8月6日に小説デビュー作『檸檬と蜜柑のラプソディ』が刊行されます。その刊行を記念して、著者のふるたみゆきさんに担当編集のTが、創作の裏側や作品について掘り下げていきます。
また、本作のテーマである音楽×お仕事に合わせ、ふるたさんが30年以上取り組んでいらっしゃるクラシック音楽のお話もお伺いします。
インタビュー第二回の今回は、『檸檬と蜜柑のラプソディ』について詳しく聞いていきます。
* * *

新人賞を経ずにデビュー。スタートは「東京中野文学賞」佳作入賞の短編
――本作は、「東京中野文学賞」の佳作に入賞した作品です。受賞作からここまで、どのような思いでご改稿をされたのでしょうか? 大変だったことなどがあれば教えてください。
短編として書き上げた作品を長編化する、というのが初めての経験で、構成については苦労しました。もともと文庫の第二章までしかなかった物語を、加筆して第十二章まで伸ばしたかたちです。ストーリーの展開の選択肢がたくさんあるなかで、どれが最適解なのかを探るのが大変でした。自分のこれまでの人生に向き合い、失敗したこと、行き詰まってしまったこと、それを乗り越えた経験などを掘り起こしながら書いていました。
――そんなに加筆いただいていたのですか! 私が拝読させていただいたときは、もうこの長さでしたよね。会社員のご経験もあり、音楽のご経験もある、まさにふるたさんが詰まった作品だと思うのですが、作中で特にご自身の経験などが反映されている箇所はありますか?
新卒から十年勤めたIT企業(株式会社ワークスアプリケーションズ)での経験はすごく活きていると思います。問題解決能力を重視する社風だったので、能力が高く人柄も温かい先輩がたくさんいて、多くのことを教えていただきました。本作では元ヴァイオリニストの檸檬が音楽事務所に就職し、慣れない環境のなかでマネージャー業を頑張りますが、その様子を厳しくも温かい目で見てくれている上司がいます。檸檬が壁に当たったときにその方が手を差しのべてくれるシーンは、自分自身の経験が反映されました。
――第5章の「雨音ほろほろ」のあのシーンですね! 私、最推しのシーンです。蜜柑の年相応の葛藤と、対応に檸檬が迷っているところで、思わぬ救世主が……! 悩み、迷い、考え抜いた末の行動に、私も心を動かされました。
ありがとうございます。背中を押してくれる人の存在があるからこそ、人はチャレンジできるし成長できるんですよね。
自身の音楽活動の経験を存分に入れ込んだ、渾身の一作
――そうやって見ていてくれている、というだけでもさらに頑張れますよね。今作は演奏シーンもとても印象的ですが、そちらも実際の出来事をもとにしているシーンはありますか?
蜜柑が楽屋で練習しているシーンや、国際コンクールに出場するシーンには、自分の演奏者としての感覚を反映しました。私自身が5歳からヴァイオリンを習っておりまして、ソロでもオーケストラでも演奏活動をしてきたので、楽器を弾いているときの感覚や舞台に出るときの独特の緊張感をリアルに描けるよう努めました。
――京都と東京を舞台としてストーリーが動いていきますが、場所にもモデルがありますか?
場所はすべて、私が個人的に思い入れの深いところをモデルにしました。蜜柑が出場する国際コンクール会場のモデルは「京都コンサートホール」で、私が子供のころから何度も出演したホールです。
コンクールでとある事件が起きた後、檸檬と蜜柑が深く話し合って心通わせるお寺があるのですが、モデルは京都の「法然院」です。坂本龍一さんがライブをされたお寺としても有名で、私も大好きなところです。檸檬が再びヴァイオリンを手に取る楽器店は、私がずっとお世話になっている京都の「アメリカヤ楽器店」をモデルにしました。
蜜柑のママが乗り込んでくる東京のホテルは、溜池山王の「ANAインターコンチネンタル」です。私の前職のIT企業で毎月全社集会を行なっていたホテルで、思い出深い場所です。
――ぜひ聖地巡礼で訪れたくなりますね! ちなみに、御執筆される場所などは決めていらっしゃるのですか?
集中して原稿を書くのは自宅のデスクですが、アイディアを練る場所は美術館やコンサートホールです。クリエイティブな空気の流れている場所にいると、良いアイディアが生まれてきます。特に東京・六本木の森美術館が好きで、現代アートをよく見ています。現代アートを見ると、自分にはない価値観にふれられるので、物事がそれまでとは違って見えてくるんですよね。小説についても、新たな価値観を提示できたり、読む前と読んだ後で世界の様相が違って見えてくるような作品が良いと思うので、そういう小説を書くために現代アート鑑賞は必要な時間です。
――蜜柑が何かあったら駆け込むお寺があるように、ふるたさんにもそんな場所があるのですね! ふるたさんの特にお気に入りのシーンを教えてください。
ヴァイオリンを辞めて音楽事務所に就職した檸檬が、再び楽器と向き合うシーンです。じつは、改稿の途中で一度(ページ数との兼ね合いで)削ってしまったのですが、編集担当のTさんに「このシーンを入れたほうがいいです!」とご提案をいただき、復活させました。ストーリーの流れとしても、檸檬の心の動きとしても、このシーンがあって正解でした。Tさんに言っていただいてよかったです。
――私も、あのシーン、本当に好きなんですよね。真剣に取り組んでいたことほど、手放すと遠ざかってしまう経験を私もしていて。その描写が泣けるんです。しかも、蜜柑ちゃんとの今後にもしっかりつながっていて……。思わず語ってしまいました。失礼いたしました。――今作を拝読しながら、自分もこれまでやってきたことが無駄になっていないのかもしれない、と思えました。今、夢を追っている方や、夢を諦めてしまった方に、今作を通じて感じて欲しいこと、受け取ってほしい思いはありますか?
夢は叶えるか諦めるかの二択ではない、と私は思っているんです。頑張ってきた人には必ず次の道が見つかりますし、ひとつのことに熱中してきた時間は必ず未来に活かされます。私自身、もともと純文学新人賞で小説家デビューを目指していましたが、音楽朗読劇からの学びを経てエンタメへ転向した結果、新人賞ではないきっかけでデビューできました。頑張りをたずさえていろんなことにチャレンジしていくと、活躍できるフィールドがきっと見つかります。
――最後に小説のPRをお願いしてもいいですか?
前進するパワーの詰まった明るい音楽小説になりました。今頑張っておられる方、これまでたくさん頑張ってきた方に、心を込めてお贈りしたいと思います。この作品から元気をチャージしていただけたら嬉しいです。
ありがとうございました! ふるたみゆきさんのすべてが詰まった『檸檬と蜜柑のラプソディ』をぜひお楽しみください!
次回は『檸檬と蜜柑のラプソディ』の試し読み(1)を公開いたします! お楽しみに!

