
スマートフォンやSNSが生活のすべてとなった現代。親世代が経験したことのないスピードで、子どもたちは見知らぬ大人と簡単につながれるようになった。漫画家のグラハム子(@gura_hamuco)さんが描く新書『娘がパパ活していました』は、そんなデジタル社会の隙間に潜む「パパ活」の身近な恐怖と、それに直面した親子の心理を鋭く描き出し、SNSを中心に「決して他人事ではない」「親としてどう向き合うべきか考えさせられる」と大きな反響を呼んでいる。
昨今、犯罪被害やマインドコントロールが深刻な社会問題となるなか、今回は「コスパが良いから」と安易に足を踏み入れてしまった15歳の少女の転落と、警察からの電話で初めて真実を知った母親の動揺を紹介。現役女子高生への丁寧な取材をもとに、当事者たちの目線を偏りなく描き切った本作の背景について、作者のグラハム子さんへのインタビューを交えてお届けする。
■渋谷の私立高で感じた経済格差と、中学時代の旧友から囁かれた「コスパ最強」の選択



主人公の千紘(15歳)は、郊外から渋谷の私立女子高に進学したばかりの高校一年生。内部進学で上がってきた裕福な同級生たちに囲まれ、彼女たちのおしゃれで大人びた雰囲気に追いつこうと、ファミレスでアルバイトを始める。カラコンを入れ、まつ毛を上げるだけで垢抜けていく自分自身に楽しさを感じていた千紘だったが、ある日、中学時代の旧友にその生活を話したことで転機が訪れる。
「バイトって、コスパ悪くない?」「1時間ご飯食べるだけで1万円」「めっちゃ稼げるよ」
旧友から平然と明かされたのは、学校の2〜3割の女子が実践しているという「パパ活」の実態だった。時給千円前後の地道なアルバイトに比べ、ただ一緒に食事をするだけでその何倍もの大金が手に入るという甘い誘惑に、千紘の心は大きく揺れ動く。かつての「援助交際」が都会の一部の限られた人間のものであった時代とは異なり、現代のパパ活はスマホ一つで誰もがアクセスできる、あまりにも身近な存在となっていた。
しかし、「ご飯を食べるだけ」という都合の良い話が長く続くはずもない。グラハム子さんは「ほとんど、むしろほぼ全てと言っていいほど、パパ活男性はそれ以上のことを求めています。ご飯は“最初の入り口”なだけです」と警鐘を鳴らす。無知で純粋ゆえに大人たちの悪意を見抜けなかった千紘は、徐々に深刻なトラブルへと巻き込まれていく。
■怒り、悲しみ、自分を責める心。何度も描き直した「母のビンタ」に込められた無数の感情
本作の大きな特徴は、過ちを犯してしまう娘の視点だけでなく、それを知って苦悩する母親の視点も同等の熱量で描かれている点だ。グラハム子さんは「娘も母もそれぞれが今見えている世界を精一杯生きている、というのが伝わるように意識した」と語る。娘の目線にはかつて高校生だったころの自身の記憶を投影し、母親の目線には小学生の子を持つ現在の自分自身のリアルな恐怖を込めたという。
なかでも、グラハム子さんが特にこだわったと語るのが、警察からの連絡で娘の行為を知った母親が、千紘に対してビンタを放つ緊迫のシーンだ。
「表情や構図を何度も描き直しました。もちろん一番大きいのは怒りだけれど、怒りだけではなく、悲しさだったり、信じたくない気持ちだったり、自分を責める気持ちだったり……。さまざまな感情が入ってのビンタです」
読者からは「世の中には搾取する人間が一定数いること、自分の身体の大切さを守る術を学べる機会になってほしい」といった切実な声が寄せられている。重版出来となった『オカルト異世界ばなし』や、実体験に基づく『親に整形させられた私が母になる~エリカの場合~』など、女性の心の成長や複雑な人間関係を多角的に手がけてきたグラハム子さん。親が経験したことのない世界を生きる子どもたちへどう道を示すべきか、親子で言葉を交わすきっかけをくれる渾身の一冊だ。
取材協力:グラハム子(@gura_hamuco)
※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。製品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

