
【ストーリー】
戦争によって国家が分断された近未来のアメリカ。
困窮する社会への光として、そして、かつての栄光を取り戻すための一歩として、国をあげて開催される競技“ロングウォーク”。ただひたすらに歩き続けるだけで、破格の賞金と願いを一つ叶える権利を獲得できるこの祭典に、選ばれし50人の若者が挑戦する。
ルール1「時速4.8キロメートルをキープすること」
ルール2「速度を下回ると警告開始」
ルール3「3つの警告で即死」
ルール4「コースから逃げても即死」
ルール5「最後の一人になるまで歩き続けること」
勝者になるためには、休息も睡眠も救いも存在しないこの恐ろしい競技をやり遂げるしかない。“3回警告を受けると即死”の状況下で臨む、地獄の一本道の先に待ち受けるのは希望か、絶望か…。

■『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカー役で知られるマーク・ハミルが悪役に挑む!
原作は、ホラーの帝王スティーヴン・キングがリチャード・バックマン名義で発表した、事実上の長編初執筆作『死のロングウォーク』。彼の作家人生の原点でもあるこの小説は、幾度となく映像化が企画されたが、一度も実現にいたらなかった。
そんな本作の映画化を実現させたのは、ウィル・スミス主演の『アイ・アム・レジェンド』や『ハンガー・ゲーム』シリーズの2作目以降で監督を務めたフランシス・ローレンスと、A24による『悪魔のいけにえ』テレビシリーズ化の監督に抜擢されたJT・モルナー。今回は、フランシス・ローレンスが監督を務め、JT・モルナーが脚本を手がけている。
社会全体を支配し、地獄のような“競技”を執り仕切る鬼少佐役を演じるのは、『スター・ウォーズ』シリーズのルーク・スカイウォーカー役で知られるマーク・ハミル。
近年は、Netflixのホラードラマ『アッシャー家の崩壊』(2023年配信)の弁護士役や、『ロングウォーク』と同じくスティーヴン・キングの短編小説が原作の映画『サンキュー、チャック』(2026年)で主人公の祖父役を演じていたマーク・ハミル。この2作を観ていた筆者は、本作のとんでもなくゲスい少佐の姿に驚いた。なぜなら、最近の役柄がビジュアル含めて“おじいちゃん”という印象が強かったからだ。
鬼軍曹のような少佐が画面に登場した瞬間、“え?この人マーク・ハミル!?”と疑ったが、少佐の威厳のある仕草やサングラスの奥の眼光の鋭さなどは、ベテラン俳優だからこその説得力があってとてもよかった。

■将来有望な次世代俳優がデスレースに挑む若者たちを熱演
苛酷なレースに挑む50人の若者の役には、さまざまな俳優が起用された。唯一の地元出身参加者であるレイ・ギャラティを演じるのは、名俳優として知られた故フィリップ・シーモア・ホフマンを父に持ち、ポール・トーマス・アンダーソン監督作『リコリス・ピザ』(2022年)で俳優デビューを果たしたクーパー・ホフマン、参加者を明るく束ねるムードメーカーのピーター・マクヴリーズ役を『エイリアン:ロムルス』(2024年)のデヴィッド・ジョンソン、口達者でユーモア溢れるハンク・オルソン役を『ベスト・キッド:レジェンズ』(2025年)のベン・ウォン、南部出身でいつも陽気なアート・ベイカー役をNetflix映画『スティーヴ』(2025年)のトゥット・ニュオットが演じている。




競技を熟知した様子で用心深く行動し、周りに皮肉を撒き散らすステビンズ役には『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』(2015年)のギャレット・ウェアリング、嫌みな言動を繰り返すゲイリー・バーコヴィッチ役には『荒野にて』(2019年)で主演を務めたチャーリー・プラマー、最年少の出場者カーリー役に『ジョジョ・ラビット』(2020年)のローマン・グリフィン・デイヴィスなど、将来有望な次世代俳優が多数出演している。また、息子のロングウォーク参加を止められなかったことに後悔を覚えるレイの母親ミセス・ギャラティ役には、『ハロウィン』の正式続編2作でジェイミー・リー・カーティス演じる主人公の娘役を好演したジュディ・グリアが扮しており、終盤での親子のシーンも見どころとなっている。




■苛酷なデスレースに耐えながら、友情を築いていく若者たちの姿に胸が熱くなる
賞金をかけたデスゲームが登場する作品といえば、『ハンガー・ゲーム』シリーズや『イカゲーム』シリーズ、日本では『カイジ』シリーズなど、これまで多くのドラマや映画が作られてきた。本作がそれらと一線を画すのは、原作が1979年に出版されており、当時の読者にとってセンセーショナルな内容であったということと、挑戦者がただ歩き続けるというシンプルな競技(デスレース)であるということ。
1989年に映画化された高見広春の小説『バトル・ロワイアル』は、『死のロングウォーク』から着想を得て書かれたと言われており、本作の公開タイミングで初めてその事実を知った人も多いだろう。
デスゲームでは参加者たちに厳しい試練が与えられ、失敗すると容赦なく殺されるが、本作でもほかの作品と同様に若者たちが呆気なく死んでいく…。『死のロングウォーク』の映画化にあたり、スティーヴン・キングから出された唯一の条件は、「R指定の作品にすること」だったそう。足を止めてしまった若者たちの尊い命が、何度も奪われるたびに目を背けたくなるが、きっとそういったつらいシーンにもスティーヴン・キングが伝えたかったメッセージがあるのだろうと考えながら鑑賞していた。


最初は陽気に冗談を言い合っていた若者たちだが、不眠不休で歩いているうちにだんだん疲れを見せ始める。そんな中で、靴紐を結びながら警告が出るギリギリまでしゃがんで休む子、急に具合が悪くなる子、足が攣ってしまう子など、誰かが足を止めるたびにヒヤヒヤさせられる。
時には争うこともあるが、苛酷な状況にいるのはみな同じ。そんな彼らが、競争相手であるにも関わらず、お互いを支え合いながら連帯していく姿を見ていると、一人ひとりが魅力的に思えてくるのだ。
なかでも、ある人物への復讐心を原動力にロングウォークに参加するレイと、明るくてメンタルの強いピーターが少しずつ友情を築いていく姿は胸が熱くなり、“どうかこの二人は死なないで”と願わずにはいられなかった。

極限のサバイバルを生き抜いて、勝者になろうと奮闘する若者の姿に圧倒される本作。ぜひ劇場で鑑賞してもらいたい。




文=奥村百恵
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