原因が異なれば、治療法もまったく変わります。
ALアミロイドーシスには、異常な形質細胞を抑えるダラツムマブなどを用いた化学療法が行われます。一方、ATTRアミロイドーシスには、TTRの構造を安定させる「タファミジス」や、TTRの産生を遺伝子レベルで抑制するRNA干渉薬「パチシランナトリウム」などの治療薬が登場しています。焦らず専門医に相談しながら、一人ひとりに合った治療を着実に進めることが大切です。

監修医師:
後平 泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院)
2009年に旭川医科大学医学部を卒業。循環器内科のスペシャリストとして、長年、札幌東徳洲会病院を中心に救急医療や心疾患の治療に従事。2023年には睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長を歴任し、最新技術を用いた診療体制の構築に尽力。2024年より病院長に就任し、2025年10月の「札幌もいわ徳洲会病院」への名称変更。日本循環器学会 認定循環器専門医。日本睡眠学会 総合専門医・指導医。日本スポーツ協会公認 スポーツドクター。日本内科学会 認定内科医。
心アミロイドーシスの薬による治療:ATTRアミロイドーシスへのアプローチ
ATTRアミロイドーシスに対しては、ALアミロイドーシスとは全く異なるアプローチが取られます。近年、この疾患のメカニズムに基づいた新たな作用機序(薬が効く仕組み)を持つ薬剤が次々と登場し、治療の選択肢が大きく広がりました。このセクションでは、現在臨床現場で活用されているATTRアミロイドーシスに対する特異的な薬物療法について解説します。
トランスサイレチン安定化薬:タファミジスの役割
現在のATTRアミロイドーシスに対する薬物療法の中心的な薬剤となっているのが、「タファミジス(商品名:ビンダケル、ビンマックス)」です。タファミジスは、TTRたんぱく質が本来の安定した構造である4量体(4つのTTR分子が集合した複合体)を維持するのを助けることで、その構造がばらばらに分解され、アミロイド線維へと変化するのを抑制する「TTR安定化薬」と呼ばれるカテゴリーの薬剤です。
TTRは通常、この4量体の形で血液中を循環し安定していますが、加齢や遺伝子変異によってこの構造が不安定になると、単量体へと解離し、それがアミロイド形成の引き金となります。タファミジスは、TTRの分子の間に結合することで、いわば「分子の接着剤」のように働き、4量体の構造を強固に維持することで、アミロイドが形成される最初のステップを阻害します。
ATTR-ACTと呼ばれる大規模な国際共同臨床試験では、タファミジスを服用した心アミロイドーシスの患者さんにおいて、プラセボ(偽薬)を服用した患者さんと比較して、死亡率および心血管イベントによる入院率が有意に低下することが証明されました。この結果に基づき、遺伝性・野生型の両方のATTR心アミロイドーシスに適応が認められており、日本の循環器内科においても広く処方されています。
RNA干渉薬・アンチセンス核酸薬:TTR産生を源から抑える治療
近年、ATTRアミロイドーシスの治療パラダイムをさらに大きく変える可能性を秘めた、「RNA干渉(RNAi)薬」と「アンチセンス核酸薬」と呼ばれる、より根本的な作用を持つ新しいタイプの薬剤が臨床応用されています。これらの薬剤は、TTRたんぱく質が作られるプロセスそのものを標的とし、肝臓でのTTRの産生を遺伝子レベルで抑制することを目的としています。
RNA干渉薬の代表として「パチシランナトリウム(商品名:オンパットロ)」があります。この薬は、TTRたんぱく質の設計図の役割を果たすメッセンジャーRNA(mRNA)を特異的に分解することで、TTRの産生を90%以上という強力なレベルで抑制します。また、アンチセンス核酸薬である「イノテルセン」も同様にmRNAに作用し、主に遺伝性ATTRアミロイドーシスの神経症状に対して使用されています。
さらに最近では、「ブトリシラン(商品名:アムビトラ)」という皮下注射で投与可能な新しいRNA干渉薬も登場し、心症状を伴う遺伝性および野生型のATTRアミロイドーシスへの適用が拡大しています。これらの薬剤の中には、投与間隔が3ヶ月に1回と長期間に設定されているものもあり、患者さんの通院負担を軽減しながら、持続的な治療効果を維持できるという利点があります。
これらの薬剤は、タファミジスのように既存のTTRを「安定化」させるアプローチとは異なり、TTRの産生自体を「源流から断つ」という全く新しい治療戦略です。今後のATTRアミロイドーシス治療において、中心的な柱の一つとなることが大いに期待されています。どの薬剤を選択するかは、患者さん個々の病状や病型、主要な臓器障害の程度、そしてライフスタイルなどを総合的に考慮して、専門医が慎重に判断します。
まとめ
心アミロイドーシスは、かつては診断自体が非常に困難で、有効な治療法も限られていた難病でしたが、近年の診断技術と薬物療法の目覚ましい進歩により、早期に発見し、病気の進行を抑える治療を行うことが可能になりました。本記事で解説したような、原因不明の息切れ、むくみ、極度の疲れやすさ、動悸や失神などの症状が気になる方は、決して「年のせい」と片付けず、一度循環器内科への受診を検討してみてください。特に、ご高齢の男性で両手の手根管症候群の既往がある方や、ご家族にアミロイドーシスの診断を受けた方がいる場合は、専門医への相談が強く推奨されます。治療は長期にわたることが多いですが、正確な診断のもとで適切な薬物療法を継続し、定期的なフォローアップを受けることで、症状の安定と生活の質の維持・向上が十分に期待できます。まずは勇気を出して、医療機関へ相談するという第一歩を踏み出してみてください。
参考文献
日本循環器学会「心アミロイドーシス診療ガイドライン(2020年改訂版)」
難病情報センター「全身性アミロイドーシス(指定難病28)」
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