この頃手首や指が痛いことがある。日常生活では気づきにくいけど、子どもを抱っこすると不意に痛みを感じてびっくりする。これってもしかしたら腱鞘炎?よく聞く病気だけど、実際に自分がかかった場合、どんな対処方法があるんだろう?そんな疑問について、つくる整形外科祐天寺駅前スポーツクリニック院長の中谷創先生にお伺いしました。

「最近、抱っこをするたびに手首がズキズキ痛む」「朝起きると指が引っかかる感じがする」——そんな経験はありませんか?
子育てや家事に追われる保護者の方にとって、手や指の痛みは本当につらいものです。「そのうち治るだろう」と我慢して使い続けた結果、症状が悪化してしまうケースも少なくありません。
今回は、腱鞘炎の仕組みや原因、ご自宅でできるセルフケア、受診の目安、治療法、再発予防まで解説します。
腱鞘炎(けんしょうえん)ってどんな病気?
私たちの手や指は、「腱(けん)」というヒモ状の組織が筋肉の力を骨へ伝えることで動いています。この腱がスムーズに動くよう、刀の鞘(さや)のようなトンネル状の組織で包んでいるのが「腱鞘(けんしょう)」です。
手や指を繰り返し使うことや、加齢、ホルモン環境の変化などによって腱や腱鞘に負担がかかると、腱が腱鞘を通過しにくくなり、炎症や肥厚(厚くなること)が生じます。その結果、痛みや腫れ、動かしにくさが現れる病気が「腱鞘炎」です。
手指の「使い過ぎ」以外にも原因はある?
腱鞘炎は、手や指の使い過ぎ(オーバーユース)だけで起こるわけではありません。
特に妊娠・産後や授乳期、更年期には女性ホルモン環境の変化が起こり、腱や腱鞘の状態に影響を与えることが知られています。また、抱っこや授乳、家事などで親指や手首に繰り返し負担がかかることも発症に関与すると考えられています。
代表的な腱鞘炎には次の2つがあります。
ドゥ・ケルバン病(狭窄性腱鞘炎)
親指を動かす長母指外転筋腱と短母指伸筋腱の腱鞘に生じる狭窄性腱鞘炎です。
手首の親指側に痛みが現れ、抱っこや授乳、物を持ち上げる動作で悪化しやすいことが特徴です。産後の女性によくみられます。
ばね指(弾発指・屈筋腱狭窄性腱鞘炎)
指を曲げる屈筋腱と腱鞘の間で引っかかりが起こる病気です。
指を曲げ伸ばしすると「カクン」と引っかかったり、指が途中で動かなくなったりする「ロッキング現象」がみられることがあります。
子どもでも腱鞘炎になることはある?
結論からいうと、お子さんでも手や指に腱鞘炎のような症状が現れることがあります。
小児の強直母指(小児ばね指)
1~2歳頃の乳幼児でみられることがあります。
親指を曲げる腱(長母指屈筋腱)と腱鞘のバランスの変化によって起こると考えられており、生まれつきではなく乳幼児期に気付かれることが多い病態です。
親指の第一関節が曲がったまま伸びにくくなることが特徴で、自然に改善することもありますが、経過によっては手術を検討する場合があります。
学童期・思春期
スポーツや楽器演奏などの反復動作に加え、スマートフォンやゲーム機の長時間使用が誘因となって手や手首に負担がかかることがあります。
お子さんが
○手首を痛がる
○指を動かしにくそうにしている
○親指を動かしたがらない
などの様子があれば、一度整形外科を受診しましょう。

腱鞘炎と似た症状を起こす病気
手首や指の痛みは、必ずしも腱鞘炎とは限りません。
次のような病気でも似た症状がみられます。
◎手根管症候群
◎母指CM関節症
◎関節リウマチ
◎ガングリオン
◎骨折や靱帯損傷
しびれを伴う場合や、強い腫れ、発熱、外傷後の痛みがある場合には、自己判断せず整形外科を受診しましょう。
自宅でできるセルフチェック
親指を手のひらの中に入れて軽く握り、そのまま手首を小指側へ曲げます。
この動作で親指側の手首に強い痛みが出る場合は、ドゥ・ケルバン病の可能性があります。
※一般には「フィンケルシュタインテスト」と紹介されることが多い方法ですが、厳密には「アイヒホッフ(Eichhoff)テスト」と呼ばれる手技です。本来のフィンケルシュタインテストは医師が他動的に行う検査であり、両者は異なる手技です。また、この検査だけで診断が確定するわけではありません。症状が続く場合は整形外科を受診しましょう。
日常生活でできるセルフケア
●安静と負担を減らすことが最優先
痛みがある時期は、できるだけ手首や親指を休ませましょう。
抱っこのコツ
・手首を反らせすぎない
・親指だけで支えない
・腕全体で赤ちゃんを抱える
・赤ちゃんを体に近づける
・抱っこひもや授乳クッションを活用する
サポーターの活用
手首や親指を適切に固定するサポーターやスプリントは、負担軽減に役立つことがあります。
●急性期と慢性期でケアを使い分ける
痛みが強く熱感がある時
保冷剤などをタオルで包み、10~15分程度冷やすことで症状が和らぐことがあります。
痛みが落ち着いてきた時
温めることで楽になる方もいます。入浴などを利用し、無理のない範囲でストレッチを取り入れることも有効な場合があります。
ただし、温めることで痛みが強くなる場合やストレッチで痛みが悪化する場合は中止してください。
●痛みがある時に避けたいこと
・痛みを我慢して使い続ける
・強くマッサージする
・無理なストレッチ
・痛みがある状態で筋力トレーニングを行う
・長時間スマートフォンを操作する
炎症が強い時期は「休ませること」が最も重要です。
病院を受診するタイミング
軽症であれば安静で改善することもありますが、次のような場合は整形外科を受診しましょう。
症状
受診の目安
軽い痛み
数日安静にしても改善しない
痛みが1~2週間以上続く
受診をおすすめします
指が引っかかる・動かない
早めに受診
しびれを伴う
早めに受診
赤く腫れる・熱をもつ・発熱がある
速やかに受診
慢性化すると改善までに時間がかかることがあります。
整形外科で行われる治療
保存療法
まずは保存療法が基本となります。
・サポーターやスプリントによる固定
・消炎鎮痛薬(湿布・塗り薬・内服薬)
・必要に応じた物理療法
・生活動作の見直し
ステロイド注射
保存療法で改善しない場合や痛みが強い場合には、腱鞘内またはその周囲へステロイド薬(必要に応じて局所麻酔薬を併用)を注射します。
多くの患者さんで高い改善効果が期待できますが、症例によっては再発することもあります。
手術療法(腱鞘切開術)
保存療法や注射でも改善しない場合、あるいはばね指でロッキングが強い場合には、腱鞘を切開して腱の滑りを改善する手術を検討します。
局所麻酔で行うことが多く、多くの施設では日帰り手術が可能です。
再発を防ぐために
一度改善しても、同じ負担が続くと再発することがあります。
普段から次のことを意識しましょう。
・長時間同じ動作を続けない
・適度に休憩をとる
・左右の手をバランスよく使う
・手首を反らせた姿勢を長時間続けない
・痛みを感じたら早めに休む
・必要に応じてサポーターを活用する
よくある質問(FAQ)
◆湿布だけで治りますか?
軽症であれば改善することもありますが、症状が続く場合は整形外科で適切な診断を受けることが大切です。
◆サポーターはずっと着けていても大丈夫ですか?
痛みが強い時期には有効ですが、長期間の固定は筋力低下や関節のこわばりにつながることがあるため、症状に応じて使用しましょう。
◆ステロイド注射は痛いですか?
注射時には多少痛みがありますが、多くの患者さんで痛みの改善が期待できます。適応や回数については医師と相談しましょう。
まとめ
子育て中は自分のことを後回しにしがちですが、手や指は毎日の生活に欠かせない大切な体の一部です。
腱鞘炎は早めに適切なケアを行うことで、多くの場合は手術をせずに改善が期待できます。
「たかが手首の痛み」と我慢せず、まずは抱っこや家事の工夫などで負担を減らし、症状が続く場合は早めに整形外科へ相談しましょう。
※記事の作成時に一部AIを使用しています。
執筆者

中谷創
つくる整形外科祐天寺駅前スポーツクリニック院長
[プロフィール]
保有資格・所属学会
医学博士
日本整形外科学会整形外科専門医、スポーツ医、運動器リハビリテーション医
日本スポーツ協会ドクター
日本パラスポーツ協会スポーツドクター
幼稚園に入るか入らないかのころからラグビーを始め、ラグビードクターとして生きていきたいと思い整形外科医を目指すようになりました。いろいろなご縁があり自衛隊体育学校で各競技のオリンピック選手、ラグビーワールドカップ、東京オリンピックでは各国のトップ選手にかかわることができました。
日常生活からレクリエーション、様々なスポーツレベルまで健康的に動ける体、健康な体を作ることを目標にお子様から年齢に関係なく地域の皆様の健康な毎日を「つくる」ためのお手伝いをさせていただきたいと思っています。

