子宮摘出後の夫婦生活はどうなるのか。アンダーヘアの脱毛事情はどうなっているのか。そして、生と死が交錯する医療現場では何が起きているのか――。女性の身体と人生に深く関わる婦人科の世界には、知っているようで知らない“女の本音”と“現場のリアル”があります。
そんな診察室の裏側を赤裸々に解き明かすのが、現役アラフィフ産婦人科医・櫻井くす子さんの著書『婦人科医の「ここだけの話」ですが、何か?』。本書では、面と向かっては聞きづらいマダムたちの下世話な疑問から、患者たちが抱える命の重厚なドラマまで、長年の経験をもとに愛と毒舌を交えて痛快に綴っています。本記事では、その一部をご紹介します。
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マダムのホルモン補充療法
個人差はあれど、手術で両側の卵巣を摘出してしまうと、おおよそ2~3日で更年期症状がピークを迎え、マダムはたいていジェットコースターのような体調の変化を感じる。自然に閉経するより症状が重い印象を受ける。
大学病院で悪性腫瘍を疑われて、子宮と両側付属器(卵巣と卵管)を摘出されてしまったマダムが、結果良性だと判明した。それ自体はすごく喜ばしいことなのだが、急激な更年期症状は放置のまま、なんとかしてやってくれと紹介を受けたことがある。
彼女は診察室に入ってくるなり号泣し、私物の鼻セレブを大量に使っていったが、経費として落とせないのが地味に辛い。デカデカと箱に苗字を記入しているのだが、病めるマダムの目には入らないようだ。
何はともあれ、治療が始まったらあっという間に元気になったのでよし。

ところで、女性ホルモンは女性の体全般を守っている。活動はやや地味。これもあれもそれもやってくれてたの? と更年期が始まってびっくりすると思う。
コロナ禍、ニューヨークで清掃員の方々が病に倒れ、結果として街は収集されずに放置されたごみで埋め尽くされたと聞く。女性ホルモンはいわばこの清掃員やごみ収集業者の方々のような、丁寧な仕事をしていると言っていい。女性ホルモンは、女性の全身に張り巡らされた血管の調節をしているのだ。
血管を必要なときに引き締め、必要なときに緩める。この作業を放置されると、本体はひとたまりもない。顔から汗が噴き出すのも変な火照りが出るのも、なんだか頭が重くなるのも、お腹の具合や動悸、息切れ、めまいも全て、血管の調節がうまくいかなくなったことに起因する。
いなくなってわかる、あの方々のありがたみ。
両側の卵巣を摘出してしまうと、いきなり女性ホルモンが出なくなる。半減期が48時間程度と短いので、個体差はあるが2~3日で更年期がほぼ完成する人が多い。
本来ならばゆっくりゆっくり体が慣れていくものが、いきなりドーンと体内環境が激変するのだからその変化についていけなくて、マダムはバタ狂う。精神的にも参ってしまい、症状が酷い人だと精神科のお世話になっていたりする。
気の利いた精神科医だと「これはウチではないのでは?」と婦人科に連絡してくれたりするが、あの集団も変わった人が多くて、いつまでも向精神薬で治療していたりするから注意。
ちなみに、ホルモン補充療法は一般的には女性ホルモンと黄体ホルモンを同時に飲むが、子宮摘出を受けたマダムは、子宮体がんの恐怖から自由になるため、エストロゲン、つまり女性ホルモン1種類の投与だけで良くなる。
女性ホルモンの他に飲まされている「黄体ホルモン」は、ひとえに子宮体がん予防のために飲まされているのだ。
――怖い話だが、個人的な見解から「黄体ホルモン」をマダムに投与せず、長年女性ホルモンのみ処方していた開業医がいて、そこから定期的に子宮体がん患者が大学病院に送り込まれていたこともあるらしい。風の噂。
また、ホルモン補充療法後、便秘や下痢が軽快しましたと言われることもある。こちらも腸管へ行く、血管の調整と紐づけると魔法ではないことに気がつく。状況証拠から、女性ホルモン投与で腸管の血の巡りが良くなったと考えるのが妥当。
さて、そんな体調改善につながったホルモン補充療法。始まった途端に皺も伸び、抜け毛も激減。やめる日が来ることを恐れるマダムは私を含め、多いもの。

男医らは「いきなり中止しても、ゆっくり中止しても同じらしい」と言い張るが、同じわけないと私は思う。殺。
どうも野郎どもは自分だけ歳を取らないと思っているようだが、男の方が化粧の文化の導入が遅れている分、老けるのは早いぞ!
余談だが、男性更年期を疑った先輩が、どこをどう誤解したのか自らに女性ホルモンを投与し、顔中ニキビだらけになってしまった。男性更年期には男性ホルモンが正解。先走るな。
ホルモンを飲んでる・貼ってる・塗ってるといえども、若い頃溢れるほど出ていた女性ホルモンのレベルにはほど遠く、チビっとしか補充しないので、それらはいわば「高さの違うバンジージャンプ」である。
高いレベルから落とされればダメージもスリルも著しいが、低めから飛び降りるのは怖さが半減するのと一緒。もちろん、顔からいかないように気をつけなくてはならない。
65歳くらいから終活とともに洋服もホルモンも量と頻度を少しずつ減らしておこう。ワードローブを見直し、食器棚を見直し、やがて70歳を目処に、全てのものから自由になっておきたい。
三途の川を渡るとき、その重さで舟が沈まぬよう、極力身軽でなくてはならない。いつか来るその日に備えて、何が必要で、何が不要なのか、じっくり考えておくことをお勧めする。自戒を込めて。……今、自分が保有している食器を思い浮かべ、戦慄している。
断捨離、断捨離。

