回転寿司チェーン「くら寿司」の店舗(山形県)で発生した迷惑行為について、運営会社は10月14日、行為に及んだ人物を特定しており、厳正な対応をすると発表した。
発表の数日前から、若い女性が店内で醤油を飲むような様子を撮影した動画が拡散していた。当事者かどうか不明ながら、女性らの氏名や顔写真、実家の住所などの個人情報が「犯人」などとして晒される事態となっている。
インターネットのトラブルにくわしい弁護士は「インターネットでのさらし行為は私的制裁と言える」と指摘する。投稿や拡散に加担しただけでも罪に問われる可能性があるという。
●くら寿司側「実行者はすでに特定」
くら寿司の発表前から広まっていた動画では、女性がレーンを移動する皿のカバーをあけて中の寿司を触ったり、醤油を飲むような様子が映っていた。
くら寿司側は公式サイトで、迷惑行為について「実行者についてはすでに特定しており、地元警察に相談しながら対応を進めてまいります」と公表した。
一方で、SNS上では「実行犯」「撮影者」として、女性らの顔写真や名前、通っている高校名などが投稿され、真偽不明のまま急速に拡散している。
こうした「さらし行為」の問題について、櫻町直樹弁護士に聞いた。
●さらし行為の名誉毀損が成立しうる
——迷惑行為の「実行者」や「撮影者」として名前や顔写真をSNSに投稿したり、それを拡散する行為には、どのような法的問題がありますか。
前提として、くら寿司が対応を発表した迷惑行為については、これによって、店側に寿司の廃棄や機材消毒といった対応を余儀なくさせるものですから、威力業務妨害罪に該当しうるといえるでしょう。
レーンを移動する皿のカバーをあけて中の寿司を触ったり、醤油を飲んだり、その様子を動画撮影してインターネット上で拡散する行為のことです。
また、SNS上では、迷惑行為の「実行者」であるとして、「女性らの顔写真や氏名、在籍する高校などの情報」がインターネット上に投稿されています。
しかし、その「顔写真や氏名」で特定される女性が、くら寿司が特定した「実行者」であった場合でも、実行者に対する名誉毀損が成立する可能性があります。
名誉毀損は、他人の社会的評価を低下させるに足る事実(意見・論評)を不特定多数に向けて発信した場合に成立しますが、発信された事実が真実である場合であっても、他人の社会的評価を低下させるものであれば成立します。
ただし、その事実が「公共の利害に関わる事実」であって、「専ら公益を図る目的」があり、かつ、「真実である」(または、真実であると信じたことに相当の理由がある)という要件をすべて満たす場合に限り、違法性(または責任)が阻却され、名誉毀損は成立しません。
ここで、「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす」(刑法230条の2第2項)と規定されていますので、今回のケースでは「専ら公益を図る目的」(及び「真実である」)を満たせばよいということになります。
しかし、一般人がインターネット上で「女性らの顔写真や氏名、在籍する高校などの情報」を投稿する行為は、たとえば「バズる」「インプレッションを稼ぐ」といったことを目的とした、いわゆる「さらし行為」というべきものであって、「専ら公益を図る目的」があると評価することは難しいでしょう。
したがって、名誉毀損が成立すると思われます。

