ただの疲れじゃない?「悪性貧血」が引き起こす“あの症状”と原因【医師監修】

ただの疲れじゃない?「悪性貧血」が引き起こす“あの症状”と原因【医師監修】

「疲れやすい」「手足がしびれる」——そのような症状が続いているにもかかわらず、「年齢のせいかもしれない」と見過ごしていることはないでしょうか。こうした不調の背景には、ビタミンB12欠乏症が隠れている場合があります。本記事では、悪性貧血とビタミンB12欠乏症の違いや、症状・原因・治療の流れについて詳しく解説します。

山本 佳奈

監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)

滋賀医科大学医学部卒業 / 南相馬市立総合病院や常磐病院(福島)を経て、ナビタスクリニック所属/ 専門は一般内科

悪性貧血(ビタミンB12欠乏症)とは?:ビタミンB12欠乏症との違いを知ろう

悪性貧血は、ビタミンB12欠乏症の原因の一つです。 胃から分泌される「内因子」が自己免疫性胃炎によって減少または消失し、食事から摂取したビタミンB12を十分に吸収できなくなることで発症します。一方、ビタミンB12欠乏症には、悪性貧血のほかにも、胃切除後や回腸疾患、長期のメトホルミンやプロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用、菜食など、さまざまな原因があります。女性では自己免疫疾患を合併しやすいことから悪性貧血を発症することがありますが、ビタミンB12欠乏症自体は男女を問わずみられる疾患です。

悪性貧血の定義とビタミンB12との関係

悪性貧血とは、胃から分泌される「内因子」が自己免疫性胃炎によって減少または消失し、ビタミンB12を十分に吸収できなくなることで起こる巨赤芽球性貧血の一種です。ビタミンB12欠乏症の原因の一つとして知られています。

ビタミンB12は、骨髄で赤血球のもととなる細胞(赤芽球)が遺伝子(DNA)を正しく合成し、分裂・成熟するために欠かせない栄養素です。ビタミンB12が不足すると、細胞が正常に分裂できなくなり、「巨赤芽球」と呼ばれる異常な細胞が作られます。その結果、骨髄で十分な赤血球を産生できなくなり(無効造血)、酸素を運ぶ力が低下することで、疲れやすさや息切れ、立ちくらみなどの貧血症状が現れます。また、ビタミンB12は神経の働きを保つためにも重要な栄養素であるため、不足が続くと、手足のしびれや感覚障害、歩きにくさなどの神経症状が現れるのも特徴です。

かつては有効な治療法がなく、進行すると命に関わる病気だったことから「悪性貧血」という名前がつけられました。しかし現在では、ビタミンB12の筋肉注射や高用量の経口製剤による補充療法が確立されており、適切な治療を開始すれば、多くの場合で貧血や神経症状の改善が期待できます。ただし、悪性貧血ではビタミンB12を吸収する仕組みが回復するわけではないため、継続的な補充療法が必要となることが一般的です。

ビタミンB12が吸収されない仕組み:内因子との関係

悪性貧血の原因は、食事からのビタミンB12摂取不足ではなく、体内でビタミンB12を十分に吸収できないことにあります。その吸収に欠かせないのが、胃の壁細胞から分泌される「内因子(ないいんし)」と呼ばれる糖タンパク質です。

内因子は、いわば「ビタミンB12を小腸まで安全に送り届ける専用の案内人」です。食事から摂取したビタミンB12は胃の中で内因子と結合し、小腸の末端(回腸)にある受容体に運ばれることで初めて効率よく吸収されます。しかし悪性貧血では、胃の壁細胞や内因子を標的とする自己免疫反応(抗壁細胞抗体や抗内因子抗体)が起こり、内因子が十分に作られなくなります。その結果、壁細胞が障害されて内因子が十分に作られなくなり、どれほど肉や魚などからビタミンB12を摂取しても、ビタミンB12を小腸で十分に吸収できなくなり、体内ではビタミンB12不足が進行してしまいます。
この自己免疫的なメカニズムにより、悪性貧血は単なる栄養不足ではなく、自己免疫疾患の一つとして位置づける理由です。悪性貧血の背景には、壁細胞が障害されて胃粘膜が著しく萎縮する「自己免疫性胃炎(A型胃炎)」が存在し、橋本病など他の自己免疫疾患を合併することも少なくありません。また、、自己免疫性胃炎では胃がんのリスクが高まることが報告されているため、貧血の治療だけでなく、必要に応じて定期的な内視鏡検査などを含めた経過観察も重要です。

まとめ

悪性貧血は、ビタミンB12の吸収障害によって起こる代表的なビタミンB12欠乏症です。疲れや息切れといった貧血症状だけでなく、手足のしびれ、舌の痛み、気分の落ち込み、記憶力の低下など、一見すると貧血とは結びつきにくい症状が現れることもあります。
ビタミンB12欠乏症の背景には、悪性貧血(自己免疫性胃炎)のほか、胃切除後、動物性食品の摂取不足、妊娠・授乳、加齢など、さまざまな原因が考えられます。症状が気になる場合やリスク因子がある場合は、自己判断せず、内科や血液内科などでビタミンB12値を含めた血液検査を受けることが大切です。
ビタミンB12欠乏症は、早期に発見し適切な補充療法を開始すれば改善が期待できる疾患です。一方で、神経症状は治療が遅れると回復に時間がかかったり、一部の症状が残ったりすることがあります。「年齢のせい」「疲れのせい」と見過ごさず、気になる症状があれば早めに医療機関へ相談しましょう。

参考文献

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」

国立健康・栄養研究所「ビタミンB12の解説」

配信元: Medical DOC

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