TVドラマ『名探偵のままでいて』第3話直前インタビュー!原作者・小西マサテルが唸った「映像ならではの美しい脚色」と「神キャスティング」、そして今後の見どころ

TVドラマ『名探偵のままでいて』第3話直前インタビュー!原作者・小西マサテルが唸った「映像ならではの美しい脚色」と「神キャスティング」、そして今後の見どころ

第21回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作『名探偵のままでいて』(宝島社)は、シリーズ累計30万部を突破。第3作目の小説『名探偵にさよならを』をもって完結した
第21回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作『名探偵のままでいて』(宝島社)は、シリーズ累計30万部を突破。第3作目の小説『名探偵にさよならを』をもって完結した

第21回『このミステリーがすごい!』大賞で大賞を受賞した、小西マサテルさんの小説『名探偵のままでいて』。長年、放送作家として第一線で活躍してきた小西さんが、レビー小体型認知症を患った父親の介護経験を題材に執筆した本作が、吉川愛さん主演でドラマ化され、注目を集めている。

2026年7月17日に放送された第1話と、7月24日放送の第2話では、ミステリーとしてのおもしろさはもちろん、吉川愛さん演じる孫娘・楓の愛らしさや、奥田瑛二さん演じる祖父の存在感も話題に。孫娘と祖父が織り成す温かな物語に、SNSなどでも数多くの反響が寄せられた。

謎解きとヒューマンドラマを融合させた本作は、どのように映像化されたのか。7月31日に放送される第3話を目前に控え、原作者の小西さんにインタビュー。ドラマ制作陣に寄せる全幅の信頼、“神キャスティング”と評する俳優陣の確かな演技、そして原作者をも唸らせた「映像ならではの美しい脚色」について、たっぷりと語ってもらった。
数々の人気番組を手掛ける放送作家・小西マサテルさん
数々の人気番組を手掛ける放送作家・小西マサテルさん


■ 新人賞応募作からのドラマ化。全幅の信頼を寄せる制作陣とこだわりの世界観
―― 1話完結で非常にまとまりがありましたが、執筆時からTVドラマの尺やテンポを想定されていたのでしょうか?

【小西マサテルさん※以下、小西】何しろ最初の1冊目は新人賞の応募作ですから、テレビドラマ化されるとは思ってもいませんでした。そこはまったく考えていなかったです。

ただ今思うと、自分が好きな書き方のパターンはあります。情景が見えるような描写になっているかどうか。それから、1つのチャプターが終わって次のチャプターへ行く直前に、「引き」を作るのが好きなんです。「もう1章だけ読もうかな」と思わせるような引きですね。それが、CMまたぎのあるドラマの形に少し似ているのかな、という気はします。

自分にとっての「引き」の原体験でいうと、20年くらい前の『24 -TWENTY FOUR-』がまさにそうですね。最たるものじゃないですか。僕はいまだに、なんだかんだ言って海外ドラマでは『24』が一番おもしろいんじゃないかと思っています。おすすめなのは、続きものになっているラストのシーズン7と8ですかね。意外と皆さんそこまで観ていなかったりしますが非常にもったいないなと。

――TVドラマの脚本作りにおいて、小西さんからリクエストされたことはありますか?

【小西】脚本については、お若い若杉栞南先生が担当されているのですが、若杉さんは天才と言われている方で、学生時代に「第22回テレビ朝日新人シナリオ大賞」にて史上最年少で大賞を受賞されています。やはりポップというか、「これは自分からは出てこないセリフだな」と思うものがあります。

実は、最初に「これが準備稿です」といただいたものが、第6稿だったんですよ。そこに至るまで、プロデューサーさんとのやり取りを重ね、何度も書き直されているわけです。僕だったら「第6稿なんて無理です。勘弁してください」と音を上げてしまうと思います。

それだけ脚本家の先生を信頼していますし、餅は餅屋だと思っています。小説とドラマは似て非なるものですから、基本的にはお任せしています。

ただ、病気に関する部分については、僕自身に介護経験があります。事実関係に齟齬があれば、アドバイスさせていただくことはありますが、基本的には若杉先生と、プロデューサーにお任せしています。

――自宅はもちろん、第1話に登場する居酒屋など、美術セットが細部まで丁寧に作り込まれていましたが、先生が思い描いていたイメージとのシンクロ率はいかがでしたか?

【小西】これはもう、スタッフの皆さんを完全に信頼しています。プロデューサーとお話ししたときに、「この人はわかっていらっしゃるな」と感じました。

BGM、つまりメインテーマとなる劇伴についても、プロデューサーにこだわりがありました。ベネディクト・カンバーバッチが現代のシャーロック・ホームズを演じている、イギリスの長く続いているドラマ『SHERLOCK/シャーロック』がありますよね。その劇伴をイメージしていると聞いて、「ぴったりだな」と思ったんです。実際に出来上がったものを聴いて、その時点で「作品の世界観をわかっていらっしゃるな」と感じました。

そうした信頼感があるので、セットなども完成したものを見て、まったく違和感なく受け入れられました。居酒屋については、トイレ周りの描写などが原作よりもはっきりと映像化されていて、むしろ見やすかったと思います。
『名探偵じゃなくても』(宝島社)
『名探偵じゃなくても』(宝島社)


■吉川愛と奥田瑛二が見せる新たな魅力。原作者が涙した“神キャスティング”
――TVドラマで本作を知った新規層から「楓がかわいい」と好評です。吉川愛さんの演技を通じて発見した、楓の新たな魅力はありますか?

【小西】おっしゃっていることはよくわかります。小説の中の楓は明るい色の服を着られず、内省的な女の子ですよね。一方、劇中で吉川愛さんが演じてくださっている楓は、非常に明るい。ミステリーの話になると、オタク度合いが表れて急に早口になったりします。あれもすごい表現力だと思います。

脚本を拝読したときに、演技が難しそうだと思った場面がありました。第1話で、楓が四季くん(綱啓永さん)と初めてイタリアンバルで会う場面です。ディクスン・カーの本を見つけられて、「今どきカーの初期作を読んでいるんですか」と言われ、楓が「カーを読んでいて何が悪いんですか」と返すセリフがあります。

普通であれば、少しムッとして、顔色を変えて言うような演技になるのかなと思っていました。ところが吉川さんは、目線を外し、苦笑いするように「カーを読んでいて何が悪いんですか」と言うんです。それがかわいらしくて、「オタク気質の人なら、こうなるかもしれない」と思わせる説得力がありました。自分の中できちんと楓像を作ってこないと、あの演技はできないと思います。

あるインタビューで拝見したのですが、吉川愛さんは「自分の演技で嘘をつきたくない」とおっしゃっていました。今回は、ほとんど素のままで演じようとしているそうです。例えば、脚本に「楓の頬を涙が伝う」と書かれていても、無理に泣くのではなく、結果として涙が出てきたら、そのまま受け入れる。無理に泣こうとはせず、感情の起伏のまま役の中に入り込み、素の吉川愛さんとして演じてくださっているようです。原作とはまた違う、魅力的な主人公像になっていると僕は思います。

――第1話のラストでは、楓と祖父のやり取りに、原作ファンも心を打たれました。絆を大切にする映像表現について、どのように感じましたか?

【小西】映像ならではの驚きは2つあります。1つ目は、やはり奥田瑛二さんの素晴らしさです。レビー小体型認知症は調子がよいときと悪いときの波があるのですが、悪いときのお芝居が本当に見事でした。パーキンソン症状による歩幅の狭さや曲がった背中、うつろな目線、定かではない滑舌など、よく研究されています。僕の父が同じ病気でこの作品のモデルでもあるのですが、目元などの感じが本当に父にそっくりで、我知らず涙が出てくるというか…。6年前に亡くなっている父が、生きて動いて喋っているのではないかと思うほどでした。

その一方で、回想シーンとして40代の校長先生時代の祖父が出てきます。設定が40代なのでほかの役者さんを使うのだろうと思っていたら、奥田さんご本人が背筋をピンと伸ばして演じられていたんです。卒業証書を渡す姿は凛とした校長先生にしか見えず、その振り幅の大きさに驚きました。

実は今回、光栄にも奥田さんにお目に掛かる機会があったのですが、飛び上がるほどうれしいことを仰ってくださったんです。「原作を読んで、これは自分自身への挑戦になると感じました」と。「ひとりでありながらまったく様相の違う人間を演じ分けなければならない。ごまかしは利かないよね。実にやり甲斐がありますよ」と。そして、自分の頭の中にある“祖父”のように、にっこりと優しく微笑まれたんです。ただ、これは思い込みかもしれませんが、その微笑みの中に確実に“知的な不敵さ”が滲んでいるように感じました。名優の凄みの一端に触れたような気がして、鳥肌が立ちましたね。

2つ目は、もしかすると賛否両論あるかもしれませんが、非常に素晴らしい脚色についてです。原作では、楓にタバコを1本もらい、その煙の向こうに幻視を見るという設定ですが、ご時世的な配慮もあり、ドラマでは楓にお香を焚かせます。楓がおばあちゃんの鏡台の引き出しからお香を取り出し、第1話で火をつけたときに「あ、懐かしい」と言うんですよね。ということは、それは亡くなったおばあちゃんが好きだったお香であり、祖父はおそらく、愛した妻の大好きだったお香の煙の向こうに幻視を見るわけです。その懐かしい香りにも、知性の背中を押されているのではないかと思います。

僕は「ピンチをチャンスに変える」という言葉が好きなのですが、まさにそれだと思いました。 さらに、鏡台の中のお香は徐々に減っていきますよね。それは、祖父に残されたある種の時間のメタファーにもなっていると感じました。そう考えると、タバコよりもお香の方が映像としてきれいですし、ドラマ性もより深まる。本当に見事なよい脚色だと思います。

■「僕の原作を超えています」と言ってみたい。今後の見どころは息を呑む“知的闘争”
――俳優陣の「演技の力」が、物語にカタルシスをもたらしていました。役者の皆さんに伝えたいメッセージはありますか?

【小西】僕は“神キャスティング”だと思っています。全員、演技がお上手な方ばかりなので、現場では大変な演技合戦が行われているのではないかと。もう、バチバチだと思うんですよ。

髙松アロハさん、綱啓永さん、それから主演の吉川愛さん。若い方たちのポッドキャストを聴いていると、3人でキャッキャッと楽しそうに話しているんです。僕なんか1ミリたりとも近づけないような、まぶしい若さと楽しさがあります。

ただ、実際の現場には奥田瑛二さんがドカンといらっしゃるわけですから、下手な演技はできない。現場では、大変な演技の闘いが行われているのではないかと思います。それも、神キャスティングのたまものですよね。

役者の皆さんに伝えたいことがあるとすれば、「今のままで」ということです。それぞれが培ってきたお芝居と、その力を疑わず、このまま演じてくだされば、僕からは何も言うことはありません。

――ミステリーとヒューマンドラマの絶妙なバランスについて、映像作品としての評価をお聞かせください。

【小西】ミステリーは、一番最後まで見ないと評価できない部分がありますよね。ですから、現時点では少し評価しづらいとは思います。

ただ、僕はほぼ最後までの脚本をいただき、熟読させていただいています。ある意味で、自分の原作を超えた演出やセリフが多々あります。

僕が日本映画の中で一番好きなミステリー映画は、野村芳太郎監督の『砂の器』です。原作は松本清張さんの、上下巻にわたる大変分厚い小説です。それを映画化した際、あの自負心の強い清張さんが「この映画は僕の原作を超えている」と、はっきりおっしゃったんですよね。普通はなかなか言えないことだと思います。

ですから、このドラマがラストに至ったときに、僕も「完全に僕の原作を超えています」と言ってみたいですね。

――原作ファンも大満足の第1話と第2話を経て、第3話以降の展開で、小西さんご自身が楽しみにしているポイントは何ですか?

【小西】作中の名探偵である祖父と、ある事件の犯人との「論理性に立脚した会話のみによる直接対決のシーン」ですね。これをぜひご覧いただきたいです。推理を披露して警察がパッと捕まえるのではなく、犯人と探偵が格闘技ではなく言葉で直接対決をするんです。

「これこれこうじゃないですか」「いや違いますよ。僕がこうしたことを証明しただけで、犯人である証拠にはなり得ませんよ」というようにディベートが行われます。ここをとても楽しみにしています。

純文学の傑作とされていながらも昔から最高のミステリーだとも言われているドストエフスキーの『罪と罰』では、ポルフィーリー判事はラスコリニコフが犯人だとわかっているのに証拠が何もない。ラスコリニコフの方も疑われているとわかっているけれど「じゃあ証拠を出してみろ」と。そこで徹底的な論戦が始まります。これが一番の読みどころだと思っています。もちろんドストエフスキーに及ぶとは思っていませんが、とにかく祖父対犯人の「知的闘争」、そこをぜひ楽しみにしていただきたいですね。

※ドラマの原作シリーズも次々と重版出来。『名探偵のままでいて』『名探偵じゃなくても』『名探偵にさよならを』の三部作は宝島社より発売中。
『名探偵にさよならを』(宝島社)
『名探偵にさよならを』(宝島社)


取材・文:有賀俊澄

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配信元: Walkerplus

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