夏休み、中学生くらいまでのお子さんと映画を観に行くならこれ、激推し! 『小学校~それは小さな社会~』、『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』で、国内外から高い評価を受ける、米アカデミー賞ノミネートのドキュメンタリー監督・山崎エマさんがキャリア初期に手がけた初長編作品『モンキービジネス おさるのジョージ著者の大冒険』。こちらが「おさるのジョージ」生誕85周年にあわせて、俳優・河合優実さんのナレーションや声優陣の吹き替えにより、日本語吹替版となって2026年8月14日、公開されます。
世界中で愛されている「おさるのジョージ」の生みの親は、ユダヤ人であるハンス・レイとマーガレット・レイ夫妻。ふたりはナチス・ドイツの侵攻を逃れ、パリからアメリカに移住し、生涯ジョージのキャラクターを守り続けました。その波乱万丈な人生を世界中から集めた膨大なアーカイブ映像と貴重な原画の数々を織り交ぜ、製作期間はなんと3年もかけて! 15,000枚の手描きのアニメーションで完成させた心揺さぶる傑作ドキュメンタリーなんですが、2017年の初公開時は英語字幕のみ、だったんです。それを清らかで、耳なじみがいいけれどメッセージを強く伝えてくれる河合優実さんの声でナレーションしてもらえることで、お子さんにとっても各段に見やすく、各段にわかりやすくなっている! これ、おさるのジョージに思い出がいっぱいの大人はもちろんぜひ観ましょう、なんですが、お子さんの夏休みの情操教育や自由研究のテーマなどにも激推し! 山崎エマ監督と河合優実さんの貴重な対談をお届けします。聞き手は映画ライターのよしひろまさみちさんです。
――(おさるのジョージのぬいぐるみを手に)TV版のジョージと一緒におうかがいします。
山崎エマ監督(以下、山崎) 可愛い〜。
河合優実さん(以下、河合) 絵本版とはちょっと違うんですよね。
山崎 ちょっとずつ進化してるみたいに、表情が違うんですよ。でも、このコはどんな顔でも、イメージは同じ。
――『おさるのジョージ』自体が日本でめちゃなじみ深くなりましたよね。
山崎 そうなんですよ。日本ではアニメーション版のテレビ放映のおかげで広まりましたからね。アメリカで勉強をしていたときに、子どものころ、何を観ていたかって話になって、ジョージの話をされたときに「あ、ジョージって、日本のおさるさんじゃなく、世界のおさるさんなんだ」ってようやく気づいたくらい。
河合 そうだったんですね。私は3姉妹なんですが、子どものころみんなジョージを大好きで観てたんですよ。とくに「ジョージのアイスクリームトロフィー」っていうエピソードが大好きで、繰り返し観てました(ジョージが皿洗いを手伝ったお礼に、シェフがネコの形をしたアイスクリームをトロフィー代わりにあげるエピソード)。
――さて、このドキュメンタリーが、全世界の情勢がきな臭くなってきた今、日本語吹替版になって公開されるのは運命的だなと感じているんですが、いかがですか?
山崎 この作品は私の初長編として2017年に完成したんですが、原作本の発行85周年というタイミングとはいえ、日本語吹替版を改めて上映できるのは嬉しいことですね。私が20代半ばのころ、3年かけてリサーチ〜制作したんですが、一作目だからこれをちゃんとやらないとこの後のキャリアはない! と思って作ったんですよ。それを、そのときの私の年齢くらいの河合さんに吹き替えをしていただいたのは、特別な思いがありますね。
河合 私こそ光栄です。エマさんの2作品(『甲子園』『小学校』)のファンだったので、お声かけいただいただけでも嬉しかったんですよ。それに、おさるのジョージは私にとってもなじみの深い作品ですし、そのジョージにこんなバックグラウンドがあることを作品を観るまで知らなかったので、参加させていただけて本当に嬉しかったです。
山崎 2017年のバージョンでひとつ後悔していたのが、英語で作ったことだったんですよ。もちろん内容は変わりませんし、本人の声で聞くことができるメリットはあるんですが、ジョージを好きな子どもたちのためには日本語吹き替え版が必要だった、とずっと思っていて、チャンスをうかがっていたんです。世界の情勢的に、移民や戦争の問題が深まってきているタイミングで、最高の形に仕上げることができてすごく嬉しいです。しかも、河合さんにご快諾いただけたのが最高。
河合 じつはジョージのキャラクターって、私の妹にちょっと雰囲気が似てるんですよね(笑)。それもあって、このお話をいただいたとき、なにか運命を感じたんです。
山崎 えー! そうだったんですか(笑)。それでいうと、私の息子、先日4歳になったんですが、彼がジョージを大好きなんですよね。この映画を作ったことで、息子が生まれる前から「名前はジョージにするの?」って聞かれるくらいに私自身が夢中になってましたし、ジョージを好きになるしかないような環境で育ってはいるんですが。とはいえ息子も本気で夢中だし好奇心旺盛なジョージに似てますよ。
――山崎さんはドキュメンタリーの監督だけに、フィクションのお芝居をされる河合さんとお仕事をご一緒するチャンスって、うまくハマらない限りは難しいじゃないですか。
山崎 そうなんですよね。だから、日本語ナレーションを引き受けてくださるって聞いたときは本当に嬉しかったんですよ。字幕版で河合さんのパートをやっているのは、サム・ウォーターストンさん(『LAW&ORDER』シリーズで知られる大ベテラン)なんですが、それこそ私が何のキャリアもないときに引き受けてくださって、それはそれは素晴らしいナレーションをしてくださいました。あのときのイメージとしては、絵本の世界観で安心できるおじいさんの声で語ってくれるのが理想だったのでお願いしたんですが、10年弱経ってみて今回の日本語吹替版を考えたとき、女性の声がいい、と思ったんですよ。それも、今を輝く女性で、子どもの耳になじむお声の持ち主、と。
河合 うわー……ありがとうございます!
山崎 こちらこそですよ! 第一候補ですもん。やさしい語りだけでなく、戦争のパートなど厳しい情景のシーンではちゃんと深みを出していただけて、私からはほとんど指示してないのにできてましたから。
河合 ナレーションのお仕事は他でもやらせていただいたことはあるんですが、そのどれとも違いました。やっぱり私自身がジョージに思い入れがあるっていうのが大きいのかもしれません。でも、やさしい声色のナレーションだけでなく、どんな年齢の方がご覧になっても、ナレーションで語りかける状況が分かりやすく伝わるように工夫をして。お芝居をするときともまた違った感覚で挑みました。
――じつは英語字幕版も拝見しているんですが、日本語吹き替え版になったことでぜんぜん違う作品に見えましたし、河合さんがナレーションしてくれたことで夏休みに子どもたちを連れて見てもらいたいって思いましたもん。
山崎 うわー、それを聞けてよかった。今回の狙いはまさにそこなんですよ。第一線で活躍されている河合さんと、世界中の人気者ジョージをかけ合わせたときに生まれるケミストリーを見せたかったんです。せっかく作ったのだからなるべく多くの方に届いてほしい、とは思うんですが、ドキュメンタリーを見せこむことって本当に難しくて。この作品だとジョージの面白さはもちろん、レイ夫妻の魅力が軸としてあって、そこに河合さんが吹き込んだ息吹がプラスに作用するんじゃないかって思っているんです。
――ジョージ自体は知名度抜群なのに、ドキュメンタリーというジャンルの壁がありますよね。
山崎 でもね、17年のときと比べて、ジョージを観て育った人ってすごく増えていると思うんですよ。私の小さいころはアニメ版はなくて絵本しかなかったけど、そんな親世代は子どもに絵本じゃなくてアニメーションを見せるほうが先だから、観て育ったっていう子どもはたくさんいらっしゃいます。レイ夫妻のことは知らなくてもジョージの知名度は抜群ですよね。それこそ、この吹替版は小学生くらいの子どもたちにも、戦争や難民のことを分かりやすく伝えられるチャンスだと思うんです。
――河合さんもレイ夫妻のことはこの映画で知りました?
河合 そうですね。この作品を通じて知って驚くことばかりでした。とくに、ユーモアを忘れないところとか。想像を絶する苦労をされたと思いますが、絶対にユーモアやぬくもりを忘れない夫婦に見えました。しかも、パートナーと一緒に作品を作ることって素晴らしいし、どこか羨ましさも感じました。羨望というよりは、何があっても絶対にこの人だけは自分の味方でいてくれるっていう特別な安心感に憧れる、といいましょうか。物語をつむぐ人たちって、私たちとはちょっと違う感覚なんでしょうね。NHK朝ドラの『あんぱん』でアンパンマンの作者であるやなせ夫妻のことを調べていたときにも同じような気持ちになりましたし、それこそものづくりをしているエマさんとパートナーさんも同じですよね。
山崎 そうなんですよね。夫と結婚したのもこの作品を作っているときでしたし、レイ夫妻に影響を受けまくっているって自覚してます。レイ夫妻の遠慮ないやり方から学んだのは、プロデューサーである夫にはもちろんですが、カメラマンや音声など、スタッフがたくさんいて、その皆さんと本気でぶつかりあってなんぼだと。ものづくりではそれが一番いい結果を生み出すって信じています。
――しかも映画も絵本も永遠に残るものですから、後悔ないようにやらないといけませんよね。
山崎 そう。自分がいなくなった後でも残る物語を作りたい、と思ったのもレイ夫妻がきっかけだし、ジョージが目標。それがキャリアの物差しになっていて、あこがれでもあるんですよね。今年初めて発売した書籍も、私としては初めての経験でしたけど、書き終えてみるとレイ夫妻の生き方が私の人生の一分になっていると実感できましたし、彼らのドキュメンタリーを作ったことも日本語吹替版をこのタイミングで出せたことも全部つながってる、と思っています。
河合 その点、俳優はいつもひとり作業なんですよね(笑)。現場に行けばキャストとスタッフと一緒に切磋琢磨して、思いを分かち合えるんですが、基本的には「読み解く」という作業も俳優の仕事の大部分を占めるので、まず、ひとりで家でひたすら考える。だからこそ現場で初めて考えをシェアすることが楽しく感じるんだと思います。私たち俳優の仕事も、レイ夫妻と同じように、いろいろな経験をしたうえで芝居をすることで次の世代に残すものができる、と感じています。私はまだまだですけどね。
山崎 いやいや。河合さんをはじめ、俳優の皆さんも0から1のクリエイトをされてますよ!
――すごくいいコラボレーションですねー。監督、河合さんの声のお芝居をご一緒して、フィクション映画撮ってみたくなったりとか?
山崎 いえいえ(笑)。でも、何があるか分かりませんよね。今はドキュメンタリーに命をかけていろいろなことをやっていきたいですし、ジョージと出会ったのも河合さんと出会えたことも全部ご縁ですから、このご縁を大事して研鑽をつんでいくことで、何か別の形になるかもしれないですね。今回、短い期間でも見えたことがありますし、それがとても刺激になってるし、今後の河合さんがいない作品でも影響があると思っているんです。この先のキャリアの中で、おたがい影響し合ってたら、それが1番嬉しいかな。
河合 私もそうですよ。すごく影響受けましたし、このご縁は大事にしたいと思ってます。
――近いけど別の業界にいる人同士がリスペクトしあって、陰ながら応援しあってるのってすごくいいですよね。
山崎 さっきも言ったとおり、私がこの作品を作った時点の年齢の方と今ご一緒できていること自体が奇跡だし、運命なんですよね。
河合 私の年でこれを作ったっていうのが本当にすごいです。想像できません。
山崎 必死でしたから。リサーチもそうだし、お金集めるのも大変。でも、やりたいことに向かっていく揺るぎないパワーがあったんでしょうね(笑)。
――最後に日本語吹替版をこれからご覧いただく方へおすすめを。
山崎 8月は夏休みなので、子育て層にも足を運びやすいタイミングと思ったんですけど、この映画に切っても切り離せない背景である戦争も、日本では終戦記念日のある8月にリンクします。第2次世界大戦のことだけでなく、今起きている戦争などあらゆることの入口として本作を観ていただいて、学んでもらいたいなと思います。私自身、4歳の息子がいることで、息子が育つ未来は不安が少なくなってほしいという思いがあります。そのためには歴史を知らないといけないし、知ることで今のいろいろな社会的な選択や判断につながっていくと思っています。「ジョージの知られざるエピソード」として観ていただくのもうれしいですが、レイ夫妻のことに興味を持っていただけたら、たとえば夏休みの自由研究の題材にしていただいたり。そうやってこの物語が広く届いて、安心な未来へ向かう勇気をもらえるんじゃないか、と思っています。
河合 親子でこの映画をご覧いただいたとき、お子さんが「どうしてこの2人はパリから自転車で逃げなきゃいけないの?」とか「この夫婦はどこの国の人なの?」とか質問されると思うんです。それに対してきちんと答えようとすることで、いろいろなことを考え直すきっかけになると思います。またそうすることで、今の社会でも、自分と違う背景を持つ人に対する接し方が変わったり、そのときにレイ夫妻のことをちょっと思い出したり。人と人が手をとりあって思いやりのある社会への入口になるような作品だと思うので、夏休みはぜひともお子さんとご一緒に映画館へ足を運んでいただきたいです。
『モンキービジネス おさるのジョージ著者の大冒険』日本語吹替版
story ドイツ出身で南米を経てパリで児童向け絵本を作っていたレイ夫妻。第二次世界大戦が始まり、パリがナチスドイツの侵攻を受ける直前に自転車で脱出し、アメリカで『おさるのジョージ』をヒットさせる。レイ夫妻の数奇な運命を描くドキュメンタリー。
監督:山崎エマ/出演:ハンス・レイ、マーガレット・レイ ほか/配給:シネリック・クリエイティブ、エスパース・サロウ/公開:8月14日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
© 2026 シネリッククリエイティブ
Interview&Text_MASAMICHI YOSHIHIRO
Photograph_KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]
Styling_HIROMI SHINTANI
Hair&Make-up_ TAKAE KAMIKAWA[mod’s hair]
河合さん衣装クレジット■スカート¥90,200(Mame Kurogouchi)
イヤーカフ¥9,350(STELLAR△HOLLYWOOD)
Mame Kurogouchi
http://www.mamekurogouchi.com/
STELLAR HOLLYWOOD
03-6419-7480

