(写真:Smappa!Group)
下町ホスト#62
眼鏡ギャルは撮影の日以降、仕事へゆく回数が増えた。機嫌は悪くなく、喧嘩もかなり減った。そして、私の宣材写真は無事に変更される。真新しいチャラチャラとした宣材写真は、下町のホストクラブの通称男本の中で明らかに浮いていた。どちらに転ぶかわからないが、私は内心、とてつもなく呼びがかかることを期待していた。
そんな私の宣材写真を見たパラパラ男も数日後に撮り直し、笑顔すぎる異様に浮いた写真へと変わっていた。そんな連鎖は少しずつ広がり、ちらほら「写真を撮り直そうぜ!」なんて会話が席で繰り広げられる。しかし、あの宣材写真を見たから席に呼ぶなんて幻想は、すぐに薄れていった。数件だけ席には呼ばれたが、適当に揶揄われて終わった。更に数日経つと、誰も触れなくなる。それと同時に、その連鎖もあっさりと途切れていった。
いつも通りにいい香りを纏った美しい青年が、珍しく私を仕事前のご飯に誘った。
「シュンさ、宣材写真ありがとうな。ラーメンでいい?」
「もちろんですよ。ありがとうございます。」
「先、車乗ってて。これ鍵。」
あの真っ黒なセルシオの鍵を私に渡し、美しい青年は店の何処かへ消えていった。私は目で追うのをやめて、さっさと車へ向かい助手席で静かに待った。思っていたよりも早く美しい青年は戻ってきて、エンジンをかける。特に会話はなく、車体通りのディープなBGMがなんだか心地良かった。
美しい青年はいつものラーメンを、いつも通りに啜る。珍しく私から口を開いた。
「なんか浮いちゃってますよね。あれ。」
水を大きく一口飲んでから、美しい青年が私の顔を見た。
「いいんだよ。あれで。ホストの意識多少変わったよ。」
「そうですかね。もう誰も話さなくなってますけど。」
「あとは、俺らの仕事だから。」
「はい、、、」
「負けらんねぇよな。新宿にさ。」
「新宿ですか?」
「うん。この店もっとでっかくするよ。俺が。」
「、、、」
「シュンは辞めんだよな。この店。」
「はい。そのつもりです。すみません。」
「実を言うとさ、辞めるの止めろってすげー言われてんのよ。」
「そうなんですか、、、すみません。」
「いや、俺は止める気ないからさ、上手くやるよ。シュンは行った方がいいよ。俺みたいになんなよ。」
「そんなこと言わないでくださいよ。」
「嘘だよ。ばーか。」
「お前、誕生日いつだっけ?」
「11月2日です。」
「じゃあさ、今月末にイベントやれよ。誕生日イベント。」
「マジすか? 急じゃないですか?」
「大丈夫。スケジュールは俺がやる。」
「いや、成立しますかね?」
「させろよ。売れよ。この先、毎日それ以上やんだよ。」
「、、、」
「どうした?」
「なんで、急にそこまで言ってくれるんですか?」
「察しろ。いつか恩返せよ。応援してるよ。」
そう言って美しい青年は残りのラーメンを丁寧に啜った。私は、ふやけてしまった麺を一気に頬張り、まだ仄かに温かいスープで流し込んだ。
ふたたび乗り込んだ黒いセルシオはやはりピカピカで、いい香りのする助手席に座り、少し遠回りをする美しい青年の横顔を目に焼き付けた。
店に着くと、美しい青年は既に混み始めている店内をぐるりと見渡し、自分の卓ではなく中堅の席から挨拶をして回り始めた。
私は美しい青年の席に着き、自然と口角が上がるのを抑えながら、目の前のお酒をゆっくりと飲んだ。
『クズ』
星屑のように散らばるクッキーを誰かに運ぶ蟻になりたい
きらきらと陽射しがうざい山手線三周するとちょっといいかも
だらだらと天気崩れる腹の音君は誰かに抱かれておりぬ
冷風に靡くお前はちまちまと時折光る宝毛を抜く
温かい少量の血を拭き取って誰も知らない夏を見つける
(写真:SHUN)

