「物がどう見える」と危険?2型糖尿病による「目のダメージと進行段階」【医師監修】

「物がどう見える」と危険?2型糖尿病による「目のダメージと進行段階」【医師監修】

2型糖尿病は、高血糖が続くことで全身の細い血管に少しずつダメージを与える病気です。なかでも、目の奥にある網膜は毛細血管が密集しているため、影響を受けやすい部位のひとつとして知られています。この記事では、血糖値の上昇が網膜にどのような変化をもたらすのか、そして病状が進行するにつれて何が起こるのかを、わかりやすく解説します。

井筒 琢磨

監修医師:
井筒 琢磨(医師)

2014年岩手医科大学卒
2016年仙台市立病院循環器内科
2019年江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科
2023年岩手県立中央病院糖尿病・内分泌内科 兼 救急診療科
2023年医療法人社団啓愛会理事
2026年孝仁病院美希病院
所属学会
日本医師会 産業医
日本循環器学会 循環器専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医
日本内科学会 総合内科専門医

2型糖尿病が目に与えるダメージのメカニズム

このセクションでは、2型糖尿病が眼球の内部にどのような影響を与えるのか、そのメカニズムについて解説します。
2型糖尿病は、インスリンの分泌不足や働き低下によって血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高い状態が続く病気です。高血糖が長期間放置されると、全身の細い血管の内壁が徐々にダメージを受けて脆くなります。特に目の奥にある網膜(もうまく:目をカメラに例えると光を映し出すフィルムに当たる組織)は、無数の非常に細い毛細血管が網の目のように密集しているため、こうした高血糖による血管障害のダメージを非常に受けやすい代表的な部位です。

網膜の血管が傷つく仕組み

網膜には、視覚情報を捉えて脳へ伝えるために欠かせない視細胞や神経細胞が集まっています。これらの細胞に酸素や栄養をくまなく届けているのが毛細血管です。慢性的な高血糖状態が続くと、血管の壁を構成する細胞が破壊されて柔軟性が失われ、血栓が詰まったり、逆に血管が脆くなって出血を起こしやすくなったりします。
こうした高血糖による血管の破壊によって網膜に障害が起こる病気を「糖尿病網膜症」といいます。糖尿病網膜症は、初期〜中期の段階では痛みや視力の低下といった自覚症状がほとんどありません。そのため、「見えているから大丈夫」と過信してしまい、本人が気づかないうちに水面下で深刻なダメージが進行してしまうケースが多くあります。
さらに、網膜の中心部であり物を見る視覚の要である「黄斑(おうはん)」付近の血管が傷つくと、血管から血液中の成分(水分や脂質)が漏れ出し、網膜の中心部にたまってむくみ(腫れ)が生じます。これを「糖尿病黄斑浮腫(おうはんふしゅ)」と呼び、進行段階を問わず急激な視力低下や「物が歪んで見える」といった強い視覚障害を引き起こす大きな要因となります。

病状が進むにつれて起こる変化

糖尿病網膜症は、病態の進行度によって大きく「単純網膜症」「前増殖網膜症」「増殖網膜症」の3つの段階に分類されます。
1. 単純網膜症(初期)
血管の壁が弱くなり、点状の小さな出血や「滲出斑(しんしゅつはん:漏れ出た脂質などが固まったシミ)」が生じる段階です。自覚症状はほぼありませんが、血管の傷みは確実に始まっています。
2. 前増殖網膜症(中期)
血管の詰まりが広がり、網膜の広い範囲で、血流が滞って必要な酸素や栄養が十分届かなくなる状態(虚血:きょけつ)が起こる段階です。視界に大きな変化を感じないことも多いですが、放置すると危険な最終段階へ進行するため、レーザー治療(網膜光凝固術)などの早期介入が必要となります。
3. 増殖網膜症(重症)
酸素不足に陥った網膜がどうにか酸素を得ようとして、「新生血管」と呼ばれる新しい血管を突突貫工事のように伸ばし始める段階です。しかし、この新生血管は構造が極めて脆く、簡単に破れて眼球内に大量出血(硝子体出血:しょうしたいしゅっけつ)を引き起こしたり、網膜を引っ張って引き剥がしてしまう「牽引性網膜剥離(もうまくはくり)」や眼圧が異常上昇する「新生血管緑内障」を合併します。
増殖網膜症まで進行してしまうと、手術を行っても視力の完全な回復が難しくなる場合があります。厚生労働省の統計でも、糖尿病網膜症は成人の後天性失明原因の第3位(あるいは上位)として知られており、糖尿病と診断された初期段階からの定期的な眼科受診と良好な血糖コントロールがいかに重要かが分かります。2型糖尿病と診断されてからの年数が長い方や血糖値が高い状態が続いていた方ほど網膜症の発症リスクが高まるため、見え方に異常がない時期から定期的に眼底検査を受けることが、将来の失明を防ぐための決定的な行動となります。

まとめ

2型糖尿病は、日常生活のさまざまな側面と深く関わる病気です。糖尿病になると、失明の原因となる糖尿病網膜症だけでなく、一般的な白内障や緑内障にもなりやすくなりますが、早期発見と適切な血糖コントロールによってこれらのリスクを下げることができます。また、食べ方の順番や速さ、見落とされやすい食品の選び方、睡眠やストレスといった生活習慣、そして治療の継続のあり方——これらをひとつひとつ見直すことが、合併症の予防につながります。「症状がないから問題ない」という思い込みを手放し、定期的な受診と検査を続けることが大切です。気になる症状がある場合や血糖管理に不安を感じる場合は、糖尿病内科や内分泌内科などの医療機関に相談されることをお勧めします。

参考文献

厚生労働省「糖尿病 | 生活習慣病などの情報」

糖尿病情報センター「網膜症」

糖尿病情報センター「合併症」

日本腎臓学会「慢性腎臓病」

糖尿病情報センター「糖尿病の食事のはなし(基本編)」

配信元: Medical DOC

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