「ぎっくり腰」の“原因”はあの動き?リスクが高まる「3つの場面」【医師監修】

「ぎっくり腰」の“原因”はあの動き?リスクが高まる「3つの場面」【医師監修】

椎間板ヘルニアは腰椎に多く発生し、なかでも第4・第5腰椎間、第5腰椎と仙骨の間に起きやすいとされています。発症すると腰痛だけでなく、坐骨神経痛(お尻から足先にかけての痛みやしびれ)が現れることもあります。どのような症状に注意すればよいのか、また進行した場合の対応についても確認しておきましょう。

松繁 治

監修医師:
松繁 治(医師)

経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医

膝を伸ばしたまま物を拾う動作とぎっくり腰の関係

このセクションでは、「膝を伸ばしたまま物を拾う」という何気ない動作が、なぜぎっくり腰を引き起こしやすいのかについて詳しく解説します。多くの方は、ぎっくり腰というと重い荷物を持ち上げたときや激しい運動をしたときに起こるものというイメージを持たれているかもしれません。しかし実際には、床に落ちたペンを拾う、靴を履く、洗面台で顔を洗うといった日常的な動作がきっかけになることもあります。

特に注意したいのが、膝を曲げずに腰だけを使って前かがみになる姿勢です。この動作は腰部に大きな負担を集中させるため、筋肉や靱帯、関節などの組織に急激なストレスを与える可能性があります。ぎっくり腰は突然発症することが多いものの、その背景には長年の姿勢の癖や身体の使い方の積み重ねが隠れている場合もあります。

腰を守るためには、どのような仕組みでぎっくり腰が起こるのかを理解し、日常動作を見直すことが大切です。

ぎっくり腰が起こるメカニズム

ぎっくり腰は医学的に「急性腰痛症」と呼ばれ、ある瞬間に突然強い腰痛が現れる状態を指します。欧米ではその激しい痛みから「魔女の一撃(Witch’s Shot)」とも呼ばれており、歩くことも困難になるほどの痛みを伴う場合があります。

ぎっくり腰の原因は一つではなく、腰周囲の筋肉や筋膜の損傷、靱帯(じんたい)の微細な断裂、椎間関節の炎症、椎間板への過度な負荷など、複数の要因が関与していると考えられています。そのため、同じような動作をしていても発症する方としない方がいるのです。

膝を伸ばしたまま物を拾う動作では、上半身の重さが前方へ移動し、それを支えるために腰の筋肉が強く働きます。このとき腰背部の筋肉は引き伸ばされながら力を発揮する「伸張性収縮(しんちょうせいしゅうしゅく)」という状態になります。伸張性収縮は筋肉に大きな負荷がかかる動きであり、筋繊維に微細な損傷を生じやすい特徴があります。

さらに、前かがみになった状態では腰椎の自然なカーブ(腰椎前弯:ようついぜんわん)が失われやすくなり、腰の関節や椎間板に強い圧力が集中します。特に中腰姿勢のまま物を持ち上げようとすると、身体の重さと荷物の重さが腰に加算されるため、腰部にかかる負荷は想像以上に大きくなります。

研究では、前屈姿勢で物を持ち上げる際、腰椎には体重の数倍に相当する圧力がかかることが示されています。重い荷物でなくても、身体の前方で持ち上げるほど腰への負担は増大します。そのため、ティッシュやスマートフォン、ペンなどの軽い物を拾う動作であっても、筋肉や関節の状態によってはぎっくり腰の引き金になることがあります。

また、加齢や運動不足によって体幹の筋力が低下している場合には、腰を支える能力が弱くなっています。その状態で急な前屈動作を行うと、筋肉や靱帯が負荷に耐えきれず、痛みとして現れる可能性があります。

ぎっくり腰は「突然起きたように見える腰痛」ですが、実際には日々蓄積した疲労や筋肉の緊張、姿勢の乱れなどが背景にあり、最後のきっかけとして物を拾う動作が加わった結果として発症するケースも少なくありません。

日常のどんな場面でリスクが高まるか

ぎっくり腰は重量物を持ち上げるときだけに起こるわけではありません。むしろ、日常生活のなかで無意識に行っている何気ない動作が引き金になることも多く、「まさかこんなことで」と驚かれる方も少なくありません。

たとえば、床に落ちたペンや鍵を拾おうとして前かがみになった瞬間、洗濯物をかごから取り出そうとした瞬間、靴下を履こうとした瞬間などに発症することがあります。これらは重い負荷ではないものの、身体が十分に準備できていない状態で急激な前屈動作を行うことで腰にストレスが集中するためです。

特にリスクが高まる場面として、以下のような状況が挙げられます。

・朝起きてすぐ、筋肉や関節がまだ硬い状態のとき
・長時間のデスクワーク後に急に身体を動かしたとき
・車の運転後や会議後など、同じ姿勢が続いたあと
・疲労が蓄積して筋肉の回復力が低下しているとき
・寒い季節や冷房の効いた環境で筋肉がこわばっているとき
・運動不足によって筋力や柔軟性が低下しているとき
・急いでいて無理な姿勢や勢いのある動作をしたとき

朝にぎっくり腰が起こりやすいのは、睡眠中に身体をほとんど動かしていないため、筋肉や関節の柔軟性が低下しているからです。起床直後に床の物を拾ったり、洗面所で急に前かがみになったりすると、腰が負荷に対応しきれないことがあります。

また、長時間座り続けた後も注意が必要です。座位姿勢では腰周囲の筋肉が緊張しやすく、血流も低下しやすいため、急に立ち上がって前屈すると筋肉が損傷しやすくなります。

寒い環境も腰痛やぎっくり腰に関連する要因の一つと考えられています。気温が低い環境では筋肉や関節がこわばりやすくなり、身体の柔軟性が低下することがあります。その結果、普段であれば問題のない動作でも筋肉や靱帯に負担がかかりやすくなる可能性があります。また、寒い時期には腰痛症状を訴える方が増える傾向も報告されており、身体を冷やさないよう注意することが大切です。

さらに、疲労やストレスの蓄積も見逃せません。疲れていると筋肉の反応速度や協調性が低下し、身体を支える機能が十分に働かなくなります。その状態で膝を伸ばしたまま物を拾う動作を行うと、腰に負担が集中しやすくなります。

このように、ぎっくり腰は特別な出来事によって起こるわけではなく、日常生活のなかに潜むさまざまな要因が重なって発症します。だからこそ、物を拾う際には膝を曲げてしゃがむ、急な動作を避ける、適度な運動で筋力と柔軟性を維持するといった基本的な習慣が、ぎっくり腰の予防において非常に重要となります。日々の身体の使い方を見直すことが、腰の健康を守る第一歩といえるでしょう。

まとめ

膝を伸ばしたまま物を拾う動作は、腰椎や椎間板への負担を増加させ、腰痛やぎっくり腰のリスクに関与する可能性があります。腰椎や椎間板への負荷の増加、筋肉や靱帯へのストレス、前屈みとひねりの組み合わせなどが重なることで、腰への負担が蓄積しやすくなります。腰への負担が少ない動作を習慣化するとともに、体幹や股関節周囲の筋力・柔軟性を維持し、日常的なセルフケアを心がけることが、腰の健康を守るうえで大切です。腰に痛みやしびれを感じている方は、早めに整形外科などへの相談をおすすめします。

参考文献

日本医療機能評価機構「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」

厚生労働省「腰痛予防対策」

日本整形外科学会「腰椎椎間板ヘルニア」

日本整形外科学会「腰痛」

配信元: Medical DOC

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