1.序章:なぜ、今「介護コンプライアンス」が経営の最重要課題なのか?

介護事業経営者の皆様は、日々の運営で「人手不足」や「資金繰り」といった目先の課題に追われ、コンプライアンスという言葉が後回しになっていませんか?
しかし、介護事業は、国民から徴収した介護保険料などを財源とする公共性の高いサービスです。
そのため、単なる法令順守にとどまらず、利用者一人ひとりの尊厳を守り、安全で質の高いサービスを提供することが、事業所の社会的責任として強く求められています。
この社会的責任を軽視した結果、介護報酬の不正請求や利用者への虐待といった重大なコンプライアンス違反が起これば、その代償は計り知れません。
行政処分による指定の取り消しや、社会的信用の失墜は、事業の存続を根底から揺るがす事態に直結します。
本コラムでは、2024年の介護保険法改正の要点を踏まえながら、リスクを未然に防ぐためのコンプライアンス経営のすべてを徹底的に解説します。
2.時代が求める「透明化」:2024年法改正の要点

2024年度の介護保険法改正は、介護行政全体が「情報共有」と「透明化」へと向かう大きな潮流を象徴しています。
これまでの介護事業が抱えていた「不透明さ」を解消し、より健全な業界へと変革させることを目的としています。
2.1財務諸表の公表義務化と経営の「見える化」
2024年4月から、すべての介護事業者に対して、事業所単位での財務諸表の公表が義務付けられました。
これは、行政が業界全体の経営実態を正確に把握し、物価高騰や災害時など、有事の際に的確な支援策を検討することを目的としています。
しかし、この制度は、単に行政のためだけのものではありません。
利用者やその家族は、公開された財務情報をもとに事業所の経営状況を確認でき、より安心してサービスを選べるようになります。
収益性の低い小規模事業所にとっては、経営の弱みが公にされるリスクも伴いますが、同時に、適正で健全な経営を行っていることを証明する絶好の機会でもあります。
この透明性の確保は、長期的な信頼関係を築く上で不可欠な要素です。
2.2介護情報基盤の整備と地域連携の深化
今回の法改正では、介護情報を一元的に管理するシステム基盤が整備され、利用者の同意のもと、自治体や医療機関、事業所間で必要な情報を共有できる仕組みが整えられます。
これにより、「地域包括ケアシステム」の深化が推進され、医療と介護の連携がより一層スムーズになります。
これは、業務効率化に繋がる一方で、個人情報の取り扱いに関するコンプライアンス意識がより一層求められることを意味します。
適切なアクセス管理や情報共有ルールを確立することが、情報漏洩を防ぐ上で重要となります。

