スヌーズ機能を繰り返し使うと、脳がどのような状態に置かれるのかをご存じでしょうか。人の睡眠は約90分を1サイクルとして、深い眠りと浅い眠りが交互に繰り返されています。5〜10分間隔のスヌーズは、このサイクルに比べてとても短い時間です。中途半端な眠りと急な覚醒が繰り返されることで、脳は十分な休息を得られないまま活動を強いられることになります。

監修医師:
後平 泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院)
2009年に旭川医科大学医学部を卒業。循環器内科のスペシャリストとして、長年、札幌東徳洲会病院を中心に救急医療や心疾患の治療に従事。2023年には睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長を歴任し、最新技術を用いた診療体制の構築に尽力。2024年より病院長に就任し、2025年10月の「札幌もいわ徳洲会病院」への名称変更。日本循環器学会 認定循環器専門医。日本睡眠学会 総合専門医・指導医。日本スポーツ協会公認 スポーツドクター。日本内科学会 認定内科医。
スヌーズ習慣が慢性的な脳疲労を招くメカニズム
このセクションでは、スヌーズ機能の使用が長期にわたることで、慢性的な脳疲労がどのように形成されるのかを具体的に説明します。1日だけの問題ではなく、習慣化することで身体に蓄積される影響について理解することが大切です。
睡眠の質の低下が積み重なる過程
スヌーズ機能を毎朝使い続けると、睡眠の質が徐々に低下していく可能性があります。多くの方は「あと5分だけ眠れる」「少しでも長く眠ったほうが身体が休まる」と考えがちですが、実際にはスヌーズによって睡眠が細切れになることで、脳や身体が十分な休息を得られなくなることがあります。最初のうちは「少し長く眠れた気がする」と感じるかもしれませんが、その睡眠は質の高い睡眠とは言えず、脳にとっては何度も起こされることで休息が妨げられている状態です。
睡眠中、脳は深い睡眠と浅い睡眠を繰り返しながら疲労回復を行っています。特に深い睡眠は、脳や身体のメンテナンスに重要な役割を果たしており、記憶の整理や疲労回復、ホルモン分泌の調整などが行われます。しかし、スヌーズによって何度もアラーム音で目覚めると、本来継続して行われるはずの睡眠サイクルが中断され、深い睡眠へ十分に移行できなくなることがあります。その結果、眠っていた時間の長さに対して疲労回復の効率が低下する可能性があります。
また、睡眠の質が低下すると、脳内の疲労物質として知られる「アデノシン」の除去が十分に進まなくなると考えられています。アデノシンは日中に活動するほど脳内に蓄積し、眠気を引き起こす物質です。通常は睡眠中に分解・除去されることで翌朝にはすっきりと目覚められます。しかし、スヌーズを繰り返すことで、実質的な深い睡眠時間が削られ、結果として体全体の睡眠時間が不足してしまいます。そのため、本来の睡眠中に進むべき脳の疲労回復が不十分となり、翌朝にも眠気や倦怠感が残りやすくなる可能性があります。
さらに、この状態が毎日続くと、脳は慢性的な睡眠不足に近い状態へ陥ることがあります。本人は十分な時間眠っているつもりでも、質の低い睡眠が続けば脳や身体の回復は不十分なままです。その結果、日中の集中力や判断力の低下、仕事や勉強の効率低下などにつながることがあります。会議中や授業中に強い眠気を感じたり、単純なミスが増えたりする場合は、朝のスヌーズ習慣が影響している可能性も考えられます。
慢性的な脳疲労は、精神面にも影響を及ぼします。睡眠不足や睡眠の質の低下が続くと、気分の落ち込みや意欲の低下、ストレスへの耐性低下がみられることがあります。また、感情のコントロールが難しくなり、些細なことでイライラしたり、不安を感じやすくなったりすることもあります。こうした変化は徐々に進行するため、自分では気づきにくい場合も少なくありません。
日常生活のなかで「なんとなくだるい」「朝から頭が重い」「やる気が出ない」「集中力が続かない」といった状態が続いている場合、睡眠時間だけでなく睡眠の質にも目を向けることが大切です。朝のスヌーズ習慣は一見すると小さな行動ですが、それが毎日積み重なることで睡眠の質を低下させ、脳や身体の疲労回復に影響を及ぼす可能性があります。快適な目覚めと日中のパフォーマンスを維持するためにも、アラームが鳴ったらできるだけ一度で起きる習慣を意識することが望ましいでしょう。
記憶力・集中力への影響
脳疲労が積み重なると、記憶力や集中力にさまざまな影響が現れる可能性があります。睡眠は単に身体を休めるための時間ではなく、脳が日中に得た情報を整理し、必要な記憶として保存するための重要な時間でもあります。特に深いノンレム睡眠の段階では、その日に学習した知識や経験が脳内で整理・定着されると考えられています。そのため、この重要な睡眠段階が繰り返し妨げられると、記憶の定着が十分に行われず、学習効率や情報処理能力の低下につながる可能性があります。
例えば、前日に勉強した内容を思い出しにくくなったり、人の名前や約束した内容を忘れやすくなったりすることがあります。また、仕事においても新しい業務の手順を覚えにくくなったり、複数の情報を整理しながら進める作業に時間がかかったりする場合があります。こうした変化は一度に大きく現れるわけではなく、睡眠の質の低下が積み重なることで徐々に表面化してくることが少なくありません。
さらに、睡眠不足や睡眠の質の低下は集中力にも影響を及ぼします。脳は十分な休息を得られている状態であれば長時間にわたって注意力を維持できますが、疲労が蓄積すると注意力が散漫になりやすくなります。その結果、読書や勉強に集中できない、会議中に話の内容が頭に入ってこない、運転中に注意が散るといった問題が起こる可能性があります。特に現代社会ではパソコンやスマートフォンを使った情報処理が多いため、集中力の低下は仕事や学業のパフォーマンスに大きく影響することがあります。
また、前頭前野(ぜんとうぜんや)と呼ばれる脳の領域は、判断力や計画力、問題解決能力、感情のコントロールなど、人間の高度な認知機能を担っています。この前頭前野は睡眠の影響を受けやすい部位の一つとされており、睡眠不足や睡眠の質の低下が続くと本来の働きを十分に発揮できなくなる可能性があります。スヌーズ機能によって何度も睡眠が中断される生活が続くと、前頭前野の回復が不十分となり、日中の判断ミスや作業効率の低下につながることが考えられます。例えば、普段なら気づくようなミスを見落としたり、優先順位をうまく判断できなくなったりすることがあります。また、感情面にも影響が及びやすくなり、些細なことでイライラしたり、ストレスを強く感じたりすることもあります。仕事や家庭での人間関係においても、感情のコントロールが難しくなることでコミュニケーションに影響が生じる可能性があります。
さらに、脳疲労が慢性化すると、情報を処理する速度そのものが低下することがあります。考えがまとまりにくい、言葉がすぐに出てこない、複雑な問題を考えるのが億劫になるといった状態は、脳が十分に回復できていないサインの一つかもしれません。本人は「年齢のせい」や「忙しいから仕方ない」と考えがちですが、その背景には睡眠の質の低下が関係している可能性もあります。
このように、スヌーズ機能の使用は単なる「寝坊防止ツール」として片付けられるものではありません。毎朝何度もアラームによって睡眠が中断されることで、記憶の定着や集中力の維持、判断力や感情のコントロールといった脳の重要な機能に影響を与える可能性があります。日常の小さな習慣であっても、それが長期間続けば脳のパフォーマンス全体に関わる問題へ発展することがあります。朝の目覚め方を見直すことは、日中の生産性や学習効率を高めるだけでなく、脳の健康を維持するうえでも重要な取り組みといえるでしょう。
まとめ
毎朝当たり前のように使っているスヌーズ機能が、脳の疲労や自律神経の乱れを招いている可能性があることをご理解いただけたでしょうか。スヌーズ習慣をやめることは、最初は難しく感じるかもしれませんが、就寝・起床時間の統一や朝の光を浴びるといった小さな工夫から始めることで、着実に改善につながります。睡眠の質を高め、自律神経を整えることは、日々の体調や心の健康にも深く関わっています。気になる症状がある場合は、ぜひ医療機関へご相談ください。
参考文献
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」- 「記憶力」と「睡眠の質」を改善する“食べ物”がある? 認知症予防のポイントも医師が解説
──────────── - 「メラトニン」の分泌を抑制してしまう「カフェイン」の摂取時間とは?医師が解説!
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