
2023年夏に放送され、謎が謎を呼ぶ展開で日本中に社会現象を巻き起こしたドラマ「VIVANT」。来る7月26日(日)、ついに待望の続編が放送スタートする。放送を前に各メディアでは、モンゴルロケをはじめとする破格のスケール、伏線が張り巡らされた脚本の妙、そして豪華俳優陣の魅力などがさんざん語り尽くされてきた。そこで本記事では、少し視点を変えてみたい。テーマはずばり「なぜ、VIVANTは“おじさん”に人気なのか?」である。自身もどっぷりと沼にハマった一人のおじさんであり、このドラマの大ファンであるWEBザテレビジョン編集長・加藤が、放送をより楽しむためのエンタメ考察として紐解いてみよう。本コラムも“エンタメ”として気軽に読んでいただきたい。
■圧倒的な「おじさん支持率」
そもそも「VIVANTがおじさんに人気」というのは筆者の体感だけではない。2023年夏クール放送時の各種テレビ視聴データ分析(※ビデオリサーチ社のデータに基づく専門家の分析など)を振り返ると、もともと「日曜劇場」枠自体が中高年男性に強いとはいえ、同作はM3層(50歳以上の男性)において他ドラマを寄せ付けない圧倒的な個人視聴率を記録していた。
さらに、視聴者がどれだけテレビ画面に釘付けになっていたかを測るREVISIO社の「注視度調査」においても、個人全体で堂々の1位を獲得。見逃し配信のU-NEXTでも、通常の国内ドラマに比べて男性層の視聴シェアが異例の高さを示すなど、「おじさんたちが熱狂」と言ってよい現象が起きている。
「考察ドラマ」といえば若年層やSNSを中心としたトレンドになりがちだが、「VIVANT」に限っては、普段はドラマを熱心に見ない中高年男性たちがテレビの前に陣取り、手に汗握って見入っていたのだ。なぜ我々おじさんは、これほどまでに「VIVANT」に惹かれてしまうのだろうか。
■世界のスパイ作品に肩を並べる可能性も…日本の諜報機関=「別班」というロマン
第一の理由は、男子が根源的に大好きな「スパイもの」「諜報機関もの」として画期的だった点だ。
世界に目を向ければ、魅力的なスパイ作品は数え切れない。アメリカのCIA(『ボーン』シリーズやドラマ『ホームランド』)、イギリスのMI6(『007』シリーズ)、ロシアのKGBやSVR(ドラマ『ジ・アメリカンズ』や映画『レッド・スパロー』)などは有名だ。さらに近年では、イスラエルの諜報機関・モサド(ドラマ『テヘラン』)や、フランスの対外治安総局・DGSE(ドラマ『ル・ビュロー』)、韓国の国家情報院・NIS(映画『シュリ』『ハント』)、そしてインドの対外情報局・RAW(映画『タイガー伝説のスパイ』『PATHAAN/パターン』)など、世界にはこんな恐るべき諜報組織があるのかと驚かされるスパイアクション作品が人気を博している。
では、日本ではどうか。「公安」をテーマにした作品はあるものの、明確に「日本の対外的な諜報・工作機関」が真正面から描かれる映像作品はほぼ皆無に等しかった。時代を遡れば「忍(しのび)・隠密」や「陰陽師」の活躍もその時代の諜報・公安活動と言えるかもしれないが、現代劇としてはリアリティを持たせるのが難しかったのだ。
しかし「VIVANT」は、長年「本当に存在するのか?」と小説や一部の都市伝説(古くから日本を陰から守ってきたとされる秘密組織「八咫烏」などと同列に語られることもあった)で囁かれていた自衛隊の非公認秘密情報部隊「別班(べっぱん)」を堂々と登場させた。
別班が本当に存在するか否かは問題ではなく、多くの男子がハリウッド映画で胸を躍らせていたあの「諜報組織のスパイもの」が、別班というモチーフを使うことで、ついに圧倒的リアリティとスケール感で現代の日本を舞台にした本格スパイ作品が生まれたのだ。これが燃えずにいられるだろうか。
■アイコニックなヒーロー「乃木憂助」の日本的魅力
第二の理由は、主人公のキャラクターだ。シリーズ化する作品には人気キャラクターあり。『007』のジェームズ・ボンド、『ボーン』シリーズのジェイソン・ボーン、『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハント(アメリカの架空組織IMF)。諜報機関とは少し異なるが、キアヌ・リーブス演じる伝説の殺し屋『ジョン・ウィック』、トム・クルーズが演じた荒くれ者の退役軍人『ジャック・リーチャー』、ブルース・ウィリス演じる『ダイ・ハード』のジョン・マクレーン刑事など、人気のアクションシリーズには必ず「めちゃくちゃに暴れ回る魅力的なキャラクター」が存在する。
だが、筋骨隆々のタフガイが銃を乱射して暴れまくるということを日本のドラマでやってしまえるはずもない。その点、「別班・乃木憂助(堺雅人)」のキャラクター設定は実に日本的で秀逸だった。表向きは丸菱商事に勤める「冴えない優男の商社マン」を演じながら、その実態はエリート中のエリート。頭が切れ、銃器の扱いにも圧倒的な技術を持つ。そして何より、自衛隊の所属で愛国心にあふれ、手にした白米数グラムの違いを感じ取り謎を暴き出すなどという、日本人らしい繊細な洞察力と特技を持ち合わせている。この「能ある鷹は爪を隠す」という最強のギャップ設定が、おじさんたちの心を掴んだのである。
■男の胸を熱くする「珠玉のバディもの」
第三の理由は、昔から続く「バディもの」を極上のスパイドラマでやってのけたことだ。
別班の乃木憂助と、警視庁公安部の刑事・野崎守(阿部寛)。身を置く組織も目的も異なる二人は、それぞれの正義のもとで行動する。時には腹を探り合い、強烈に敵対しつつも、シーズン1では絶体絶命の局面を「乃木と野崎の言葉なき信頼関係」で切り開いていく激アツな展開があった。
漫画・ドラマ・映画・アニメでもバディ要素のある作品はいつの時代も男子の胸を熱くする作品があったものだ。
「銀河英雄伝説」のラインハルトとキルヒアイス、「SLAM DUNK」の桜木花道と流川楓、「ビー・バップ・ハイスクール」のヒロシとトオル、「湘南純愛組!」の鬼塚英吉と弾間龍二、「あぶない刑事」のタカとユージ、「踊る大捜査線」の青島刑事と室井管理官など、男子を夢中にしてきた名作はまだまだ多数存在する。「最強のふたり」「ライバル関係のふたり」はいいものだ。でも「立場は違えど、互いの実力は認め合っている」…はもっとアツい。おじさんを少年にしてしまう胸アツ展開に心躍る、そんな要素も「VIVANT」にはある。
■絶対的信頼感。俳優・堺雅人の「おじさん吸引力」
そして最後に忘れてはならないのが、主演・堺雅人の凄まじい「おじさん吸引力」である。
堺雅人といえば、で連想するのはやはり『半沢直樹』だろう。2013年、そして2020年に放送されたこのドラマは、「やられたらやり返す、倍返しだ!!」という痛快なセリフとともに、広いサラリーマン世代から圧倒的な支持を得た。2013年の最終回では、視聴率低迷の現代において平成の民放ドラマ最高となる「42.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)」という驚異的な数字を叩き出し、社会現象を巻き起こした。
「半沢直樹」は、動画配信サービスのU-NEXT(旧Paravi配信作品)でも、放送から10年以上経った現在に至るまでずっと視聴ランキングTOP10圏内に顔を出すなど、いまでも繰り返し視聴され続けている。こんな“お化けドラマ”は他にないと断言してもよいだろう。
堺雅人の演技力は、鬼気迫るものがある。『半沢直樹』の前年、2012年に放送された『リーガル・ハイ』で熱演したクセつよ弁護士・古美門研介も最高だった。古美門が「絹美村(きぬみむら)」の高齢者たちを痛烈に叱咤し、彼らにかつての誇りを取り戻させるべく発破をかける長台詞のシーンは、今でもネット上で繰り返し切り抜かれ続け、伝説のシーンとして語り継がれている。
おわかりだろうか。もはや「VIVANT」が始まる前の時点ですでに、世のおじさんたちは「俳優・堺雅人」のことが大好きなのだ。そんな堺雅人が、『半沢直樹』を世に送り出したTBSドラマ班(日曜劇場チーム)と再びタッグを組み前代未聞のスケールで描いたドラマが「VIVANT」であり、主人公・乃木憂助なのだ。おじさんが見ないわけがないのである。
7月26日(日)から幕を開ける続編では、別班がどのような局面を迎え、そして乃木と野崎がどんな冒険を見せてくれるのか。元・少年のいちおじさん視聴者として、そしてドラマファンとして、テレビの前で正座してその瞬間を待ちたい。
(文/WEBザテレビジョン編集長・加藤由盛)

