
監修医師:
前田 広太郎(医師)
2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。
遷延性意識障害の概要
遷延性意識障害とは、外傷や低酸素などによって起こった脳の重大な損傷により、長期間にわたって意識の回復が得られない状態を指します。代表的なものに遷延性植物状態(Persistent Vegetative State: PVS)、最小意識状態(Minimally Conscious State: MCS)、 昏睡状態(Coma)、閉じ込め症候群(Locked-in Syndrome)、無動無言(Akinetic Mutism) があります。医学的には「目を開いているか否か」「刺激に反応するか」「自己・他者を認識できているか」といった複数の観点から分類され、単なる昏睡とは異なる複雑な意識障害群です。遷延性植物状態の場合、目を開けることはありますが、意味のある発語や運動、外界への認識は見られません。この状態が外傷性であれば12か月以上、非外傷性であれば3か月以上続いた場合、「永続的(permanent)」と判断されます。遷延性意識障害は単なる昏睡状態とは異なり、多様な原因・類似状態が存在し、回復可能な例もあることが分かっています。中には1年以上意識が戻らなかった例でも治療によって回復した報告もあります。意識障害には「脳死」「植物状態」「てんかん」「無動無言」など、似て非なる状態が混在するため、診断には慎重な評価と多職種チームの連携が求められます。また、意識障害が遷延している場合には、非可逆性(治らない)と判断する前に、非痙攣性てんかんや水頭症、代謝性脳症などの「治療可能な状態」を慎重に除外する必要があります。
遷延性意識障害の原因
遷延性意識障害の主な原因は、脳の広範な機能障害です。具体的には外傷性脳損傷、低酸素性虚血性脳症、脳血管障害をはじめとした中枢神経の異常などが挙げられます。
外傷性脳損傷は交通事故や転落事故などによる脳の物理的損傷であり、若年者に多いです。
低酸素性虚血性脳症は心停止や窒息、溺水などで脳が酸素不足に陥ることによる障害で、高齢者や心疾患のある人に多いです。
脳血管障害は、脳出血や脳梗塞による広範な脳の損傷から意識障害をきたします。
特異的治療の余地がある遷延性意識障害の原因として、中枢神経系感染症は単純ヘルペスウイルス脳炎やサイトメガロウイルス感染、真菌感染などで脳が障害を起こします。非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)は意識は低下するが明らかなけいれんがない状態で、脳波でしか確認できないため見逃されやすいです。代謝性・内分泌性脳症としては低ナトリウム血症(SIADHや中枢性塩類喪失症候群など)や甲状腺機能低下症などで意識障害をきたします。薬剤性(特に鎮静薬・抗てんかん薬の過量投与) としてはバルプロ酸ナトリウム、クロナゼパムなどが原因となることがあります。他にも慢性硬膜下血腫、水頭症、脳静脈洞閉塞、肥厚性脳硬膜炎 などもまれに原因になります。これらは、治療可能な場合があります。

