ノンアルがうますぎて
酔っ払ってる暇がない

カクテルの主役は、フレッシュな果実や野菜。素材の青みや芳醇な香りを活かしながら、スパイスやハーブで雑味を足し引き。多層的な味わいはまさに「大人のジュース」
地元福岡県で百余年続く居酒屋に生まれ育った、こがけんさん。さぞ酒好きかと思えば、今やすっかりノンアルライフを満喫中だと言います。
こがけん 9年前までは毎日お酒を飲んでいました。でも妻が妊娠して、一緒に飲めないなら辞めようとノンアルに。そしたら眠くならないし、体もしんどくなくて、めちゃめちゃいいじゃんって。元々1人で飲むよりは、誰かと飲むことに楽しみを見いだすタイプの酒好きだったので、相手に歩幅を合わせる方が楽しく思えたんですよね。今は毎晩ノンアルビールを2人で飲んでます。正直、今のノンアルビールはかなり進化してますよ。昔はおいしくないイメージがありましたが、今や普通のビールと変わらないものもある。うちでは何種類もストックして、その日の料理に合わせて飲み替えています。とはいえ、今日作っていただいたカクテルはまったく別格ですね。ひと口飲んだ瞬間、味の奥にある膨大な量の仕込みが頭に浮かびました。
赤坂 さすが、元板前さんらしいコメント(笑)。恐縮です。

上/味や香りが綿密に設計されたノンアルカクテル 下/ノンアルカクテルを嗜むこがけんさん
こがけん だってね、この透明な液体の中にすいかとメロンときゅうりが入ってるわけでしょう? しかも、それぞれのいいところが凝縮されている。構成で言えばミックスジュースと同じなのに、まったく違う。複雑で繊細な味がしました。
赤坂 僕の作るノンアルカクテルは、クリアな見た目のものが多いんです。一見すっきりしているのに、飲むといろんな味がする。そういうギャップを意識しています。そもそもノンアルドリンクには明確な定義がないので、飲んだときにソフトドリンクとの違いを感じてもらえるような、味や香りの設計こそ大事ですね。
こがけん その心意気が、この1杯からめちゃくちゃ伝わりました。アルコールってそれ自体が発酵しているから、複雑な味わいじゃないですか。対してノンアルドリンクは「複雑さ」を人工的に作らないといけない。より職人技が必要なんだなと。もはや飲み物というより料理のようだと感じました。
飲んでも、飲まなくても
“酔い夜”はそこに在る

わさび菜のジュースに、大葉の香りを移し、爽やかな煎茶をブレンドした「わさび菜トニック」
こがけん 実家が居酒屋なので、酒飲み文化には昔からなじみがありました。うちの店は昼の11時からやっていて、その時間に居る常連客は、ビールじゃなく日本酒を飲むんです。しかも「特撰」ではない、「上撰」というBランクのやつを。独特の空気がありましたね。そういう場を楽しむ気持ちは変わっていないから、今も居酒屋のカウンターで、1人ノンアルビールを飲みながら食事をすることがあります。酒に合う料理はうまいんです。ちなみにバーに関しては、ノンアル派になってから楽しさに目覚めました。オールドスタイルの、バッチバチのスーツで身を固めて行くようなバーが好きです。そういう所ではフレッシュフルーツを使ったカクテルをノンアルでも頼めて、ずらりと並んだ果物の中から、好みのものを目の前で搾ってくれる。それを眺める体験自体がもう、特別です。
赤坂 僕がカクテルにハマったきっかけもバーでした。さまざまな素材や製法を掛け合わせて作る、技術とアイデアが詰まった「クラフト」と言われるスタイルの奥深さに惹かれたんです。ただ、自分自身もお酒の味が好きだけれど沢山は飲めない体質で。車の運転や運動をするとき、仕事がまだ残っているときなど、誰にでもいろいろな事情でアルコールが楽しめないシーンはあると思ったんです。そういうときに炭酸やお茶だけじゃない選択肢が増えるとハッピーなんじゃないかと、ノンアルカクテルを作り始めました。リキュールやスピリッツが入らない分、味のベースになるものがないので、一から構築する難しさもありますが、自由に作れるおもしろさもありますね。

ノンアルコールカクテル専門の事業・Bar Strawを主宰する赤坂さん
こがけん この間出張で同期の芸人と長野に行ったんですが、近くにいいバーを見つけて入ったんです。お互いノンアルでなん杯も飲んで、すっかり気分がよくなって。すると向こうが、今付き合ってる子の話なんかを始めたんです。普段は恋バナなんてしないんですよ、あいつは。ノンアルでも、確実に酔っていました。僕も昔はよく酔っ払ってましたから、いつでも当時の周波数に合わせられます。いい空間は、アルコールの有無に関係なく楽しい。ノンアルドリンクは、シラフが酔える居場所を作ってくれたありがたい存在です。
赤坂 酔っていなくても酔えるという感覚がわかる方、実は多いんじゃないですかね。経験上、いいバーや居酒屋ほどお酒が飲めない人にも寛容で、いいノンアルを揃えているとも感じますし、そういう空間は居るだけで満たされますよね。

すいか、メロン、きゅうりの果汁に牛乳を加え乳成分を分離させた「ミルクパンチ」製法の「瓜三兄弟パンチ」
こがけん 今は芸人の世界でも、お酒を強要されるような飲み会はなくなりました。そもそも「飲め」って言われるような状況自体が楽しくないじゃないですか。そのストレスがない飲み会は、シラフでも楽しいです。僕は昔から飲むとすぐに眠くなっちゃうタイプで、なにもできなくなるから、仕事が忙しくなるほどお酒が飲めなかったんですね。今はそれを気にせず参加できるようになりました。あと、昔から飲んだ後に映画を観るのが好きだったんですけど、悲しいかなアルコールの入った頭で観ても翌朝まったく覚えてなくて(笑)。その点ノンアルならゆっくり映画が楽しめます。酔っ払うのが心地いい日もありますが、シラフで、この時間を損なわずに享受したいという日もあります。今も月に一度くらいは、前後の予定を逆算して、どうなっても大丈夫っていう日にはお酒を飲みますよ。たまに飲むお酒はやっぱりうまいですし、たまにだからこそ、よりうまく感じる。僕はグルテンフリーも取り入れてるんですが、同じような感覚で、オンオフのメリハリをつけながらやっていくのが合っていますね。
赤坂 こがけんさんみたいに、自分のペースでアルコールと付き合えたらいいですよね。僕は職業柄飲む機会も多いですが、間にいったんカフェラテを挟むと調子がよくなるんです。3杯立て続けに飲んだ日に、最後1杯はノンアルにしておくと帰り道が断然楽になるなとか、この後どうしてもメールを返さなきゃならないから、いったんノンアル挟んでおこうとか。飲む飲まないを厳密に決めるんじゃなく、その日のその人にとっての状態が豊かであれば、アルコールとノンアルのハイブリッドでもいいと思うんですよね。

「ノンアルこそ、大人の嗜みですよ」
こがけん フレンチでいう、間に出てくるソルベみたいなね。口直しの選択肢にこんなノンアルカクテルがあれば、それこそ場がぐんと豊かになると思います。今までノンアルに興味がなかった人にも1回飲んでみてほしい。これを目的にバーに行ってもいいと思えるぐらいのものが今はあるよって伝えたい。この1杯なら僕は2,000円だって喜んで出せます。
赤坂 そう言ってもらえると嬉しいです。でも、実際にはまだそこまで社会のノンアルに対する価値観が育っていないというのが、僕らの課題ですね。アルコールが入っていることじゃなく、味わいに価値を感じてほしい。食文化の多様性を広げて、楽しめる選択肢を増やすためにも、ノンアルカクテルに触れられる機会をもっと増やしていきたいです。
こがけん 今が過渡期なんじゃないですかね。僕はノンアルが定着するのは近い未来だと思っています。クラフトコーラだって、コンビニで買える時代がくるなんて思っていなかったですから。そもそも「ノンアル」っていう響きがよくないですよね。ノンという否定から始まるのが。これがポジティブな名前に変わったときに、もっと広く受け入れられる時代がくるのかな。
赤坂 本当ですね。僕もそのためにがんばります。こがけんさん、今度米粉パンをつまみにノンアルが楽しめるレストランへ行きましょう。
こがけん いいですね。LINE交換しましょう。なんだか楽しくなってきちゃった。僕、もしかして酔っ払ってますか?
こがけん
お笑い芸人。洋楽ロックの歌ネタや、映画の細かい描写を伝えるモノマネなど、趣味を活かした芸風が人気。実家は創業百年超えの居酒屋「古賀久」を営み、自身も板前修業経験がある料理好き
赤坂真知
バーテンダー。2019年より実店舗を持たないノンアルコールカクテル専門の事業・Bar Strawを主宰。イベント企画や出店、レストランや企業と共同のメニュー開発などを手がける
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