糖尿病と虚血性心筋症が合併した場合、心臓のポンプ機能が低下したことによる息切れや倦怠感、足のむくみといった症状が現れることがあります。これらは加齢によるものと混同されやすく、見過ごされることも少なくありません。また、心臓と腎臓が互いに影響を与え合う「心腎連関」も注意が必要です。このセクションでは、合併した際に現れやすい症状と、心血管イベントのリスクについて詳しく見ていきます。

監修医師:
後平 泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院)
2009年に旭川医科大学医学部を卒業。循環器内科のスペシャリストとして、長年、札幌東徳洲会病院を中心に救急医療や心疾患の治療に従事。2023年には睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長を歴任し、最新技術を用いた診療体制の構築に尽力。2024年より病院長に就任し、2025年10月の「札幌もいわ徳洲会病院」への名称変更。日本循環器学会 認定循環器専門医。日本睡眠学会 総合専門医・指導医。日本スポーツ協会公認 スポーツドクター。日本内科学会 認定内科医。
虚血性心筋症のリスクを下げる方法|生活習慣の見直し
虚血性心筋症のリスクを管理し、進行を抑制するためには、薬物療法と並行して、日々の生活習慣を見直すことが不可欠です。食事、運動、禁煙といった基本的な生活習慣の改善は、動脈硬化の進行を遅らせ、心臓への負担を軽減するための土台となります。このセクションでは、科学的根拠に基づいた具体的な生活習慣の改善策について、詳しく解説します。
食事療法と血糖・コレステロールの管理
虚血性心筋症のリスク管理における食事療法の目的は、動脈硬化の主要な危険因子である「高血糖」「高血圧」「脂質異常症(高コレステロール・高中性脂肪)」を包括的にコントロールすることです。これらは互いに影響し合うため、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。
食事の基本は、野菜、海藻、きのこ類、全粒穀物など、食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂取することです。食物繊維は、食後の血糖値の急激な上昇を穏やかにする効果があるほか、コレステロールの吸収を抑制し、便通を改善する働きもあります。一方で、白米や食パン、菓子類などの精製された炭水化物や、糖分の多い清涼飲料水の過剰摂取は血糖値を急上昇させるため、摂取量や頻度に注意が必要です。また、肉の脂身やバター、揚げ物、加工肉に多く含まれる飽和脂肪酸は、悪玉(LDL)コレステロールを増やす原因となるため、魚や大豆製品、オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸を多く含む食品に置き換えることが推奨されます。
塩分の過剰摂取は、体内に水分を溜め込み、血液量を増やすことで血圧を上昇させ、心臓に直接的な負担をかけます。日本の高血圧治療ガイドラインでは、1日の塩分摂取量を6g未満にすることが推奨されています。特に心不全を合併している場合は、より厳格な塩分制限が必要になることもあります。加工食品や外食は塩分が多くなりがちなので、成分表示を確認したり、薄味を心がけたりする工夫が大切です。アルコールについては、適量であれば血行を良くする効果も指摘されますが、過剰摂取は中性脂肪の増加や不整脈、心筋への直接的なダメージにつながるため、節度ある飲酒を心がけるべきです。飲酒量については、個々の健康状態により許容範囲が異なるため、必ずかかりつけ医に相談してください。
糖尿病を合併している場合、食事管理はさらに重要性を増します。管理栄養士による専門的な栄養指導を受けることで、個々のライフスタイルや病状に合わせた具体的な食事プランを作成することができます。例えば、食事の際に「野菜・きのこ類(食物繊維)→肉・魚(たんぱく質)→ごはん・パン(炭水化物)」の順番で食べる「ベジファースト」を実践するだけでも、食後の血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待できます。効果的な食事療法は、継続することが最も重要であり、専門家のサポートを受けながら無理なく取り組むことが成功の鍵です。
適切な運動と禁煙がもたらす効果
適度な運動習慣は、心臓リハビリテーションの根幹をなすものであり、多くの恩恵をもたらします。定期的な運動は、心肺機能を高めて心臓のポンプ効率を改善するだけでなく、血圧や血糖値、血中脂質のコントロールにも有効です。さらに、血管内皮機能を改善し、動脈硬化の進行を抑制する効果も報告されています。ただし、虚血性心筋症を持つ方の場合、運動の強度や種類は心機能の状態によって慎重に決定する必要があります。運動を開始する前には、必ず担当医に相談し、心臓に過度な負担をかけない適切な運動処方を受けることが絶対条件です。
心肺運動負荷試験などで安全な強度が確認されたうえで、「楽である」から「ややきつい」と感じる程度の強度(ボルグスケール11〜13)で行うのが一般的です。
運動中に胸の痛みや圧迫感、強い息切れ、めまい、動悸などの異常な症状が現れた場合は、直ちに運動を中止し、速やかに医療機関に相談してください。
禁煙は、虚血性心筋症の管理において効果的で重要な生活習慣改善の一つです。たばこに含まれるニコチンは血管を収縮させて血圧を上昇させ、一酸化炭素は血液の酸素運搬能力を低下させて心筋への負担を増大させます。また、喫煙は血管内皮を傷つけ、悪玉コレステロールの酸化を促進し、血液を固まりやすくするなど、動脈硬化をあらゆる側面から加速させます。禁煙は容易なことではありませんが、現在では禁煙補助薬(貼り薬や内服薬)を用いた禁煙外来など、専門的なサポートを受けることができます。
まとめ
虚血性心筋症は、単独の病気としてではなく、糖尿病や腎機能低下(クレアチニン値の上昇)といった全身の代謝異常や臓器障害と密接に結びついた全身疾患として捉える必要があります。これらの病気は互いに悪影響を及ぼし合い、複雑な悪循環を形成します。この連鎖を断ち切るためには、食事療法、適切な運動、禁煙といった地道な生活習慣の改善を土台とし、最新の知見に基づいた薬物療法や定期的な検査による医療的管理を両輪として進めていくことが不可欠です。少しでも気になる症状に気づいたとき、あるいは健康診断で検査値の異常を指摘されたときには、決して放置せず、早めに循環器内科、糖尿病内科、腎臓内科などの専門医へ相談してください。
参考文献
厚生労働省「慢性腎臓病(CKD)」
日本循環器学会「慢性心不全診療ガイドライン(2025年改訂版)」
日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
国立循環器病研究センター「虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する手術」
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