不器用で、あまりにも切ない愛の物語。監督・木下麦と脚本・此元和津也のタッグが世に送る映画『ホウセンカ』の見どころ

不器用で、あまりにも切ない愛の物語。監督・木下麦と脚本・此元和津也のタッグが世に送る映画『ホウセンカ』の見どころ

社会現象を巻き起こしたオリジナルTVアニメ『オッドタクシー』の監督・木下麦さんと脚本・此元和津也さん。アニメファンが最も新作を待ち望むタッグが世に放つ、完全オリジナル劇場アニメーション『ホウセンカ』が、ついに2025年10月10日より全国公開となった。

本作で描かれるのは、無期懲役囚として人生を終えようとする男の、不器用で、あまりにも切ない愛の物語。すべてが裏目に出た男が仕掛けた人生最後の“大逆転”とは何か。静かな語り口の中に、人間の愛と犠牲、そして人生の意味を鋭く問いかける、忘れられないヒューマンドラマである。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
映画『ホウセンカ』が公開中
映画『ホウセンカ』が公開中 / (C)此元和津也 / CLAP


【ストーリー】
無期懲役囚として、独房で静かに最期を迎えようとしていた老人・阿久津実。いつか大逆転が起きるとつぶやく阿久津。そんな彼を「大逆転?笑わせんなよ」と嘲笑う者がいた。それは、人の言葉を話す一輪の「ホウセンカ」。ホウセンカとの対話をきっかけに、阿久津は自身の過去を振り返り始める。

1987年の夏。ヤクザの阿久津は、愛する女性・那奈と、その息子・健介の三人で、家族のような穏やかな日々を過ごしていた。しかし、ある日事態は一変する。那奈と健介と過ごした日常を守るため、阿久津はある行動に出る。

すべてが裏目に出てしまった、ロクでもない人生。彼が命を懸けて残した想いと、“大逆転”の真実が、時を経て明かされていく——。
【画像】映画『ホウセンカ』の胸に迫る場面カットをチェック!
【画像】映画『ホウセンカ』の胸に迫る場面カットをチェック! / (C)此元和津也 / CLAP


■魂を吹き込む、実力派俳優陣の“声”の演技
本作の大きな魅力は、アニメーションのキャラクターに実写映画のような生々しい息遣いを与える、実力派俳優陣による声の演技だ。ヤクザがメインの物語だが、どこか素朴さや温かみのある声の演技が、作品に独特の落ち着きを与えている。
(C)此元和津也 / CLAP


特に、主人公・阿久津の青年期を演じた戸塚純貴さんの演技は必見だ。声優初挑戦とは思えない、無骨さの中に優しさが滲み出る自然な声は、口下手で不器用な阿久津の人物像に重なり合っている。そんな阿久津の青年期を戸塚純貴さん、老年期を小林薫さんが演じ、その切ない生き様を見事に表現した。
(C)此元和津也 / CLAP


そして、物語の案内役として強烈な個性を放つのが、ピエール瀧さんが声をあてるホウセンカだ。阿久津に毒づきながらも、どこか達観した視点で彼の人生を見守る姿は、単なる語り部にとどまらない、本作の重要なキャラクターとなっている。皮肉屋だけど憎めない、人間臭いホウセンカの言葉の数々にハッとさせられるに違いない。
(C)此元和津也 / CLAP


また、那奈を演じる満島ひかりさんの、日常の空気感を纏った声も作品にリアリティを与えている。ほか、本作には安元洋貴さん、斉藤壮馬さんなど実力派声優がそろう。
(C)此元和津也 / CLAP


■静かな感動を増幅させる、映像美と音楽のシンクロ
『オッドタクシー』にも通ずる丁寧な作劇は本作でも健在であり、特に映像と音楽の融合が観る者の心を揺さぶる。
(C)此元和津也 / CLAP


まず心を奪われるのが、オープニングで描かれる花火のシーンだ。上空のドローンから俯瞰で見下ろすように描かれた花火が、物語の象徴であるホウセンカの花と重なる演出は、息をのむほどの美しさである。一瞬で消えゆく花火の儚さが、一瞬の輝きと儚さは、ホウセンカの花、そして阿久津の人生そのものと重なり合う。
(C)此元和津也 / CLAP


そして、その世界観を彩るのが、バンド・ceroが手掛ける音楽だ。ceroが手掛けるオープニングテーマ『Moving Still Life』と共に、何気ない日常の音色が、阿久津ら家族が過ごした穏やかな日々の愛おしさを際立たせる。オープニングテーマから、要所で流れる劇中伴奏音楽『Stand By Me』まで、その音楽は映像と完璧にシンクロし、登場人物たちの感情の機微を静かに、そして力強く描き出す。決して曲数は多くないが、その場の空気をぐっと引き締め、静かな物語を劇的に盛り上げている。
本作の音楽を手掛けるcero
本作の音楽を手掛けるcero / (C)此元和津也 / CLAP


本作は、派手なアクションやドラマチックなセリフがあるわけではない。描かれるのは、ゆっくりと、なだらかに不幸に転げ落ちる阿久津の人生。学もなく、不器用、口もうまくない阿久津は救われることもなく、ただただなだらかに下り坂の人生を転げ落ちていく。それを我々観客は見守ることしかできない。しかし、静かな語り口に、人間の愛と犠牲、そして人生の意味を鋭く問いかけられる、そんな忘れられない一作だ。丁寧に張り巡らされた伏線が心地よく回収されていくカタルシスと、愛しているがゆえに伝えられないもどかしい想いが、観終えたあとに深い余韻を残す。

不器用な男が、愛する者のために仕掛けた人生最後の「大逆転」。その先に咲くものを見届けたとき、きっと観る者の心にも温かい何かが残るはずだ。ぜひ劇場の大きなスクリーンで、この静かで美しい物語に浸ってほしい。
(C)此元和津也 / CLAP


文=川田湖雪

(C)此元和津也/ホウセンカ製作委員会

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