
現在放送中のドラマ「さよならノワール」(毎週火曜夜9:00-9:54、フジテレビ系/FODほかにて配信)は、今まであまり描かれることのなかった“犯罪被害者支援室”にスポットを当てた警察ヒューマンドラマ。そんな本作で、「犯罪被害者支援室」で働く主人公・黒木夏海を演じているのは小池栄子。今まで演じてきた役とは違う夏海という役への向き合い方や、犯罪被害者支援室の仕事について感じたことなどを、小池に語ってもらった。
■演じていて“気持ちを持っていかれる”「本当に大変な仕事だなとより痛感した」
――ドラマ「さよならノワール」で、警察の中に「犯罪被害者支援室」という部署があるというのを初めて知りました。
私もです。実際にこういう部署があるときいて、自分でも調べてみて、「いろいろな地域にあるんだ」とか、「刑事から異動することもあるんだ」とか、そのくらいの前提知識から入りました。
――実際に演じてみて「考えていたのと違う」と感じた部分はありましたか。
すごく繊細な仕事だと実感しました。もっと形式的で、事務的な手続きをする部署なのかと思っていたら、被害者にとことん寄り添うんです。(物語の中でも)こちらの話を聞いてもらうまでに時間がかかる方もいれば、まったく喋ってくれない方もいる。人に心を開けなくなってしまった方に、そこまで向き合うんだ…というのが印象的でした。実際には私が演じた夏海のように、被害者の自宅に上がり込むことはないそうですが、そのくらいの“寄り添い”をするんですよね。
だから演じていると、気持ちが持っていかれてしまうこともあります。撮影の日々がつらくなってきて、共演している北香那さんとも「引っ張られちゃうよね」「こういう方たちはどうやって気持ちを維持しているんだろうね」と話し合ったり。撮影を通して、本当に大変な仕事だなとより痛感しました。
――ネガティブな感情と向き合い続ける仕事ですものね。
はい。しかも今は言葉の発信ひとつとっても世の中が厳しくなっているので、支援室が発足した当時よりもケアしなければいけない部分が増えていると思いますし、中途半端にはできない仕事だと思います。
■今回は“修行のような感じ”「勢いや元気さで押し切れない」
――小池さんが演じる黒木夏海は、警視庁西池袋署・犯罪被害者支援室所属の警部補。暴力団対策係から異動してきた元刑事です。夏海は、どのように仕事に向き合っていると感じていますか。
ある程度距離を保ちながら、相手が立ち上がれるようになるまでを見守るタイプ…かな。夏海のセリフに「これ以上血を流さないために、ただ止血をする」という言葉があるのですが、私が役に行き詰まるたびに、監督がその言葉を言ってくれるんです。「とにかく止血なんだ、応急処置なんだ、救急救命なんだよ」って。そこをすごく大切にしている人なんだと思います。
――「止血」のセリフは第1話から出てきますよね。台本の中に「日本は被害者よりも加害者の方が強く守られている」というセリフがあり、印象に残っています。このセリフについてどう感じましたか。
ニュースを見ていて、それは思いますね。新たな法律ができない限り、変わらないのかもしれない。この間もある番組で、被害者のお母さんが「被害者が関われる段階が少なすぎる」と話していました。裁判でも加害者側は反省の弁を述べる機会があるのに、被害者側が無念を語れるのは一度きり…と。それを見て「なんでなんだろう」と思ったけど、法律がそうである以上は、変わらない。無念だろうな、悔しいだろうなと思います。
――改めて世の中のことを知ることになる作品ですが、知らなかった世界を演じるって大変ですよね。
そうですね。「なんでこうするの?」「なんでこう言うの?」と自分の役に疑問を持つこともでてきます。でも脚本の井上由美子先生が、私たちが「なぜ?」と感じた部分を監督やプロデューサーを通じて拾い上げてくださるので、納得できます。私を含め、そういう疑問を持つ演者がたくさん集まっていた現場で、みんな疑問点をよく話し合っていました。
――ということは…、現場で変わっていくこともある?
はい。井上先生は、実際に演じている役者が、登場人物の気持ちを一番分かっていると考えてくださったんだと思います。私たちから「この人物なら、こう言うんじゃないか」という意見が出ると「その言葉に変えましょう」と柔軟に対応してくださいます。感謝すべきことですよね。
――夏海という人物も、演じながら変わっていっていますか。
少しずつですね。監督は「そんなにすぐ変わるものじゃないよ、人って」と言ってくださいます。ドラマだと急激に人間関係が変わる“あるある”があるけど、監督はそれをとにかく嫌う方なんです(笑)。何事もなかったかのように急に仲良くなったり、外を向いていた人たちが急に一つの共通点を見つけて一致団結したりするのを「それって少しダサくない?」と常々おっしゃっていて。
演じる側としては、“あるある”ですっきりまとまることもあるから、「この感じで、視聴者の皆さんにどう伝わるんだろう」と不安になっちゃうときもあります。ぐっと一気に飛ぶのではなく、動きたいけれど動けない…、という感情を今回は求められました。そういう表現にチャレンジできたのは良かったです。
同じ河毛俊作監督のドラマ「新宿野戦病院」のヨウコ・ニシ・フリーマンの方が「やりやすかった」と監督とも話しました(笑)。ヨウコは、分からなくても飛べる人だから。夏海とは真逆なんです。私って飛んじゃう役が多かったから、今回は、勢いや元気さで押し切れない、“修行”のような感じです。
■バディの北香那が頼りに「脚本を読む力がすごい」
――2026年の今、「犯罪被害者支援室」というものを描く意義は、どこにあると思いますか。
犯罪被害者の範囲がどこまでか区切るのも難しいし、SNSを見ていると、発信者が発した言葉で知らぬ間に誰かを傷つけて犯罪加害者になってしまうかもしれないと思うことも多い。100人に1人くらいはそのことに気づいて、自分を見つめ直すきっかけになったらいいなと思っています。
――本作の制作が発表された際に、「迷っている人のヒントになれば」とおっしゃっていましたが、ご自身が迷ったときはどうされていますか。
いろいろな人に聞くし、頼ります。今回、北香那さんにすごく頼らせてもらいました。1聞くと10くらいの案を返してくれるんです。脚本を読む力がすごくて、「このシーンはそういう意味合いで読めるんだ」と気づかされる。だから、分からないものは素直に聞けばいい…、と思っています。
――北香那さんは、派遣職員として西池袋署にやってきた心理学者・白石絵梨子を演じています。夏海と絵梨子と同じく、年下ながら頼りになるバディなんですね。
はい。北さんの人生の話をきくと、いろいろなことを経験されてきている。でもそれが決して無駄ではなく、人を助けられる経験になっているんだなと感じます。
――コミュニケーションが苦手で、人に頼ることができない人も多いじゃないですか。小池さんはコミュニケーション能力が高く、誰とでも仲良くなれる印象がありますが、その秘訣は何なんでしょう。
ぜんぜんそんなことないんですよ。仕事柄いろんな人と話しますが、普段の生活はほぼ同じ場所を回っていて、新規開拓もあまりしません。一緒に過ごすメンバーもほとんど変わらないし、意外と狭い範囲で生きています(笑)。
秘訣があるとすれば、面白がることだと思います。番組の企画などで自分とまったく違うタイプの方とお会いするけれど、それを面白がれるようになってから、すごく楽になったし、楽しくなりました。
――バディ役の北香那さんも、今までにないタイプだったから面白かったのでは?
そうですね、どこか野生っぽい。嗅覚が鋭くて、危険を回避する能力も高いのに、美味しそうな匂いがすると気づいたら走って行ってしまいそうな掴みどころのないところもあって。そこがすごく面白いです。本能タイプですから(笑)。
■今の癒しは“愛犬”
――幅広い役柄を演じる小池さんですが、役に寄り添う秘訣はありますか。
自分の中では役の幅は、むしろ狭いと思っているんです。年齢を重ねると来る役がなんとなく似てくるものですが、同じにはしたくないという気持ちはいつもあります。もちろん脚本家が違えば似て非なるものになるので、その違いを見つけることも楽しいのですが。
どうしても理解できない部分は、「この役はこういう人なんだ」と、無理にでも自分を納得させます。自分の気持ちだけでその役を追っていくと、結局似たようなラインに落ち着いてしまう。だから「私には全く理解できない」という気持ちも、あえてその役の肉付けにしてしまう。そうすることで、出来上がったときに少し違った表現になるんじゃないかと信じてやっています。
――犯罪被害者支援室の2人は、傷ついた人の心を癒す側面もあります。小池さんご自身の今の“癒やし”は何ですか。
愛犬です。毎日お散歩に行って、「かわいいね」と話しかけています。会えないときは、旦那さんに動画を送ってもらったり。旦那さんと同棲を始めたときに猫を飼い始めて、今までに2匹を見送りました。そのあと旦那さんのロスが長く続いて、5年半経ってようやく犬を迎えることができました。今は、母子2匹がいます。
ずっと猫と一緒だったから、旦那さんとはずっと猫を介してしか会話をしていなかったことに気づいたんですよ。猫を亡くしてからの5年半は、「何を話せばいいの?」状態(笑)。今は、「もしこの子たちを失ったら、熟年離婚するんじゃないか」と怖くなるくらい(笑)。
――まさにペットが“鎹(かすがい)”ですね。
本当にそうです。愛犬たちには、「長生きしてね」といつも言っています。
◆取材・文=坂本ゆかり

