IgA腎症は初期の段階では症状が乏しい一方、病状が進むにつれてむくみや高血圧などのサインが現れることがあります。また、腎機能の低下が慢性腎臓病(CKD)へとつながるリスクも知っておくことが大切です。日常生活の中でどのような点に気をつければよいのか、セルフチェックのポイントとあわせてご紹介します。

監修医師:
田中 茂(医師)
専門は内科学・腎臓内科・血液透析・腹膜透析・臨床疫学・生物統計学
IgA腎症の原因①|免疫の異常とIgAの関係
IgA腎症という病名は、「IgA」という免疫物質が関係していることを示しています。このセクションでは、そもそもIgAとは何か、それが腎臓にどのような影響を与えるのかについて、わかりやすく解説します。
IgAとは何か|免疫の仕組みを理解する
IgA(免疫グロブリンA)は、身体が外部から侵入するウイルスや細菌などから守るために働く抗体(こうたい)の一種です。唾液(だえき)や鼻の粘膜、腸の粘膜など、外界と接する部分に多く存在し、感染を防ぐ役割を担っています。健康な身体では、IgAはその役割を果たしたのち、正常に分解・処理されます。
ところが、IgA腎症の患者さんでは、IgAの構造に異常が生じることがあります。具体的には、IgAの表面にあるアンテナのような部分(糖鎖)の構造が不完全になると、身体がこのIgAを「異物」と認識して攻撃し始めることがあります。この過程で、異常なIgAを抗原とする免疫複合体(めんえきふくごうたい)がつくられます。この免疫複合体が腎臓の糸球体に沈着(ちんちゃく)し、炎症を引き起こすのがIgA腎症の根本的な仕組みです。
この仕組みからわかるように、IgA腎症は単純な感染症や生活習慣病ではなく、免疫機能の異常が深く関与している疾患です。そのため、治療のアプローチも免疫の働きを調整することが中心になります。
糸球体への沈着が腎臓を傷つけるメカニズム
腎臓の糸球体は、毛細血管が毬(まり)のように集まった小さなフィルターのような構造物です。血液はここを通過する際にろ過され、老廃物や余分な水分が尿として排出されます。この精巧なフィルターにIgAを含む免疫複合体が沈着すると、免疫の反応として炎症が起きます。
炎症が繰り返されると、糸球体の組織が傷つき、線維化(せんいか)と呼ばれる硬化が進むことがあります。一度線維化した糸球体は元の状態に戻りにくく、腎臓のろ過能力が少しずつ失われていきます。これがIgA腎症において腎機能低下が起きる理由です。
炎症の程度は患者さんによって大きく異なります。腎臓の組織を直接調べる「腎生検(じんせいけん)」という検査によって、炎症や線維化の状態を評価し、病変の広がりや重症度を判断することができます。腎生検はIgA腎症の確定診断に不可欠な検査であり、治療方針を決めるうえでも重要な役割を果たします。
上気道感染とIgA腎症の関係
IgA腎症では、かぜや扁桃炎などの上気道感染が引き金となって症状が現れたり、悪化したりすることがあります。これは、のどの粘膜で産生されるIgAが感染により大量に分泌され、その中に構造異常のあるIgAが含まれることで、腎臓への沈着が促進されると考えられているためです。
扁桃(へんとう)との関連が特に注目されており、扁桃を切除する「扁桃摘出術(へんとうてきしゅつじゅつ)」がIgA腎症の治療の一環として行われることがあります。扁桃摘出術とステロイドパルス療法(点滴によって大量のステロイドを短期間に集中して投与する治療)を組み合わせた治療法(扁摘パルス療法)は、国内でも一定の効果が認められており、腎臓内科や耳鼻咽喉科と連携しながら進める治療の選択肢のひとつです。
まとめ
IgA腎症は、初期の段階では自覚症状がほとんどなく、健康診断で初めて発見されることが多い疾患です。免疫の異常によって腎臓の糸球体に炎症が生じ、放置すると腎機能が低下するリスクがありますが、早期に発見して適切な治療を続けることで、腎機能を長期間にわたって維持できる可能性があります。治療費については保険診療の範囲内で対応できることが多く、指定難病制度や高額療養費制度などの支援を活用することで、経済的な負担を軽減できます。気になる症状や尿検査の異常がある場合は、まず腎臓内科への受診を検討してみてください。一人で悩まず、専門の医師に相談することが、早期発見・早期対応への確かな一歩です。
参考文献
難病情報センター「IgA腎症(指定難病66)」
日本腎臓学会「IgA 腎症診療ガイドライン 2020」
日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」
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