一見すると順調な拡大路線に見えるが、この「13万DL」という数字、そして街を巻き込んだプロモーションの仕組みは、実際のところどう機能していくのだろうか。客観的な視点からその現在地をひもといていく。

■13万DLとイベント参加7000人という数字の現実味
世の中に数百万〜数千万DLを誇るアプリがあふれている現状を考えると、「13万DL」という響き自体にそれほど大きなインパクトはない。ただ、このアプリがターゲットにしているのは「広域渋谷圏(渋谷駅から半径2.5キロ)」という限定的なエリアだ。
また、特筆すべきは13万DLに対して「リアルイベントへの参加者が延べ7000人以上」という点だ。一般的なアプリの多くがダウンロード後に放置・削除されるなか、実際に街のアクションへ結びついた割合としては比較的高いといえる。
20代〜50代の男女1000名を対象にしたアンケートと、SHIBUYA MABLsアプリ利用者1019名を対象にした調査では、一般の回答者の約6割が「人とのつながりの薄さ」に不安や寂しさを感じている一方、アプリ利用者の約半数(45.1%)が「気軽に交流できる仲間」に出会えたと回答している。現代特有の「ゆるいつながり」を求める層の受け皿として、一定の機能を果たしているのは事実のようだ。


■2026年春、桜丘にリアル拠点を設置。その狙いと課題
この動きをさらに定着させるため、2026年春、再開発が予定されている「ネクスト渋谷桜丘地区」の暫定施設(サクラブルーム内)に、初の常設スペースがオープンした。
運営チームが常駐し、ユーザーが立ち寄れる場を設けることで、偶発的な出会いや新たな企画の創出を狙うという。ただし、再開発着工までの「暫定施設」という位置づけであり、これが一過性の集まりで終わるのか、持続的なコミュニティとして機能し続けるのかは、未定。

■街をメディア化する「渋谷まるごとコネクト」の実験
コミュニティの基盤が整った段階で、東急不動産が仕掛けてきたのが、企業向けの年間パートナー制度「渋谷まるごとコネクト」だ。

これは、渋谷の飲食店でのサンプリングや店頭POP、街なかのデジタルサイネージ、そしてMABLsアプリ内の口コミなどを連動させ、街全体を1つの広告メディアとして活用する試みである。特定の熱量を持ったコミュニティに直接アプローチできる点が、企業側のメリットとされている。


2026年7月からは花王との年間プロジェクトが始動。今夏の企画対象ブランドとして「melt」「THE ANSWER」「MEMEME」がコラボ対象ブランドに選ばれている。
2026年7月2日から7月21日(火)まで、渋谷エリアの飲食店16店舗や街頭と連動した企画「pick pick city(ピックピック シティ)」が開催されている。期間中は、街なかで配布されるサンプル付きの「うちわ」を3つ集めることでフルボトルのシャンプーとリンスが先着600人限定でもらえる。


■現地を歩いて見えた、プロモーションの二層構造
実際に期間中の渋谷の街を歩いてみると、街頭のサイネージ広告はほかの広告と順繰りに放映されているため、街の景観のノイズになるような押し付けがましさはなかった。またプレゼント施策で連動している店舗にもお邪魔したが、おしゃれなお店が、にこやかながらごく普通のテンションでキャンペーンに参加していた。この適度な「距離感」のあるプロモーションは好印象。


ここで重要なのは、このプロモーションに対する受け止め方が、アプリのコミュニティ内部にいる人と、そうではない一般の来街者とで大きく分かれるであろう点だ。非アプリユーザーにとっては「何かやっているな」「こんな商品あるんだな」となる。アプリユーザーはコミュニティ内で、知人の参加状況が可視化されているので、一度何らかの感情を動かされている状況でプロモーションと対峙することになる。
■渋谷発のコミュニティマーケティングはサステナブルな風景になれるか
今回、「渋谷」という都市において、感情を動かすコミュニティの地層が作られ、そのインフラを活用したビジネスモデルが回り始めていることが確認できた。
これが単なる一過性の企業プロモーションで終わるのか、それとも新しい都市型マーケティングの形として定着していくのかは未知数だが、これまで可視化されづらかった「都市におけるコミュニティ」をデータ化し、企業のプロモーションに組み込んだ座組み自体は非常に興味深い。一過性のイベント祭りとして消費されてしまうのか、それとも渋谷という街の「日常の風景」として自然にサステナブルな形で溶け込んでいくのか。都市と企業、そして生活者を結ぶ新たな試みの行く末を見守りたい。
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