虚血性心筋症の進行を抑えるためには、日々の生活習慣の見直しが土台となります。食物繊維を意識した食事で血糖・コレステロールをコントロールし、塩分を抑えて血圧管理に取り組むことが大切です。また、医師の指示のもとで行う適度な運動や禁煙も、血管の状態を整えるうえで重要な役割を果たします。このセクションでは、具体的な生活習慣の改善策について解説します。

監修医師:
後平 泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院)
2009年に旭川医科大学医学部を卒業。循環器内科のスペシャリストとして、長年、札幌東徳洲会病院を中心に救急医療や心疾患の治療に従事。2023年には睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長を歴任し、最新技術を用いた診療体制の構築に尽力。2024年より病院長に就任し、2025年10月の「札幌もいわ徳洲会病院」への名称変更。日本循環器学会 認定循環器専門医。日本睡眠学会 総合専門医・指導医。日本スポーツ協会公認 スポーツドクター。日本内科学会 認定内科医。
虚血性心筋症のリスクを下げる方法|薬物療法と医療的管理
生活習慣の改善は虚血性心筋症の管理の土台ですが、それだけでは十分なコントロールが難しい場合も少なくありません。薬物療法による積極的な医療的管理は、心臓の負担を軽減し、病状の進行を抑制し、生命予後を改善するためのもう一つの重要な柱です。このセクションでは、治療に用いられる主要な薬剤の役割と、継続的な医療管理がいかに重要であるかについて解説します。
虚血性心筋症に用いられる主な薬物療法
虚血性心筋症の薬物療法は、単一の薬で完結するものではなく、複数の異なる作用を持つ薬剤を組み合わせる「多剤併用療法」が基本となります。それぞれの薬剤が心臓や血管、代謝に多角的にアプローチすることで、最大の治療効果を目指します。
治療の中心となる薬剤群の一つが、心臓を保護し、負担を軽減する薬です。代表的なものに「ACE阻害薬」や「ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)」があります。これらは、体内で血圧を上昇させる物質の働きを抑えることで血管を広げ、血圧を下げると同時に、心臓が大きくなったり硬くなったりする「心臓リモデリング」と呼ばれる悪循環を抑制する効果があります。また、「β遮断薬」は、心臓の過剰な働きを司る交感神経の作用をブロックし、心拍数を穏やかにして心臓を休ませることで、心筋の酸素消費量を減らし、心機能を長期的に改善します。心不全治療においては、これらの薬剤は予後を改善するエビデンスが確立されています。
動脈硬化の進行そのものを抑制するためには、「スタチン系薬剤」が広く用いられます。スタチンは、肝臓でのコレステロール合成を強力に阻害することで、血液中の悪玉(LDL)コレステロール値を大幅に低下させます。これにより、新たなプラークの形成を防ぎ、既存のプラークを安定化させる効果が期待できます。さらに、血栓の形成を予防するために、「抗血小板薬」(アスピリンやクロピドグレルなど)が処方されることもあります。これは血液を固まりにくくすることで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを低減します。
糖尿病を合併している患者さんにおいては、血糖降下薬の選択が重要になります。近年、一部の血糖降下薬が、血糖値を下げるだけでなく、心血管イベントや心不全のリスクを減少させる「心血管保護効果」を持つことが大規模な臨床試験で次々と証明され、治療戦略に大きな変革をもたらしました。特に、「SGLT2阻害薬」や「GLP-1受容体作動薬」は、心不全による入院を減らし、心血管死を抑制する効果が示されており、糖尿病と心疾患を合併する患者さんに対して第一選択薬として推奨されるようになっています。これらの薬剤の選択や用量調整は、個々の患者さんの病状、腎機能、肝機能、併用薬などを総合的に評価した上で、専門医が慎重に判断します。自己判断で服薬を中断したり、変更したりすることは危険ですので、絶対に避けてください。
定期的な検査と医療機関との連携
虚血性心筋症のような慢性疾患の管理では、一度治療を開始したら終わりではなく、医療機関との継続的な連携と定期的な検査を通じて、治療効果を評価し、必要に応じて治療方針を微調整していくプロセスが不可欠です。これにより、病状のわずかな変化を早期に捉え、重症化を防ぐことが可能になります。
定期的に行われる血液検査では、血糖コントロールの状態を示すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)、脂質(LDLコレステロール、中性脂肪など)、そして腎機能の指標であるクレアチニンやeGFRなどがモニタリングされます。これらの数値は、薬物療法の効果や副作用、生活習慣改善の成果を客観的に評価するための重要な指標となります。また、BNPやNT-proBNPといった心臓への負担度を示すホルモンの値を測定することで、心不全の状態を把握することもできます。
心エコー検査は、心臓の形態と機能を評価するための非常に重要な非侵襲的検査(体にメスを入れたり強い痛みを伴ったりしない、身体への負担が少ない検査 )です。この検査により、心臓の部屋の大きさ、壁の厚さ、弁の動き、そして最も重要なポンプ機能の指標である「左室駆出率(LVEF)」を正確に測定することができます。LVEFは、心臓が1回の収縮でどれだけの血液を送り出せているかを示す割合であり、治療効果の判定や予後の予測に用いられます。症状が安定しているように感じられても、心機能が徐々に低下していることもあるため、定期的な心エコー検査を怠らないことが肝要です。
虚血性心筋症、糖尿病、慢性腎臓病など、複数の疾患を合併している場合、それぞれの専門家が連携して治療にあたる「多職種連携」が理想的な医療体制です。かかりつけ医を中心に、循環器内科、糖尿病・内分泌内科、腎臓内科の専門医が情報を共有し、治療方針を協議することで、より安全で効果的な包括的管理が可能になります。
まとめ
虚血性心筋症は、単独の病気としてではなく、糖尿病や腎機能低下(クレアチニン値の上昇)といった全身の代謝異常や臓器障害と密接に結びついた全身疾患として捉える必要があります。これらの病気は互いに悪影響を及ぼし合い、複雑な悪循環を形成します。この連鎖を断ち切るためには、食事療法、適切な運動、禁煙といった地道な生活習慣の改善を土台とし、最新の知見に基づいた薬物療法や定期的な検査による医療的管理を両輪として進めていくことが不可欠です。少しでも気になる症状に気づいたとき、あるいは健康診断で検査値の異常を指摘されたときには、決して放置せず、早めに循環器内科、糖尿病内科、腎臓内科などの専門医へ相談してください。
参考文献
厚生労働省「慢性腎臓病(CKD)」
日本循環器学会「慢性心不全診療ガイドライン(2025年改訂版)」
日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
国立循環器病研究センター「虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する手術」
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