血液検査で確認できる「クレアチニン」の値は、腎機能の状態を示す重要な指標です。心臓のポンプ機能が低下すると腎臓への血流も減り、腎機能が悪化すると今度は心臓への負担が増すという悪循環が生じます。この「心腎連関」を断ち切るためには、血圧・血糖・尿たんぱくの管理と適切な薬物療法、そして循環器内科・腎臓内科・糖尿病内科が連携した包括的なケアが役立ちます。

監修医師:
後平 泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院)
2009年に旭川医科大学医学部を卒業。循環器内科のスペシャリストとして、長年、札幌東徳洲会病院を中心に救急医療や心疾患の治療に従事。2023年には睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長を歴任し、最新技術を用いた診療体制の構築に尽力。2024年より病院長に就任し、2025年10月の「札幌もいわ徳洲会病院」への名称変更。日本循環器学会 認定循環器専門医。日本睡眠学会 総合専門医・指導医。日本スポーツ協会公認 スポーツドクター。日本内科学会 認定内科医。
虚血性心筋症とクレアチニン|腎機能を守るための具体的な対策
クレアチニン値の上昇、すなわち腎機能の低下は、心血管疾患の予後を大きく左右する重要な因子です。腎機能の低下を防ぎ、その進行速度を可能な限り緩やかにするためには、生活習慣の管理と適切な医療的介入を両輪で進める必要があります。このセクションでは、心腎連関の悪循環を断ち切り、腎臓を守るための具体的な対策について解説します。
腎機能を維持するための生活習慣
腎機能を長期的に保護するための生活習慣の基本は、腎臓に負担をかける要因を徹底的に管理することです。特に重要なのは、「血圧」「血糖」「尿たんぱく」の3つのコントロールです。これらはすべて日々の生活習慣と密接に関連しており、地道な努力の積み重ねが腎臓の未来を守ることにつながります。
血圧の管理は、腎保護において最も重要な要素の一つです。高血圧が持続すると、腎臓内の繊細な血管(糸球体)に常に高い圧力がかかり、血管が傷ついて硬化し、フィルター機能が徐々に失われていきます。CKD患者さんの降圧目標は、多くの場合、診察室血圧で130/80mmHg未満と、より厳格に設定されます。この目標を達成するためには、前述の通り塩分摂取を1日6g未満に抑える減塩が基本となります。加えて、適度な運動、肥満の是正(適正体重の維持)、節酒、禁煙も血圧コントロールに有効です。降圧薬が処方されている場合は、自己判断で中断することなく、医師の指示通りに毎日きちんと服用を続けることが重要です。
水分摂取に関しては、個々の病状によって対応が異なります。腎機能が比較的保たれている段階では、適度な水分補給は体内の老廃物を排泄し、腎臓の負担を軽減するのに役立ちます。しかし、心不全や高度な腎機能低下がある場合には、水分が体内に溜まりすぎて心臓や肺に負担をかけるため、厳格な水分制限が必要となることがあります。適切な水分摂取量については、必ず主治医や管理栄養士に確認し、その指示に従ってください。自己判断で水を大量に飲むことは危険な場合があります。
食事におけるたんぱく質の摂取量も、腎機能に応じて調整が必要になる場合があります。たんぱく質は体にとって必須の栄養素ですが、その代謝産物(尿素や窒素など)は腎臓から排泄されるため、過剰に摂取すると腎臓への負担が増加します。腎機能が低下している方(特にeGFRが低い場合)では、医師や管理栄養士の指導のもとで、良質なたんぱく質を適量摂取する「たんぱく質制限食」が推奨されることがあります。ただし、過度な制限は栄養不良を招くため、専門家の指導なしに行うべきではありません。
薬剤管理と医療連携で腎機能低下を緩やかにする
腎機能を保護するための薬物療法は、近年大きく進歩しています。特に、以前は血糖降下薬としてのみ使用されていた「SGLT2阻害薬」は、その後の大規模臨床試験で、血糖降下作用とは独立した強力な腎保護効果があることが明らかになりました。この薬剤は、糸球体内圧を低下させるなどの機序により、糖尿病性腎症だけでなく、糖尿病のない慢性腎臓病の進行をも抑制することが示されており、CKD治療の重要な選択肢となっています。
また、新しいタイプの「非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)」であるフィネレノンなども、糖尿病を持つCKD患者さんにおいて、腎機能低下の抑制と心血管イベントの減少効果が示され、注目されています。これらの薬剤は、従来の治療薬であるACE阻害薬やARBと併用することで、さらなる腎保護効果が期待されます。どの薬剤を選択するかは、患者さん個々のeGFRのレベル、尿たんぱくの量、併存疾患などを総合的に考慮して、医師が判断します。
腎機能が低下している際には、薬剤の使用に特別な注意が必要です。多くの薬剤は腎臓で排泄されるため、腎機能に応じて投与量を減らす必要があります。また、一部の薬剤は腎臓にダメージを与える可能性があるため、使用を避けなければなりません。特に、市販の解熱鎮痛薬に多く含まれる「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」は、腎血流を低下させて急激に腎機能を悪化させることがあるため、CKD患者さんは自己判断での使用は避け、市販の鎮痛薬を使用したい場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。 他の医療機関を受診する際や、薬局で薬を購入する際には、必ず自分が慢性腎臓病であることを医師や薬剤師に伝える習慣が重要です。
腎機能の低下を早期に発見し、進行を遅らせるためには、腎臓内科、循環器内科、糖尿病内科の専門家が密に連携する体制が不可欠です。定期的に血液検査(クレアチニン、eGFR)や尿検査(尿たんぱく)で腎臓の状態をモニタリングし、その結果に基づいて治療方針を柔軟に見直していくことが、腎機能を長期的に守るための鍵となります。検査値に悪化の兆候が見られた場合には、生活習慣の再評価や薬剤の調整を速やかに行うことが推奨されます。
残念ながら、あらゆる治療を行っても腎機能の低下が進行し、末期腎不全に至った場合には、生命を維持するために透析療法(血液透析や腹膜透析)や腎移植が必要となります。腎機能がかなり低下した段階(eGFRが30を下回るなど)になったら、腎臓内科医(特に人工透析を専門とする医師)と連携し、将来の腎代替療法について事前に情報を得て、自分に合った治療法を選択するための準備を始めることが、患者さんとご家族の精神的な安心につながります。透析導入を少しでも遅らせるためにも、早期からの腎機能管理が大切です。
まとめ
虚血性心筋症は、単独の病気としてではなく、糖尿病や腎機能低下(クレアチニン値の上昇)といった全身の代謝異常や臓器障害と密接に結びついた全身疾患として捉える必要があります。これらの病気は互いに悪影響を及ぼし合い、複雑な悪循環を形成します。この連鎖を断ち切るためには、食事療法、適切な運動、禁煙といった地道な生活習慣の改善を土台とし、最新の知見に基づいた薬物療法や定期的な検査による医療的管理を両輪として進めていくことが不可欠です。少しでも気になる症状に気づいたとき、あるいは健康診断で検査値の異常を指摘されたときには、決して放置せず、早めに循環器内科、糖尿病内科、腎臓内科などの専門医へ相談してください。
参考文献
厚生労働省「慢性腎臓病(CKD)」
日本循環器学会「慢性心不全診療ガイドライン(2025年改訂版)」
日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
国立循環器病研究センター「虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する手術」
- 健康診断の「腎臓の数値の見方」をご存じですか? 結果から考えられる疾患も医師が解説
──────────── - 「血液検査前後の食事」はどうしたらいいかご存知ですか?医師が徹底解説!
──────────── - 慢性腎臓病(CKD)の早期発見のポイントを医師が解説 診断基準の「eGFR」とはなにか
────────────

