
■文章にすることで自身の気持ちや周囲を見つめ直せた
――文章で自己表現をすることについて、お笑いの仕事やネタ作りと比べ、どんなことにおもしろみを感じましたか?
【芝大輔】自分は普段、ほとんど読書もしないですし、文章を書くという習慣もないんです。けれど、書くという体験は話すよりも自分がどんなことを考えているか、確認しながら出力する作業なんですよね。それがすごく楽しかったです。
喋るだけのほうがラクはラクなんですけど、文字にすると書き方や言葉の選び方も見つめ直す時間が絶対に出ますよね。これって意識しないとなかなかできないことなので、いい経験になりました。普段の喋る仕事でも、エッセイのために思い出したエピソードを話すことができましたしね(笑)。

――かが屋の加賀翔さんがカメラマンを担当しています。撮影時のエピソードを教えてください。
【芝大輔】『煙太郎』というタイトルをなぞって、タバコを吸うシーンを何度も撮影したんです。そこで、タバコを吸えるハウススタジオを探してくれたみたいで。ありがたいんですけど、メイク中も灰皿を置いてくれて、「いやメイク中は…」と何度も断りつつ、撮影日にだいぶ寿命を縮めたんじゃないかってくらい、吸わせてもらいました(笑)。
芸人なので、ちょけて撮影するべきかなとも思いましたが、かっこいい写真ばっかりなのもおもしろくなるだろうと思い、途中からなんとなく吹っ切れましたね。
加賀が「めちゃくちゃいい写真が撮れました」と言ってくれるんですけど、出来上がりを見たら写真90ページって。驚きましたね。これでページがもつなら、自分も大したもんだなと思います。

――エッセイでは、相方のともしげさんについても触れられていますが、ともしげさんについての思いもお聞かせください。
【芝大輔】初めて会ったときにかわいらしいやつだと思っていたんです。でもコンビを組んで、知れば知るほどやばいかもって思いましたし、周りもみんなそんな反応なんですよね。
営業の仕事でも、前の席に座ったおばちゃんからともしげが「かわいい」って言われるたびに、「人んちの子だからかわいいって思うんですよ」って答えるくらい。毎日だったらたまらないですよ。
でも、たまに恩恵もあって…ともしげって地球みたいだなと思うんです。住みやすいと思って住み始めたものの、噴火するときも台風が来るときもあるし、でもそれはしゃあないかって。だからともしげのいいところもやばいところも、おもしろみとして皆さんに見つけてもらえたらうれしいですね。
今の僕はちょっと距離をあけつつ、ともしげに寄せてるっていう感じです。正面に立っているとこっちが持たないので、並走するって感覚ですね。

■今感じる、テレビへの思い
――著書ではテレビへの思いも語られています。あらためて、今のテレビに対する気持ちを伺えますでしょうか。
【芝大輔】このエッセイを書き始めたきっかけが、「テレビに関する何かを書いてみませんか?」とお声がけいただいたことなんです。年末のタイミングだったので、まずは「M-1グランプリ」について書いてみようかと。
僕は愛媛の田舎で生まれ育って、幼少期はテレビしか楽しみがなかったんです。あの箱の中に入りたいと願い続けて、最近ようやく入れましたが、今のテレビは昔と違いますよね。
テレビは今、過渡期で、これからどうなっていくのかよくわからない状態だと思います。でもこちらが備えるもんでもないし、方法もわからない。僕は元来頼まれたらやるタイプなので、こちらから躍起になって出ていくもんでもないかなぁと思ってます。
なので、もっとテレビに出たい!という欲はだんだんとなくなっている気はしています。年のせいもあるかもしれないですけど(苦笑)。でもその一方で、自分が出るこの番組を当ててやろう、という苦労もしてみたい欲もあるんですよね。

――テレビで代表作を作りたいという思いは?
【芝大輔】それはもちろんあります。結局今のところ、モグライダーは「M-1グランプリで出てきた人」という印象でしょうから。これまではライブばっかり出て、おもしろければいいというスタンスだったので、テレビの制作のことなんてあまり考えないでやってきたんです。
でも今は大人のみなさんと、大人の事情を踏まえたうえで楽しくやっていこうというスタンスに変わってきた気がします。売れたのが30代後半ということもあって、わりと抵抗なくすんなり、テレビに出るってこういうことなんだと気づけたのもよかったと思います。

■モグライダーの次のステージ
――ちなみに「M-1グランプリ」を昨年卒業されて、芝さんの中で「M-1グランプリ」は今あらためてどんな存在になりましたか?
【芝大輔】2度決勝進出したんですけど、1度目が個人的には最初で最後だろうと思っていたんですよ。自分たちも含めてバカなメンツで出て、結局愛されおじさんが優勝して、みんな泣いてて。これで自分の中で完結したような思いでした。
翌々年にもう一度決勝に進出したときは、周りは賞レースを見て育って、「M-1グランプリ」で優勝することを目標に芸人になった人たちばかりになっていたんです。これをきっかけに売れて金持ちになりたいとか、そういう芸人本来のモチベーションをみんなが持っていないことに違和感がありました。言葉を選ばずに言うと、自分は「M-1グランプリ」に興味を失っていたというか。
「M-1グランプリ」も、テレビ同様に過渡期なんだと思います。そもそも、僕が競争に向いてない性格なんでしょうね。大きな賞レースの舞台を経験したことで、もうちょっとこう、色気がある方向に行きたいかなと考えるようになりました。

――色気というと、具体的には…?
芝:「M-1グランプリ」のようにルールがあって、この中でよーいどんでもいいとは思うんです。でも、このルールが補助輪のように見えてしまうときがあるんですよね。
たとえば、ナイツはずっと同じことをしているんですよ。賞レースに出ようが寄席に行こうが、ずっと同じネタ。でもウケるんです。今の芸人たちが賞レース用に作っているネタとは違って、ナイツはアドリブを入れたりせずに同じことをするだけで、どこに行ってもウケる。
これって、ナイツの漫才がうまいからなのは当然なんですけど、賞レースに躍起になっていたら、ここまではいかなかったと思うんです。もう一個上の段階で笑いをわかっているからこそ、「M-1グランプリ」に合わせても当然ウケるというか。
芸人の本来の目的って、呼ばれたところでお客さんを笑かすことじゃないですか。それが念頭にあったからこそ、「M-1グランプリ」の気迫みたいなところがどうしても恥ずかしかった部分が僕にあったのだと思います。
賞レースでももちろんお客さんを笑わせたいけど、ナイツのようにもっといろいろなところでたくさんのお客さんを笑わせたい。それが、「M-1グランプリ」を卒業した僕たちの次のステージですかね。
取材・文=イワイユウ
◆スタイリスト/高橋めぐみ
◆ヘア&メーク/松本希望
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