脳血管攣縮が起きるしくみは、一つの原因では説明できません。出血した血液の中に含まれる成分が、血管を広げる働きを持つ物質を減らしたり、強い血管収縮を引き起こすペプチドを増やしたりすることが明らかになっています。この記事では、一酸化窒素の減少やエンドセリンの上昇、Rhoキナーゼの活性化など、脳血管攣縮の背景にある複数のメカニズムについてご説明します。

監修医師:
伊藤 たえ(医師)
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
脳血管攣縮の症状——見逃してはいけない神経症状の変化
脳血管攣縮の症状は、脳のどの部位の血流が低下するかによって異なります。具体的にどのような症状が現れるのか、また症状の進み方の特徴について解説します。
典型的な神経症状とその現れ方
症候性脳血管攣縮(遅発性脳虚血)の症状は、くも膜下出血発症から4〜9日後に出現することが多く、数時間をかけて徐々に進行する点が特徴的です。急激な発症というよりも、ゆっくりと状態が悪化していく経過をたどります。
最初に現れやすい症状のひとつが、見当識障害(けんとうしきしょうがい)や意識水準の低下です。「今日が何日かわからない」「話しかけても反応が鈍い」といった変化として現れることがあります。その後、脳の虚血(血流不足)が特定の領域に及ぶにつれて、局所的な神経症状が加わっていきます。
局所症状として代表的なのは、片側の手足の麻痺(運動障害)、失語症(言葉がうまく出てこない、または他者の言葉が理解できない状態)、半盲(視野の一部が見えなくなること)、無視(身体の片側を認識しにくくなること)などです。これらは、血流が低下した脳の部位によって異なり、例えば中大脳動脈の領域が影響を受けると片麻痺や失語が出やすく、前大脳動脈の領域では下肢の麻痺や人格変化が現れることがあります。
遅発性脳虚血(DCI)の診断における注意点
脳血管攣縮によって引き起こされる神経症状の悪化を、医学的には「遅発性脳虚血(delayed cerebral ischemia:DCI)」と呼びます。その定義は、他の原因では説明できない神経症状の増悪が1時間以上持続し、かつ画像検査(脳血管撮影やCTなど)、脳血流量測定、または血流速度の変化などで客観的に評価できた場合とされています。
診断において重要なのは、除外診断の考え方です。くも膜下出血後の意識障害や神経症状の悪化は、脳血管攣縮以外にもさまざまな原因で起こり得ます。水頭症(脳脊髄液の循環障害)、電解質異常(特に低ナトリウム血症)、発熱、感染症、非痙攣(ひけいれん)性てんかん重積状態、肺塞栓などが鑑別疾患として挙げられます。これらを画像検査や血液検査などで否定したうえで、脳血管攣縮の時期(4〜14日目)に症状が出現し、新たな脳梗塞巣が確認された場合に、症候性脳血管攣縮と診断されることが一般的です。
もうひとつ留意すべき点は、症状が目立たないまま脳梗塞が見つかる「無症候性DCI」の存在です。神経症状だけを追っていると見逃す可能性があるため、ICUなどでは多面的なモニタリングが重視されます。
また、脳血管攣縮以外の機序によっても脳虚血が起こり得ることが近年明らかになっています。微小血管の攣縮(画像では捉えにくい細い血管の収縮)、微小血栓の形成、皮質広汎性脱分極(脳内で異常な電気活動が広がる現象)と呼ばれる脳の異常な電気的現象なども、遅発性脳虚血に関与することが報告されています。こうした多様な病態の存在が、治療をより複雑にしている一因でもあります。
モニタリングの方法
脳血管攣縮を早期に発見するために、臨床現場ではさまざまなモニタリング方法が活用されています。
経頭蓋超音波ドプラ法(TCD)は、頭蓋骨の外から超音波を当てることで、脳の主要な動脈の血流速度を非侵襲的に測定できる検査です。血管が狭くなると血流速度が上昇するため、中大脳動脈の平均血流速度が120cm/秒未満であれば攣縮なし、200cm/秒を超える場合や内頸動脈との速度比(MCA/ICA比)が6を超える場合は攣縮ありと評価されます。そのため、神経症状が現れる前に血流変化を捉えられる可能性があります。
CT血管造影(CTA)やCT灌流画像(CTP)は、脳血管の狭窄と脳血流量を画像として評価できる検査です。
意識障害が遷延している患者さんでは持続脳波モニタリングが有用で、アルファ波の減衰などの変化が画像変化の44時間前に検出されたとする報告もあります。また、侵襲的ではありますが、脳組織酸素分圧測定や脳組織の代謝物を測定する方法なども、重症患者さんへの対応として活用されることがあります。
まとめ
くも膜下出血後の脳血管攣縮は、発症から数日後に現れ、脳虚血や脳梗塞につながり得る深刻な合併症です。症状は意識レベルの低下から局所的な麻痺・失語などへと進み、見逃されると取り返しのつかない後遺症を残すことがあります。現在の日本では、塩酸ファスジルやクラゾセンタン(ピヴラッツ)などの薬剤を含む予防・治療体制が整いつつあり、適切な管理によって予後改善が期待できます。
くも膜下出血後のご本人やご家族は、攣縮期(4〜14日目)に神経症状の変化が現れた場合には速やかに医療スタッフに相談し、多職種チームによる専門的な管理を受けることが大切です。
参考文献
日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン 2021 [改訂2025]」
厚生労働省「第3回 脳卒中ってなぁに? 」
厚生労働省「脳卒中に関する留意事項」
日本脳神経外科学会「暗ぞ先端承認によるくも膜下出血の予後の変化」
- 「外傷性くも膜下出血の後遺症」が残りやすい原因は?合併症や後遺障害等級も医師が解説!
──────────── - 危険なのは「ズキズキ脈打つ頭痛」「突然バットで殴られたような頭痛」どっち?【医師解説】
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