認知症の患者さんが抱える食事の課題と食べ方の工夫、食生活の注意点を解説

認知症の患者さんが抱える食事の課題と食べ方の工夫、食生活の注意点を解説

食事の用意が難しいときの対処法

食事の用意が難しいときの対処法

毎日の調理や献立づくりは、介護する家族にとって大きな負担となることがあります。認知症の患者さんの食事は、やわらかさや見た目、栄養バランスなどにも気を配る必要があるため、すべてを家庭で賄おうとすると無理が生じがちです。そのようなときには、外部の資源や市販の食品をうまく活用することで、栄養状態を保ちながら負担を軽減できます。

近年は、市販の介護食が普及しつつあり、選択肢も広がっています。農林水産省が推進するスマイルケア食は、かむことや飲み込むことが難しくなった方や低栄養になりやすい方を対象とした新しい共通ブランドで、容易にかめる食品から、舌や歯茎でつぶせる食品、かまなくても食べられる食品まで、段階に応じて分類されています。スーパーやドラッグストア、インターネット通販でも入手でき、在宅介護の現場で広く利用されています。
おいしさや食べやすさに配慮しながら、見た目にも工夫されている商品が多く、家庭でも取り入れやすい形になっています。こうしたレトルトや冷凍タイプの介護食を活用することで、調理の手間を減らしつつ、必要な栄養を摂取できます。

また、民間の宅配弁当サービスや、自治体が行っている配食支援を利用するのも有効です。栄養士が監修した高齢の方向けの弁当は、カロリーや塩分量が調整されており、栄養バランスがとりやすいよう設計されています。定期的に栄養バランスのとれた食事が届く仕組みは、家庭の負担を軽減しつつ、継続的な栄養管理を支える手段です。
自治体の配食サービスでは、在宅で暮らす単身で暮らす高齢の方や高齢の方のみの世帯が対象とされることが多く、利用回数や費用(一食あたり数百円程度)は地域ごとに異なります。利用を検討する際には、地域包括支援センターや役所の窓口、ホームページなどで条件や料金を確認しておくとよいでしょう。

さらに、食欲が落ちて主食や副菜が十分に食べられないときには、栄養補助食品を取り入れる方法もあります。飲料タイプの栄養ドリンクやゼリー、エネルギーバーなどは、少量でもエネルギーやタンパク質を効率よく補給できます。ヨーグルト、チーズ、ナッツなどの軽食をこまめに取り入れることも、1日の摂取量を確保する工夫です。

参照:
『スマイルケア食の取組について』(農林水産省)
『スマイルケア食の選び方』(農林水産省)
『食の自立支援事業(配食サービス)』(宇都宮市)

まとめ

まとめ

食事は栄養を補うだけでなく、生活のリズムや楽しみを支える営みです。
しかし、認知症の方は、認知機能の低下や嚥下障害、心理的要因、味覚や嗅覚の変化によって、食事にさまざまな課題を抱えていることがあります。そのことを認識し、楽しく食事するためのポイントを心がけることで、食事はより豊かな時間に変えることができます。
調理や盛り付け、環境づくりに配慮しつつ、本人の好みを尊重しながら、栄養バランスのよい食生活を続けていきましょう。市販の介護食や宅配サービスの活用も、負担を軽減しながら食事を続けるために役立ちます。適切な知識と小さな工夫の積み重ねが、食事の質を高め、本人と介護する方の双方にとって、よりよい食の時間につながります。

参考文献

『認知症診療ガイドライン2017』(日本神経学会) 『All Is Not Lost: Positive Behaviors in Alzheimer’s Disease and Behavioral-Variant Frontotemporal Dementia with Disease Severity』(J Alzheimers Dis) 『Nutrition and dementia: a review of available research』(Alzheimer’s Disease International) 『認知症予防のための食事とは』(公益財団法人長寿科学振興財団健康長寿ネット) 『地中海食の特徴』(公益財団法人長寿科学振興財団健康長寿ネット) 『Dementia and Nutrition』(VA Health Care) 『Eating well: supporting older people with dementia Practical guide』(Caroline Walker Trust) この記事を書いた人 林 良典

出身大学 名古屋市立大学 / 経歴東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職 / 資格医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、禁煙サポーター / 診療科目総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科

配信元: Medical DOC

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