びかけています。
なお、SNSなどで個人間に売買されているものを見かけても、これは薬機法に違反する行為で、偽物や保存状態の悪い薬による健康被害のおそれもあります。
絶対に手を出さないでください。
子どもが「使いたい」と言ってきたら使えるものなの?
結論からいうと、少なくとも日本では、子どもが美容や自己判断のダイエットのために使う薬ではありません。添付文書でも「通常、成人に」用いるとされ、小児を対象とした安全性・有効性の確認は行われていないからです。
もしお子さんが「痩せたいから使いたい」と言ってきたら、頭ごなしに否定せず、まずその背景を丁寧に聞いてあげてください。
学校健診や小児科で本当に肥満を指摘されたのか、夜ふかし・朝食抜き・運動不足・ストレス・SNSの影響はないか、あるいは反対に「痩せたい気持ち」が強すぎないか。
子どもの体格は大人のBMIだけでは評価できず、成長曲線や年齢・身長に応じた「肥満度」で見ます。日本肥満学会の小児肥満症診療ガイドラインでも、成長を妨げるような極端な減量は避け、食事・運動・行動療法を基本にするとされています。
成長期の無理なダイエットは、生理不順や骨の成長への影響など、将来にわたる健康リスクにつながります。見た目への不安が強いときは、ご家庭だけで抱え込まず、小児科や思春期外来、必要に応じて心のケアの専門家につなぐことも大切です。
そのほか、知っておいてほしいこと
ひとつはお金とリスクの話です。
美容・ダイエット目的での使用は本来の目的を外れた「適応外使用」にあたります。
万が一、重い副作用が出ても、国の「医薬品副作用被害救済制度(薬の副作用による健康被害を公的に救済する制度)」の対象にならず、医療費が全額自己負担になる可能性が高くなります。
もうひとつはリバウンドの問題です。薬で無理に食事量を落とすと、脂肪だけでなく筋肉も減り、基礎代謝(じっとしていても消費されるエネルギー)が下がります。
そのため、薬をやめて食欲が戻ったとき、以前より太りやすい体質になっていてリバウンドしやすいことが分かっています。
薬は近道に見えても、使い方を誤れば遠回りになるのです。
まとめ
一言でいえば、マンジャロは「夢のやせ薬」ではなく、大人の2型糖尿病を治療するための処方薬です。確かに体重が減ることはあり、その効果は臨床試験でも確認されています。
けれど、それは適切な患者さんに、適切な説明と管理のもとで使ってこそ意味があるものです。
特に、子ども、普通体重の方、妊娠の可能性がある方、胃腸が弱い方、持病のある方が、安易に手を出してよい薬ではありません。
ご家庭でまずできるのは、食事・睡眠・運動、そしてお子さんの成長の見守り方を整えること。
そこを超える心配があるときは、早めに医療機関に相談してください。
「簡単に痩せられる」という言葉に惑わされず、正しい知識でご家族の健康を守っていきましょう。
主な出典
PMDA(医薬品医療機器総合機構)「マンジャロ皮下注 電子添文(添付文書)」
Inagaki N, et al. SURPASS J-mono試験(日本人2型糖尿病患者を対象とした第III相試験). Lancet Diabetes & Endocrinology, 2022
Jastreboff AM, et al. チルゼパチドの肥満症試験(SURMOUNT-1). New England Journal of Medicine, 2022
日本糖尿病学会「GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解」(2023年)
日本肥満学会「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」、および「小児肥満症診療ガイドライン」
厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」、および供給・適正使用に関する各事務連絡
国民生活センター「痩身目的のオンライン診療トラブルに関する注意喚起」
日本イーライリリー「弊社製品の適正使用に関する取り組み」
※記事執筆・校閲などで生成AIを使用しています。
執筆者

松本和隆
医療法人松徳会松本クリニック院長
三重大学医学部附属病院糖尿病•内分泌内科を始めとして三重県各地の病院にて内科診療の研鑽を積んだ後、2016年より三重県松阪市で糖尿病内科・内分泌内科の専門クリニックを開設し地域密着型の診療を行っております。
日常診療では糖尿病専門医として、多数の患者に対して糖尿病の診断•治療や生活習慣病の管理に特に力を入れて取り組んでおります。
SNS等の流行を背景に、お子様やご家族が誤った知識を持たないよう、薬の本来の効果や正しい適応、安全性について医学的エビデンスを交えて分かりやすく解説いたします。
著書に「忙しい30代・40代のための糖尿病治療のトリセツ」(幻冬社)、「おいしい糖尿病レシピ」(伊勢新聞出版)があります。

