
映像化不可能と語り継がれてきた太田愛氏の傑作小説が、ついに映像化された。7月17日よりPrime Videoにて世界独占配中のドラマ「犯罪者」は、白昼の無差別殺傷事件から始まる、社会の深淵に切り込むノンストップ・クライムサスペンス。主演の高橋一生をはじめ、斎藤工、水上恒司ら豪華実力派キャストが結集。巨大な陰謀と謎が複雑に絡み合う重厚な物語に挑んだ3人の中から、斎藤工と水上恒司にインタビューを実施。撮影現場で彼らが肌で感じた圧倒的な熱量、そして本作に懸けた心の内を語ってもらった。
■「映像化不可能」な難解さに挑む、ストリーミング時代の挑戦
――まずは本作の脚本を読んで感じたことをお聞かせください
斎藤:太田先生は、社会の縮図から起こり得る犯罪というテーマに非常に強い関心を持たれていました。出版の予定もなく、純粋な好奇心だけで7年の歳月をかけて執筆されたそうです。物語の構造が非常に複雑で、一筋縄ではいかない難解さがあるため、あえて「映像化できないものを書いてやろう」という意図もあったようですね。
色々な事情が絡む枠組みでは描くことが難しい作品ですが、今のストリーミング時代だからこそ、この密度と難解さをそのままに映像化できたのだと思います。この絶妙なタイミングで作品に出会えたことは、プロジェクトにとっても、そして我々出演者にとっても非常にありがたいことだと感じています。
水上:斎藤さんが難しいと感じる作品ですので、僕が解読するにも時間がかかりますし、解像度もまだ高くないと思います。物語には3つの軸がありますが、僕はその中の一つの軸の3人のうちの1人として、高橋(一生)さん、斎藤さんと僕が演じる役の関係性だけを考えるようにしていました。
作品全体のメッセージ性は原作者の太田先生や脚本の櫻井(武晴)先生に委ねて、自分はこの3人の中でどう立ち回れるか、作品という大きな仕組みの中の部品としてどう存在できるかを意識しましたし、ぜひやりたいと感じました。
――監督が演者に「引き算」を求めたそうですが、現場ではどのようなやり取りがあったのでしょうか
斎藤:現場でというより、現場に入るまでに、松永(大司)監督が時間を設けてくださいました。そこで、今までの前例が全く必要ない、むしろ邪魔になるということが分かってきました。俳優はつい「用意、スタート」で演技のスイッチを入れてしまいますが、普段のトーンの方が魅力的というか、生きた人としての音やトーンがある。「演技のための演技」ではなく、「そこに生きる」ことが求められました。リハーサルをずっとやっていただいて、それが「引き算」という表現に繋がっていたのだと思います。
水上:僕は役者を始めて10年近くになりますが、このやり方は非常に新しいと感じました。テレビドラマは音(セリフ)で情報を伝えることが多いですが、今回はその真逆を行く。画面にずっと引きつけ続けなければ成立しない作品ですので、松永監督だからこそできたことだと思います。引き算という表現は勇気がいることだと認識が変わりました。

■斎藤工と水上恒司が手にした「自分を活かす」ための新基準
――お互いの共演が決まった際の印象と、実際に対峙してからの印象を教えてください
斎藤:高橋さんは、以前、松永監督の作品でご一緒して以来、僕にとって不思議で唯一無二の存在です。水上さんに関しては、今回の作品で彼が役に向き合うプロセスを間近で見ながら、「この役は彼にしかできない、代わりの利かないお芝居をする人だ」と確信し、その姿に自分を重ねながら撮影に挑んでいました。
年齢差はありますが、現場ではエチュード(即興演技)の時間も含め、単なる共演者という枠を超えて「一人の人間」として深く向き合えたと感じています。実は、撮影中に僕のミスで現場を止めてしまったことがあったのですが、その時も彼らが寄り添ってくれて……。まさに「一蓮托生」で共に闘い抜いた、かけがえのない特別な仲間になれました。
水上:恐れ多いですが、高橋さんと斎藤さん、お二人の深く落ちたところから響く声質は、以前から僕が役者として目指したい理想形でした。だからこそ、現場ではお二人の背中を見て、どういう声色でいればこの物語のなかで関係性がより面白くなるかを常に考えていました。
特に撮影中、松永監督が表現されていた「重力」という言葉通り、斎藤さんがスッと重心を落として自然体に会話される姿には、ただただ圧倒されました。あの重力を伴った説得力は、一朝一夕には出せるものではありません。お二人と同じ空間で芝居をさせていただけたことは、本当に素晴らしい経験でした。
――4カ月間に及ぶ過酷な現場を通じて、俳優としてどんなものを得ることができましたか
斎藤:現場の文法として、オンの時に「普段のオフのトーン」をいかに使うかという感覚が明確に変わりました。自分の素材を一番活かせるトーンは普段の生活にたくさん落ちている、ということに気づけたのは大きな収穫でした。また、耐え忍ぶことよりも、素直に「しんどい」「厳しい」という自分の感情に耳を傾けることの大切さも学びましたね。自分の限界を見極め、「無理をしない」という選択肢を持つことも、表現を続ける上での強さだと感じています。
水上:斎藤さんのお話は、積み上げてきた膨大な経験データがあるからこそ判断できることだと思います。僕はまだ経験が少ないので、まずは「とりあえずやってみる」という姿勢でいます。命に危険が及ばない範囲であれば、予測を立てて挑戦してみる。今回の現場で味わった未知の挑戦や、過酷な経験そのものが、これからの自分にとって大事な糧になると信じています。
――最後に、読者の方へ見どころをお願いします
斎藤:太田先生の「映像化できないものを作ってやろう」という試みが、このストリーミングの時代に条件が整って映像化できました。時代が作品に追いついた、今しか起こり得ない映像体験だと思います。
水上:構成も構図も難しい作品が、松永監督の編集によってどう仕上がっているのか。僕自身も一視聴者として、完成版を楽しみにしています。



