
「隧道(ずいどう)」とはトンネルのことだ。外来語が流入する以前は「隧道」と呼ばれており、現在でもその名を冠するトンネルは残存している。今回は、日本のとある場所にある「N隧道」で、1人の配達員が遭遇した怪奇現象の物語を紹介する。

■迂回路で足を踏み入れた古い「N隧道」
郵便局のS支店に勤める配達員・Mさんの担当エリアには、N隧道があった。寂れた場所にあるため普段は通らないが、ある日いつもの道が通行止めになり、迂回路として使うことになったという。古く短いトンネルのなかで、一体どんな心霊現象が起きたのだろうか。本作『N隧道』について、作者の送達ねこ(@jinjanosandou)さんに話を伺った。

■恐怖から救ってくれた「配達」という使命
劇中における「配達中だったのは幸いだった。仕事が現実に引き戻してくれた」というMさんの言葉が印象的だが、これについて送達ねこさんは、「むしろ『配達を思い出してよかった』とMさんは振り返っていました。『気持ちを切り替えられたから。そうじゃなかったら、暗い、狭い空間でとても耐えられなかった』と。仕事が恐怖から救ってくれた。目の前の心霊よりも向き合うものがあると思い出させてくれた、そんな心境だったようです」と語る。
その後もMさんはN隧道を使う機会があり、通るたびに「また何かあって配達に影響したら困るな」と緊張したという。トンネルは出口が見えず本能的な不安を煽るうえ、古い隧道には工事の犠牲者などの怪談めいた伝説もつきまとう。実際、別の地方局でもトンネルで異様な体験をした配達員がいたそうだ。
■暗闇に浮かぶ「異常に腕の長い男」
その異様な体験について聞くと、「ある集落へ郵便を届けに行くのに古いトンネルを通ったときのことだったそうです。大人の、おそらく男性と思える人が壁に向かって腕を上下に振っていたそうです。『何をしているんだろう?』と思いながら、その人の腕がなんだか普通よりも妙に長かったので、通り過ぎて振り返ったところ誰もいなかったそうです」と明かす。
のちにそこが怪現象の多い心霊スポットだと判明し、配達員たちに注意喚起がなされたという。「心霊スポットでも避けるわけにいきませんし、異変に気を取られて事故を起こすとしたらそれは配達員にとって、最も恐ろしいことなのだと思います」と送達ねこさんは振り返る。

郵便配達員たちは毎日、町の隅々まで郵便物を届けている。本作が収録されている『郵便屋が集めた奇談』は、現役の郵便局員である送達ねこさんが、同僚たちの不思議な体験談を漫画化した作品だ。SNSで話題を呼び、読者からは「こういう不思議で怖い話って好き」「背筋がゾクッとしたけど、めちゃくちゃおもしろい」と好評を博している。日本のどこかでひっそりと起こっている怪異の世界を、覗いてみてはいかがだろうか。
取材協力:送達ねこ(@jinjanosandou)
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