東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。焙煎士や店主たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

第24回は東京都大田区にある「Koss Coffee(コス コーヒー)」。日本やオーストラリアのカフェ、ロースタリーで経験を積んだ河原さんが、2024年11月に開業したカフェだ。特にオーストラリアの文化に影響を受け、毎日通いたくなるカフェを目指し、営業を続けている。
同店で楽しめるのは自家焙煎の豆を使ったスペシャルティコーヒー。“日常的に飲める”ことにこだわりながらも、豆ごとの個性を生かした一杯で多くのファンを魅了している。今回は開業までの経緯、理想とする店のあり方などから店の魅力を探る。

Profile|河原佑哉(かわら・ゆうや)
1990年、福井県生まれ。20歳で上京し、飲食店に勤務。バリスタの友人が淹れてくれた一杯に感銘を受け、コーヒーに目覚める。その後はコーヒーの知識と技術を学ぶため、オーストラリア・シドニーに渡り、現地のカフェやロースタリーに勤務。帰国後、東京の人気店に勤め、さらに技術を向上させるとともに店舗運営にいたるまでより深い知識を得た。2024年11月、大田区・大岡山に「Koss Coffee」を開業し、自家焙煎の豆から抽出する自慢のコーヒーを提供。
■コーヒーと出合い、海外で体感した聖地の文化

20歳で上京し、飲食店に勤めていた河原さん。コーヒーに目覚めるきっかけとなったのは友人が淹れてくれたおいしい一杯だった。
「バリスタをしている友人がコーヒーを淹れてくれて、それが驚くほどおいしかった。今まで飲んだコーヒーとの味の違いに衝撃を受け、一気に興味がわきました。同時にバリスタという仕事にも関心を持ちましたね。以前の職場は飲食店の厨房で、お客さんと会話する機会がほとんどない環境。一方、バリスタはカウンター越しに自然と人とのつながりが生まれる仕事であることを知り、魅力を感じました」

「それからというもの、いろいろなカフェを巡りました。なかでも『ABOUT LIFE COFFEE BREWERS(アバウト ライフ コーヒー ブリュワーズ)』(渋谷区道玄坂)というカフェが印象深い。お店には海外のバリスタがいて、特にオーストラリアの人が多かった。店全体が日本のカフェとは異なる、まるで本場の雰囲気で、その景色を見て『バリスタをやってみたい』と強く思うようになったんです。実はそのころ仕事に対して迷いがあった時期で、今思えばのちの方向性を決意できた、大きな転機でしたね」

とはいえ、それまでコーヒーの技術や知識はほとんどなかった。そんな彼が基礎から学ぼうと向かったのが世界的にコーヒー文化が発達したオーストラリア・シドニーだ。
「『どうせならコーヒーの本場で』と思い、オーストラリアへ。特別な確証があったわけではなく、『ダメだったらやめよう』くらいの気持ちで飛び込みました。そしていざ現地に行ってみて、まず感じたのはコーヒーが特別な嗜好品ではなく、完全に人々の日常に溶け込んだ存在であること。街のどこに行ってもカフェやロースタリーがあって、人々は当たり前のように店に入って、コーヒーを楽しむ。毎日同じ店に立ち寄る人も多く、そこではスタッフとのやりとりがごく自然で街の風景のひとつになっている、その距離の近さが強く印象に残っています」

「現地のコーヒーショップに勤め、本格的なコーヒー人生がスタート。カフェ、ロースタリーに勤務しながら、客としていろんな店に通ったり、週末にはセミナーに参加するなど、まさにコーヒー漬けの毎日。そんな日々のなかで、通っていたお店の人から声をかけてもらって、お手伝いとして働くこともありました。ちなみにそこでは豆のパッキング(包装)から始まり、徐々にサンプルロースト、のちに本格的な焙煎にも関わるように。そんな日々のなかでコーヒーを深く知れば知るほど楽しさも増えていきましたね」
「現地の有名店などいくつかのカフェ、ロースタリーに勤務しましたが、どれも人とのつながりがあったからこそ。そこでタイミングが合えば次の扉が開かれる、そんな“軽やか”なコーヒー文化もいいと思えます」

まったくの初心者からシドニーで大きく成長した河原さん。その後、シドニーから日本へ帰国したタイミングで、自身に影響を与えてくれた「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」から声がかかり、勤務することになった。そして1年半ほど経ったころ、本連載の第23回で紹介した「Switch Coffee Tokyo - Meguro」の大西さんと出会うことになる。
「大西さんからの誘いで『Switch Coffee Tokyo』に入りました。バリスタとしての仕事に加えて、新店舗の立ち上げに関わったり、さらに複数店舗の店づくりやコーヒーの味のクオリティ管理を任されたこともあり、店の運営についても深く理解できました。独立を意識しはじめたのはこのころ。『日本、オーストラリアで見てきたものを自分の店で表現したい』と考えるようになったんです」
■日常にそっと溶け込むカフェを目指して

「Switch Coffee Tokyo」に約5年勤めたあと、2024年11月に「Koss Coffee」を開業。店は大岡山駅から続く、大岡山北口商店街の通りに立っている。この場所を選んだ理由は、シンプルに街の空気感が気に入ったから。そして不思議と「ここでやれそうだ」と思えた、まさに直感のようなもの。
「このエリアは一見、人通りは多くないんですが、いざ開業してみるとさまざまな人が来てくれています。年配の人から若い人、ベビーカーを押した人、犬の散歩途中の人など、実は想像以上に多くの人たちが行き交う街。目的地として構えるというより、暮らしの導線に“自然とある店”を目指しているので、この場所がしっくりきています」

豆のラインナップはブレンド1種類、シングルオリジンが6種類前後、加えてデカフェが1種類あり、常時約8種類。産地はコロンビア、ホンジュラス、コスタリカをはじめ、ケニアやペルーなども扱うことが多いが、どれも時季ごとに入れ替わりで多種多様な豆が楽しめるようになっている。豆は味のインパクト、フレーバーの華やかな豆ももちろん魅力的だが、河原さんがセレクト基準としているのは、“飲んだあとに疲れない”ということ。

「癖が強すぎず、味や香りのバランスがよい豆を選び、シェアロースターで自家焙煎を行っています。抽出は『BEANDY Silk Dripper』を使ったハンドドリップが基本。底面がフラットなドリッパーに、カリタウェーブのペーパーを合わせています。ブレが少なく、甘さや質感を出しやすいのが特徴であり、いかに飲みやすい一杯を安定して淹れるかを重視したセレクトです」

ただコーヒーを飲むだけに留まらず、定期開催されるイベントも店の魅力となっている。そのひとつとしてカッピング会(毎週金曜11時〜※ワンドリンク制)がある。普段はなかなかできない飲み比べ体験が楽しめ、「こういう味が好きだったんだ」と新たな発見がコーヒーとの距離をぐっと縮めてくれる。河原さん自身、何気ない出合いをきっかけにコーヒーの世界に入ったひとりであるからこそ、予約不要で誰でも参加できる、敷居の低い形で実施している。

日常に溶け込む「KOSS COFFEE」には、毎日のように来る人もいて、なかには頼むメニューが決まっていて、自然と顔なじみになっていく。そこで味わうコーヒーには“映える一杯”以上の豊かさがあると感じた。

■【河原さんレコメンドのコーヒーショップは「First Crop Coffee Roastery(ファースト クロップ コーヒー ロースタリー)」】
「東京都江東区・清澄白河にある『First Crop Coffee Roastery』。店舗には大型焙煎機『ローリング スマートロースター』があり、これを借りて自家焙煎を行っています。店主の山崎恵美さんはオーストラリア・メルボルンの有名店で経験を積んだ腕利きの焙煎士。お店は卸しがメインのロースタリーですが、豆の購入やカフェ利用もできるなど一般客もウェルカムな空間。農園との関係性を大切にし、選び抜いた豆を確かな腕でクリーンに焙煎。こだわりにあふれた良質なコーヒーを身近に感じられるおすすめの一店です」(河原さん)
【「Koss Coffee」のコーヒーデータ】
●焙煎機/ローリング スマートロースター 15キロ(完全熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(BEANDY Silk Dripper)、エスプレッソマシン(マルゾッコ)
●焙煎度合い/浅〜中浅煎り
●テイクアウト/あり(500円〜)
●豆の販売/100グラム1500円〜
取材・文/GAKU(のららいと)
撮影/大野博之(FAKE.)
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