
郵便配達員には「担当エリア」があり、日々地域に密着して郵便物を配達して回る。自然と地域の人たちとも顔見知りになり情報通となっていくが、ときには変な噂を耳にすることもある。本作『浮遊する首』は、「日暮れ時に高架の上に人の首が浮かぶ」という噂を聞いたH支店に勤務するハルさんの体験談である。



現役の郵便局員が、実際に経験した不思議な話や怖い話を漫画化した『郵便屋が集めた奇談』。作者の送達ねこ(@jinjanosandou)さんが同僚たちの体験を漫画化していくうちに、他局からも体験談が届くようになったという。
■クレーマーのご婦人を怯えさせる「浮遊する首」の噂
ハルさんは「手紙が来ないのよ!捨てているんじゃないの?」と激怒するご婦人からクレームを受けていた。転入してきたばかりの彼女は、いつも配達員を捕まえてはクレームや嫁の悪口を言いまくることで名を馳せていた。そんなご婦人が急に怯えた様子で「日暮れ時に高架の上に人の首が浮かぶ」という怪奇現象の噂についてハルさんに話してきた。
ハルさんは不審に思いネットで調べ、「やっぱりなあ」と思うところがあったがあえて反応しなかった。しかし、ご婦人は毎日高架を目にするうち、日に日に弱っていった。実はこの噂、お嫁さんが姑であるご婦人に向けた「嘘」が発端となっていた。「オカルトと思いきやサイコ寄りの“人怖”だった」と読者からも反響が寄せられている。お嫁さんに姑を追い詰める意図があったかは不明だが、弱々しくなった姑に満足している様子が作中で描かれている。ちなみに、ご婦人の「手紙が届かない」というクレームも、調査の結果「そもそも手紙を出していない」ことが判明した。
■過酷な接客現場のリアルと作者の思い
作中では、先輩局員が「クソ客なんかに潰されんなよ」とハルさんを励ますシーンがある。これについて送達ねこさんは、「現場では、顧客から過剰に要求されることがあっても断れない立場に職員が置かれることがあります。先輩局員はこれまでも対応の名のもとに心身を壊された同僚を見てきたこともあって、この発言となったのでしょう」と語る。
送達ねこさん自身も、窓口で男性客に粘着される女性職員をかばった経験があるという。「昨今、お客さまであっても理不尽な言動・要求には毅然とした態度を取ろうという社会意識の高まりを感じます。接客対応者の尊厳を守るためにも、組織全体での対応が必要と思います」と胸の内を明かした。
読者から「けっこう背筋がゾクッとしたけど、めちゃくちゃおもしろい」と好評の本作。日本のどこかの町でひっそりと起こっている“怪異”を覗き見してみよう。
取材協力:送達ねこ(@jinjanosandou)
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