「バセドウ病眼症」はなぜ女性に多い?免疫を狂わせ眼球突出を招く“あの原因”とは

「バセドウ病眼症」はなぜ女性に多い?免疫を狂わせ眼球突出を招く“あの原因”とは

バセドウ病眼症は、甲状腺の自己免疫疾患であるバセドウ病に関連して発症する眼症状の総称です。免疫システムが誤って眼窩内の筋肉や脂肪組織を攻撃し、炎症や眼球突出を引き起こします。女性の発症率は男性の約4〜5倍とされており、女性ホルモンと免疫機能の関係が背景にあると考えられています。この記事では、発症の仕組みや女性に多い理由を丁寧に解説します。

柳 靖雄

監修医師:
柳 靖雄(医師)

東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

バセドウ病眼症とは何か―女性に多い理由と基礎知識

バセドウ病眼症は、甲状腺の自己免疫疾患であるバセドウ病に関連して発症する眼症状の総称です。まずはこの疾患の基本的な仕組みと、なぜ女性に多くみられるのかを理解することが大切です。

バセドウ病眼症の仕組みと原因

バセドウ病眼症は、免疫システムが誤って自分自身の組織を攻撃してしまう「自己免疫反応」によって引き起こされます。通常、免疫システムはウイルスや細菌などの外敵から身体を守るために働きますが、バセドウ病の方の場合、免疫細胞が眼球の周囲にある筋肉(目を動かす外眼筋)や脂肪組織を異物とみなして攻撃してしまいます。

この攻撃を受けた眼窩(がんか:眼球が収まっている骨のくぼみ)内の組織は激しい炎症を起こし、体積が著しく増加します。しかし眼窩は周囲を硬い骨に囲まれているため空間的なゆとりがなく、増えた組織は眼球を前方に押し出すかたちになります。これが「眼球突出」と呼ばれる代表的な症状の主なメカニズムです。

バセドウ病の方のうち、なんらかの眼症状を伴う割合はおおよそ2〜3割程度とされる報告があります。多くは軽症ですが、中等症以上や視機能に関わる例では専門的な評価が必要です。バセドウ病そのものは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)」の代表的な原因疾患であり、「TSH受容体(甲状腺刺激ホルモン受容体)」に対する異常な自己抗体(TRAbなど)が作られることによって生じます。この自己抗体は甲状腺を過剰刺激するだけでなく、眼窩内の「線維芽細胞(せんいがさいぼう:脂肪やコラーゲンを作る細胞)」にも作用し、炎症や組織の肥大化・強固なむくみを引き起こすと考えられています。なお、甲状腺の数値はほぼ正常でも眼症だけが目立つ場合や、機能低下を伴う場合もあります。血液検査が「正常」でも、目の変化があれば眼科・内分泌の相談が必要です。

なぜ女性に多いのか

バセドウ病は女性に多くみられる疾患として知られており、男性に対して女性の発症率は約4〜5倍とされています。そのため、バセドウ病眼症も必然的に女性の患者さんが圧倒的に多くなります。

この背景には、女性ホルモンと免疫機能の関係が深く関わっているとされています。女性は男性と比べて免疫反応が活発であり、自己免疫疾患全般にかかりやすい生物学的な傾向があります。特にエストロゲン(卵胞ホルモン)は免疫細胞の働きを活性化させ、自己免疫反応が起きやすい環境を作り出す可能性があると考えられています。

また、妊娠・出産・閉経といったホルモンバランスが大きく変化するライフイベントが多い女性は、免疫系の変動も大きく、バセドウ病の発症や悪化の引き金になることがあります。特に出産後はホルモンバランスが急激に変化するため、甲状腺の病気が顕在化しやすい可能性が示唆されています。

また、喫煙(受動喫煙含む)はバセドウ病眼症を著しく悪化させる最大の危険因子(リスク)であり、喫煙習慣のある方では眼症状の重症化と強く関連することが複数の研究で示されています。

バセドウ病眼症は20〜50代の女性に特に多くみられますが、男性の場合は発症率こそ低いものの、喫煙率の高さや発見の遅れなどから、複視(物が二重に見える)や視力障害といった重篤な眼症状に陥りやすい傾向があるとされています。いずれにせよ、性別や年齢を問わず、目の違和感や変化に気づいた場合は、甲状腺専門医や専門の眼科を早めに受診することが何より大切です。

まとめ

バセドウ病眼症(甲状腺眼症)は、バセドウ病に関連して眼窩の組織に炎症・腫脹が起きる状態で、女性に多くみられます。初期は異物感・充血・まぶたの腫れ・眼瞼後退など、疲れ目や花粉症と紛らわしい症状から始まることがあり、放置すると複視や、まれに視神経障害など視機能に関わる状態へ進むことがあります。評価では「炎症が今あるか(活動性)」と「症状の重さ(重症度)」を分けてみるのが重要で、時期によって薬物治療と手術の役割が異なります。喫煙は悪化と強く関連するため禁煙が大切です。治療費は保険診療と自由診療の境界、高額療養費・医療費控除などの制度を医療機関や相談窓口で確認すると安心です。目の調子がいつもと違う、バセドウ病治療中に眼症状が気になる場合は、内分泌内科と、バセドウ病眼症に詳しい眼科へ早めに相談してください。

本記事の数値や費用は一般的な目安です。症状の進み方や必要な検査・治療は個人差が大きく、すべての方に同じ経過・同じ費用が当てはまるわけではありません。

参考文献

日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」

厚生労働省「健康・医療高額療養費制度を利用される皆さまへ」

東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科「甲状腺」

配信元: Medical DOC

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