悪性貧血では、食事からしっかりビタミンB12を摂取していても、身体がそれを十分に吸収できない状態が生じます。その鍵を握るのが「内因子」という物質です。なぜ吸収がうまくいかなくなるのか、そのメカニズムと、自己免疫疾患との関わりについてわかりやすく説明します。

監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)
滋賀医科大学医学部卒業 / 南相馬市立総合病院や常磐病院(福島)を経て、ナビタスクリニック所属/ 専門は一般内科
女性に多い悪性貧血と、ビタミンB12欠乏症の主なリスク
悪性貧血は、男性よりも女性に多く見られる傾向があり、橋本病など他の自己免疫疾患を合併することもあります。一方、ビタミンB12欠乏症は、悪性貧血だけでなく、胃切除後や消化管の病気、動物性食品をほとんど摂取しない食生活、特定の薬剤の長期使用など、さまざまな原因によって男女を問わず起こります。このセクションでは、女性が注意したい自己免疫疾患との関連や、妊娠・授乳、食生活などに伴うビタミンB12欠乏のリスクについて解説します。
自己免疫疾患との関連と女性ホルモンの影響
悪性貧血の原因となる自己免疫性胃炎は、男性より女性に多くみられる自己免疫疾患の一つです。橋本病(慢性甲状腺炎)やバセドウ病、関節リウマチ、1型糖尿病などの自己免疫疾患は女性に多いことが知られており、悪性貧血もその一つと考えられています。胃の壁細胞や内因子を攻撃する自己抗体が生じることで、ビタミンB12を十分に吸収できなくなります。
エストロゲンをはじめとする女性ホルモンは、免疫機能に影響を及ぼすことが知られており、女性で自己免疫疾患が多い一因と考えられています。しかし、悪性貧血の発症には遺伝的要因や環境要因なども関与すると考えられており、その詳しい仕組みは完全には解明されていません。
また、橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患では、悪性貧血や自己免疫性胃炎を合併することがあることが複数の研究で報告されています。そのため、橋本病などの自己免疫疾患があり、貧血や手足のしびれ、舌の痛みなどビタミンB12欠乏症を疑う症状がある場合には、血清ビタミンB12値や平均赤血球容積(MCV)などの検査を検討するとよいでしょう。
食生活・ダイエット・菜食主義によるビタミンB12不足
自己免疫による吸収障害だけでなく、日常的な「食事からの摂取不足」によってビタミンB12欠乏症を発症することもあります。ビタミンB12は牛・豚・鶏のレバーや肉類、魚介類(アサリやサンマなど)、乳製品、卵などの動物性食品に多く含まれています。一方、野菜や果物などの植物性食品にはほとんど含まれていないため、特にヴィーガン(完全菜食)や動物性食品の摂取が少ない食生活を続けている方では、ビタミンB12不足のリスクが高くなります。
また一般の女性でも、極端なダイエットや食事制限などにより動物性食品の摂取量が少なくなると、ビタミンB12が不足することがあります。ビタミンB12は体内に一定量蓄えられていますが、肉や魚、卵、乳製品などの摂取が極端に少ない食生活が長期間続くと、体内の貯蔵量が徐々に減少し、ビタミンB12欠乏症を発症する原因となります。
本来、ビタミンB12は肝臓の中に約2〜5mg(数年分に相当する量)が蓄えられており、胆汁とともに一腸へ分泌された後も再び体内に再吸収される腸肝循環によって効率よく再利用されています。そのため、ビタミンB12の吸収が著しく低下したり、食事からの摂取が極端に不足したりしても、体内の蓄えが完全に尽きて本格的な貧血や神経症状が現れるまでには、一般的に数年(2〜5年程度)かかるとされています。そのため、疲れやすさや息切れ、手足のしびれなどの症状が現れた時点では、ビタミンB12不足が長期間にわたって進行していた可能性があります。動物性食品の摂取が少ない方は、日頃からビタミンB12を意識した食生活を心がけ、必要に応じてサプリメントなどによる補充も検討するとよいでしょう。
まとめ
悪性貧血は、ビタミンB12の吸収障害によって起こる代表的なビタミンB12欠乏症です。疲れや息切れといった貧血症状だけでなく、手足のしびれ、舌の痛み、気分の落ち込み、記憶力の低下など、一見すると貧血とは結びつきにくい症状が現れることもあります。
ビタミンB12欠乏症の背景には、悪性貧血(自己免疫性胃炎)のほか、胃切除後、動物性食品の摂取不足、妊娠・授乳、加齢など、さまざまな原因が考えられます。症状が気になる場合やリスク因子がある場合は、自己判断せず、内科や血液内科などでビタミンB12値を含めた血液検査を受けることが大切です。
ビタミンB12欠乏症は、早期に発見し適切な補充療法を開始すれば改善が期待できる疾患です。一方で、神経症状は治療が遅れると回復に時間がかかったり、一部の症状が残ったりすることがあります。「年齢のせい」「疲れのせい」と見過ごさず、気になる症状があれば早めに医療機関へ相談しましょう。
参考文献
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
国立健康・栄養研究所「ビタミンB12の解説」
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