●「目的」と「効果」に着目した違憲審査
それではこの「相当」な限度を超えるかどうかを、具体的にどのように判断していくのかという点については、いくつかの判断基準があります。
まず、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的・効果に着目し、行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる場合には違憲とする基準である「目的効果基準」です。
このほかにも、宗教的施設の性格、宗教支援活動の経緯、態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し社会通念に照らして総合的に判断すべきとする「総合判断」の基準等があります【10】。
そして、この問題が実際の裁判で争われたのが、高等専門学校で学んでいた学生の「宗教的義務」(剣道等の格技を行ってはならないという信仰上の教えにおける義務)と、必修科目である保健体育の剣道の授業に参加しなければならないという「世俗的義務」とが衝突したという事案(剣道実技拒否事件判決【11】)です。
この事案で裁判所は、剣道の実技に代わる代替措置をとることが政教分離原則(憲法20条3項)に違反するかどうかについて、「目的効果基準」を採用した津地鎮祭事件判決を引用しつつ、同基準に従って違憲審査をしました【12】。
このような宗教的義務と世俗的義務とが衝突する場合と、ハラル給食の提供行為とが全く同じだとみることはできないでしょう。
とはいえ、ハラル給食の提供行為も、児童・生徒の宗教的義務と学校の施策とが衝突する問題であり、剣道実技拒否事件判決のケースと事案が一応近いといえます。
このことから、ハラル給食の提供行為が政治分離原則(憲法20条3項)に違反するか否かという問題についても、「目的効果基準」を使って審査をすればよいだろうと考えられます【13】。
●どのような場合にハラル給食の提供が違憲になるのか
ハラル給食の提供行為が違憲になるかについては、まず、「目的効果基準」の「目的」の点から検討すると、例えば年に数回の提供であれば、教育的な目的あるいは福祉的な目的で実施されるものといえるでしょうから、宗教的な意義をもつものではなく、世俗的な目的の行為だといえるでしょう。
次に、「効果」の点ですが、同様に年に数回の提供ということであれば、イスラム教への援助・助長・促進といった効果は認められず、あるいは、他の宗教に対する圧迫・干渉という効果も認められないと考えられます。
以上のことから、少なくとも年に数回ということであれば、客観的にみて、ハラル給食の提供は、正教分離の原則(憲法20条3項)に違反しないものといえます。
他方で、例えば、ハラルフードの献立ではない児童・生徒の人数がそれほど多くない公立学校において、月に何度もハラル給食が提供されるという場合には、宗教的意義をもつものと認められる可能性が出てくるでしょうし、あるいは、イスラム教への援助・助長・促進などの効果は認められることになりうると考えられ、違憲とされる可能性があるでしょう。

