脳血管攣縮の症状は、突然ではなく数時間をかけてゆっくりと現れるのが特徴です。言葉がうまく出てこない、手足に力が入らない、反応が鈍いといった変化は、脳の血流が低下しているサインかもしれません。この記事では、症候性脳血管攣縮(遅発性脳虚血)の典型的な症状や、診断における除外診断の考え方、モニタリング方法について詳しくご説明します。

監修医師:
伊藤 たえ(医師)
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
脳血管攣縮の致死率と予後——患者さんへの影響
脳血管攣縮は、くも膜下出血の急性期を乗り越えたあとにも発生する可能性がある重大な合併症です。くも膜下出血の治療が無事に行われたとしても、その後に脳血管攣縮による脳虚血や脳梗塞が起こることで、生命予後や後遺症の程度が大きく左右されることがあります。そのため、くも膜下出血の経過を理解するうえでは、脳血管攣縮の危険性や予後への影響について知っておくことが重要です。
脳血管攣縮は予後を大きく左右する
脳血管攣縮は、くも膜下出血後の予後を左右する主要な因子のひとつです。脳血管攣縮によって死亡したり機能障害が残ることがあります。ただし、治療法の進歩や施設・患者さんの状態によって実際の転帰は異なります。近年のランダム化比較試験(RCT)では、DCI(遅発性脳虚血)の発症率が以前いわれていた約30%から約20%程度まで低下してきているという報告もあり、管理方法の向上が成果をあげていると考えられます。
脳血管攣縮から脳梗塞に至った場合、その後遺症として片麻痺、失語症、認知機能障害、うつ状態、疲労感などが残ることがあります。くも膜下出血を生き延びた方であっても、脳血管攣縮による脳梗塞が起きてしまうと、身体機能の低下や生活の質(QOL)の大幅な低下につながる可能性があります。
予後に影響するリスク因子
脳血管攣縮が起きやすく、かつ重症化しやすい方には、いくつかの傾向が認められています。
最も重要なリスク因子のひとつは、くも膜下腔の血腫の量です。CT検査において厚い血腫や局所的な血腫が確認された場合(フィッシャー分類グループ3)は、症候性脳血管攣縮の発症率が高いと報告されています。CT値が60以上を示す高吸収域(血液が濃く映る部分)が広く認められる場合も、脳血管攣縮のリスクが高いとされます。すなわち、出血量が多いほど、溶け出す血液成分の量も多くなり、血管収縮を引き起こす物質の暴露が強まると考えられます。
一方、CT上でくも膜下腔の血液が確認されなかった方でも、重度の脳血管攣縮を起こした症例が報告されており、血液成分以外の何らかの機序も関与している可能性が指摘されています。また、喫煙歴、高血圧、年齢なども予後に影響する因子として研究されています。
くも膜下出血の重症度も重要な要素です。入院時の意識レベルが低い(重症)患者さんほど、early brain injury(EBI:出血直後から起こる脳損傷)が強く、その後のDCIリスクや全体的な予後にも影響することが考えられています。EBIとDCIはオーバーラップする部分があり、出血発症直後から適切な管理を行うことが、長期的な予後改善につながると考えられます。
長期的な回復の見通し
くも膜下出血とその後の脳血管攣縮を経た患者さんの回復は、長期にわたることがあります。ある研究では、SAH後の患者さんでは少なくとも2年間にわたって神経機能の改善が期待できると報告されています。急性期の予後だけでなく、リハビリテーションや長期フォローアップの重要性が改めて示されています。
破裂脳動脈瘤の治療として開頭クリッピング術とコイル塞栓術を比較した国際的なRCTに参加した患者さんを10年以上追跡した研究では、コイル塞栓術を受けた患者さんで健康関連QOLが高いことが報告されました。ただし、この結果は手術方法の比較であり、個々の患者さんに適した治療法は病変の形状や状態によって異なります。
退院後も、実行機能障害、記憶の問題、集中力の低下、不安、うつ状態、疲労などが長期にわたって残ることがあります。こうした症状は、身体的な麻痺よりも目立ちにくいために見過ごされやすい一方で、日常生活や社会復帰に大きな影響を与えます。患者さんとご家族が十分な情報と支援を受けられる体制が、予後改善のうえで欠かせません。
まとめ
くも膜下出血後の脳血管攣縮は、発症から数日後に現れ、脳虚血や脳梗塞につながり得る深刻な合併症です。症状は意識レベルの低下から局所的な麻痺・失語などへと進み、見逃されると取り返しのつかない後遺症を残すことがあります。現在の日本では、塩酸ファスジルやクラゾセンタン(ピヴラッツ)などの薬剤を含む予防・治療体制が整いつつあり、適切な管理によって予後改善が期待できます。
くも膜下出血後のご本人やご家族は、攣縮期(4〜14日目)に神経症状の変化が現れた場合には速やかに医療スタッフに相談し、多職種チームによる専門的な管理を受けることが大切です。
参考文献
日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン 2021 [改訂2025]」
厚生労働省「第3回 脳卒中ってなぁに? 」
厚生労働省「脳卒中に関する留意事項」
日本脳神経外科学会「暗ぞ先端承認によるくも膜下出血の予後の変化」
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