不倫の代償に絶望しつつ、おなかの中に宿る命に重みを感じる、里子…。そんな里子に、きびしくも温かい言葉をかけてくれたのは、大学時代の先輩で…。
大学時代の先輩に相談…
信男は、家事育児に無関心で、自分の趣味を優先する人だった…。
残業も有給も、自分のためなら取れるのに、私や子どものことになると関心がない。私が家事育児で困っても、きげんが悪くなるだけだった…。
イヤイヤ期と夜泣きが重なり、毎日、夜中の2時3時まで、狂ったように泣き叫び、暴れ回るマモル…。私は疲れ果てていた。
となりで、すやすやと寝る夫に頼ることもできず、マモルと一緒に、泣きながら朝方までドライブをしたこともあった…。夫からしたら、私はただの家政婦。子どもは、ママよりパパっ子…。そんな現実がつらくて、悲しくて…。
私は逃げたのだ…。「母親でいること」からも「妻でいること」からも…。
マモルと離れてから、私は友人の千花さんに連絡をした。
千花さんは、大学時代のテニスサークルの先輩で、私をかわいがってくれた人だった。信男とも同じサークルだったため、信男のこともよく知っている。もちろん、結婚式にもきてくれた。
彼女は、私の話を親身になって聞いてくれた。
不倫で両親が離婚…先輩の過去
「里子から連絡がくるなんて!本当、連絡不精なとこ、学生時代から変わらないよねー」
千花さんの変わらない明るさに、私は胸がいっぱいになった。
「千花さん…私、離婚したの。マモルの親権を信男に取られちゃった…」
私は、自分の不倫から始まった一連のできごとをすべて話した。信男のモラハラ気質なところ…ワンオペ育児で悩んでいたこと、そして、不倫相手にも見放されたこと。
千花さんは、私の話を静かに聞いてくれた。
「里子の苦しみ、理解できるよ…。信男にも非はあると思う。あいつ、学生時代からえらそうだったもんねー。里子、よく頑張ってたわ」
千花さんは苦笑しながら、そう言って私に寄り添ってくれた。
「でもね、里子…。きびしいことを言うようだけど、不倫は…里子らしくなかったんじゃない?」
千花さんは私の目を見て、静かに続けた。
「私はね…実は、子どものころさ…父がモラハラ気質で、その逃避のためか、母が不倫したんだよね。それで、両親は離婚。兄と一緒に、父に引き取られたの」
「え…」
私は、初めて聞く、千花さんの過去におどろきを隠せなかった。
「父親としての愛は感じていたからさ。時に反抗しながらも、折り合いをつけて大人になった。で、母への思いは複雑でねー。幼いころに、『置いていった。捨てられた』という思いがあって…」
千花さんは、さみしそうな表情を浮かべ、沈黙をした後、話を続けた。
「それでも好きだったよ…。母なのでね。もし、私がマモルの立場なら、里子のおなかの子がうらやましいと思う。母親がそばにいてくれるからさ。マモルもきっと、ママを必要としているよ」
千花さんの言葉は、私の心を深く揺さぶった。

