ハルキが朝から動けない日、えりなは「またか」と諦めながらワンオペをこなします。職場と保育園、家事を完璧に回すが、周囲の「大丈夫?」という心配の言葉は、逆に彼女の肩に重荷として積み重なり、限界が近づいていました。
会社に行けなくなった夫
いつものように祐樹とはなを起こす時間。リビングに降りて朝食の準備をしていたら、寝室からハルキが力なく階段を下りてきた。顔が青白い。
「えりな……ごめん。今日は、体が全く動かない」
彼がそう言うのは、週に一度か二度、波のようにやってくる。でも、今日は特にひどかった。
「大丈夫だよ。無理しなくていいから、また寝てて」
私はそう言って、彼を再び寝室へ送り出した。もちろん、心配はある。でも、それよりも先に「またか…」という諦めと、今日1日のタスクの組み立て直しが頭を占める。
ハルキが会社に休み連絡をするのを見届け、私はバタバタと朝の支度を進める。寝室にいるハルキに気を使わせないよう、子どもの準備を静かにこなすのが、この半年で身についた特技になってしまった。
「祐樹、静かにね。パパお仕事お休みで寝てるから」
「うん、わかった。パパ、おねんねなんだね」
幼い祐樹にそう言わせるのが、なんだか胸に突き刺さる。
家事、育児、仕事…私が抱えるもの
子どもたちを保育園に送った後、私も職場に向かう。今日は午後から在宅勤務に切り替えることにした。
帰宅後も休む間はない。夕食の準備と、明日のための作り置き。洗濯機を回し、畳み、掃除機をかける。夫を責める気はまったくないけれど、現実として、ハルキが動けない分、全てが私にのしかかってくる。
日が傾き、少し涼しくなってから、祐樹とはなを連れて近くの公園へ。子どもたちの笑顔を見ている間だけが、唯一、自分の心も少し呼吸できる時間だ。
「えりなちゃん、最近ずっとワンオペだね。お疲れ様」
公園で会うママ友の言葉はありがたい。でも、みんなハルキの病気のことを知っているわけではないから、私の頑張りは「育児と仕事を両立している」という表面的な部分しか見えていない。その優しさの裏にある「大変そうだね」という視線が、時々、私を追い詰める。
家に帰ると、ハルキはまだ寝室で動けずにいた。

