3.経営の根幹を揺るがす「2大リスク」とその対策

コンプライアンス違反は多岐にわたりますが、特に経営の根幹を揺るがすリスクとして、「人」に起因する違反と、「行政手続き」に起因する違反の2つが挙げられます。
3.1人に起因するリスク:「虐待防止」と「労働基準法」
3.1.1ゼロベースで考える「虐待防止」と「身体拘束」
高齢者への虐待は、あってはならない重大な法令遵守違反です。
身体的虐待だけでなく、心理的虐待やネグレクト(介護・世話の放棄)も含まれます。
また、「身体拘束」は、身体を縛る行為だけでなく、行動範囲を狭めることや、過剰な投薬も含まれるため、その定義を職員全員が正しく理解することが重要です。
・対策
高齢者虐待防止法では、虐待が疑われる事実を発見した場合、速やかに市町村へ通報することが義務付けられています。
この義務を怠れば、虐待をした者と同じ罰則が待っています。
日頃から、虐待防止・身体拘束適正化のための「指針」や「介護マニュアル」を整備し、定期的な研修と委員会を開催することが不可欠です。
3.1.2職員の心身を守る「労働基準法」
深刻な人手不足が続く介護業界では、職員一人ひとりの業務負担が過剰になり、長時間労働やサービス残業が常態化しやすい状況にあります。
こうした過重労働は、職員の心身の疲弊を招き、ヒューマンエラーや、最悪の場合、虐待といったコンプライアンス違反に直結するリスクを高めます。
・対策
適切なシフト管理や勤怠管理によって、労働基準法を遵守することは、職員の健康を守り、ひいては離職率を低下させる上で最も重要な対策の一つです。
業務効率化(コラム3で詳述)によって間接業務を削減し、職員がケアに集中できる環境を整えることが、この課題の根本的な解決に繋がります。
3.2行政手続きに起因するリスク:「不正請求」と「監査」

3.2.1意図せず発生する「不正請求」のリスク
介護報酬の不正請求や虚偽の申請は、最も厳しく罰せられるコンプライアンス違反の一つです。
しかし、意図的でなくとも、書類の記載漏れや計算ミスによって、不正とみなされるリスクは常に存在します。
・対策
日々の業務で提出する書類の記載ルールを明確にし、チェック体制を確立することが重要です。
特に、ICTの活用は、記入項目の抜け漏れを防いだり、請求業務を自動化したりすることで、ヒューマンエラーによる不正リスクを大幅に軽減できます。
3.2.2指導・監査への万全な準備
行政からの指導・監査は、日頃の事業運営が適切に行われているかをチェックする場です。
事前提出資料と当日準備資料を正確に揃えることはもちろんですが、重要なのは、日頃から「自己点検」を行う習慣をつけることです。
・対策
多くの自治体がウェブサイトで公開している自己点検票(チェックリスト)をダウンロードし、定期的に内部監査を行うことをお勧めします。
これにより、指導・監査で指摘を受けやすい項目(勤務実績表の記載漏れやマニュアルの不備など)を事前に洗い出し、改善することができます。
4.攻めの「コンプライアンス経営」:信頼を築く3つの戦略

コンプライアンスは、罰則を避けるための「守り」の経営から、事業所の信頼性を高め、利用者や地域からの評価を得るための「攻め」の経営へと変貌しつつあります。
4.1業務継続計画(BCP)の策定と訓練
災害や感染症の流行といった緊急事態が発生しても、サービスを継続するための計画であるBCP(BusinessContinuityPlan)は、2024年4月から策定が義務付けられました。
・対策
BCPの策定だけでなく、定期的な研修や訓練を継続的に実施し、記録に残すことが重要です。
これにより、利用者の安全を確保するだけでなく、事業所が緊急時にも対応できる信頼性の高い組織であることを内外に示すことができます。
4.2介護マニュアルの標準化と共有
業務のムラをなくすためには、誰がやっても同じ質のサービスを提供できる体制を構築することが重要です。
介護マニュアルは、そのための行動基準書であり、職員の意識を統一する上で不可欠です。
・対策
介護の業務手順や書類の記入方法をマニュアル化し、新入職員への研修に活用します。
動画でマニュアルを作成し、QRコードで簡単に閲覧できるようにすれば、業務効率が格段に向上します。
4.3ICT活用による「コンプライアンス」強化
ICTは、単なる業務効率化ツールではありません。それは、コンプライアンス違反リスクを低減する強力な武器でもあります。
・書類の電子化
契約書や介護記録を電子化することで、転記ミスや記載漏れを防ぐだけでなく、データの検索や管理が容易になります。
・情報共有
チャットツールやインカムを導入することで、リアルタイムでの情報共有が可能になり、伝達ミスによる事故を防ぎます。
・監査対策
電子化された記録は、行政からの指導や監査の際に、迅速かつ正確な情報提供を可能にします。

