「脳血管攣縮」に“効果”を示す2つの薬とは?くも膜下出血後の治療【医師監修】

「脳血管攣縮」に“効果”を示す2つの薬とは?くも膜下出血後の治療【医師監修】

脳血管攣縮に対しては、発生を防ぐ「予防」が治療の中心となります。日本では塩酸ファスジルやクラゾセンタンといった薬剤が承認されており、それぞれ異なる作用のしくみを持っています。この記事では、循環管理や血腫除去、血管内治療、そして各種薬剤の特徴と現時点でのエビデンスについて、患者さんやご家族にも伝わるよう丁寧に解説します。

伊藤 たえ

監修医師:
伊藤 たえ(医師)

浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。

脳血管攣縮の薬——日本の現在の標準的な治療薬

脳血管攣縮に対する薬物療法は、予防と治療の両面から進められています。このセクションでは、日本で導入が進んでいる薬剤について解説します。

塩酸ファスジル——日本で承認されたRhoキナーゼ阻害薬

塩酸ファスジルは、日本で開発・商品化されたRhoキナーゼ阻害薬であり、脳血管攣縮の予防・治療薬として国内で保険適用を受けている薬剤です。Rhoキナーゼは血管平滑筋の収縮を持続させる酵素であり、これを阻害することで血管を拡張させる作用を発揮します。

SAH発症後14日間の静脈内投与を行う用法であり、国内で実施された第3相臨床試験では、血管撮影上の脳血管攣縮の抑制効果に加え、症候性脳血管攣縮やCT上の低吸収域(脳梗塞を示す変化)の減少、そして1ヶ月後の患者さんの予後を有意に改善することが示されました。また、複数のRCTを対象としたメタ解析においても、脳血管攣縮と脳梗塞の発現を抑制することが確認されています。

日本のDPCデータベース(診療情報を集積したデータ)を用いた研究では、SAH術後患者さんの77.1%に塩酸ファスジルが投与されており、現在の日本の臨床現場で中心的に使われている薬剤のひとつです。ただし、他のカルシウム拮抗薬(ニモジピン)との比較RCTでは、DCI自体には有意差がなかったが1ヶ月後の神経学的予後を改善したという報告があり、引き続き大規模なRCTによる検証が期待されています。

クラゾセンタン(商品名:ピヴラッツ)——2022年に日本で承認されたエンドセリン受容体拮抗薬

2022年に日本で承認・発売されたクラゾセンタン(商品名:ピヴラッツ)は、エンドセリンA受容体阻害薬であり、脳血管攣縮の予防薬として現在の日本の臨床現場において重要な役割を担っています。

エンドセリン(ET)は、脳血管内皮細胞が産生する強力な血管収縮ペプチドであり、SAH後の脳脊髄液中でその濃度が上昇することが知られています。エンドセリンによる血管収縮にはエンドセリンA受容体(ETA受容体)の活性化が必要であり、クラゾセンタンはこの受容体を選択的に阻害することで脳血管攣縮を抑制することが期待されています。

クラゾセンタンを用いた国際的なランダム化比較試験(CONSCIOUS試験)では、血管撮影上の脳血管攣縮を有意に抑制することが確認されました。一方で、患者さんの神経学的予後への改善効果は示されなかったという結果もあり、「画像上の血管攣縮の改善が必ずしも神経学的予後の改善を意味しない」という議論を医療界に提起した試験でもあります。この結果は、脳血管攣縮の病態が単一の大血管の狭窄だけでは説明できず、微小循環障害、early brain injury、cortical spreading ischemiaなど、複合的な機序が関与していることを改めて示すものでした。

日本での承認にあたっては、国内外の臨床データが総合的に評価されています。クラゾセンタンは、破裂脳動脈瘤に対する手術後(開頭クリッピング術またはコイル塞栓術)に静脈内持続投与される薬剤として位置づけられており、血管撮影上の脳血管攣縮を抑制する効果を持つことが承認の根拠となっています。エンドセリンには血管収縮作用以外にも、血管透過性亢進や炎症性メディエーターとしての作用、細胞増殖作用なども知られており、今後も脳血管攣縮におけるエンドセリン系の研究は継続されていくと考えられます。

そのほかの薬剤とDCIへの対応

カルシウム拮抗薬については、日本ではニカルジピンが使われています。ニカルジピンの高用量持続投与(0.15mg/kg/時間)は血管撮影上の脳血管攣縮を減少させたとするRCTの報告がありますが、3ヶ月後の神経学的予後については差がなかったとされています。その一因として、血圧低下が脳灌流に悪影響を及ぼした可能性が指摘されています。投与する場合には脳灌流圧(CPP)の低下に注意が必要です。

ニカルジピンを徐放性ペレットに封入し、開頭クリッピング術の際に脳主要動脈の近傍に直接留置するnicardipine prolonged-release implant法も報告されており、血管攣縮の発生頻度や神経学的予後の改善が期待できるとされています。ただし、現時点では比較的小規模なコホート研究の報告が中心であり、国際的なRCTによる検証が求められています。

シロスタゾール(ホスホジエステラーゼ阻害薬)は、抗血小板作用、血管内皮保護作用、血管拡張作用を持つ薬剤です。出血時間を延長しないという特徴から、SAH後の脳血管攣縮予防薬として近年注目されています。国内で実施された複数のRCTで脳血管攣縮やDCI、神経学的予後などの改善が報告されていますが、現時点では補助的な位置付けです。

スタチン製剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、抗炎症作用や血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の増加作用などを通じて脳血管攣縮に対して有用と考えられてきました。しかし、phase III試験(STASH試験)の結果では、シンバスタチン40mgの投与では画像上の脳梗塞やDINDの抑制効果、患者さんの予後の改善がいずれも認められませんでした。メタ解析でもDINDの抑制効果はあるものの患者さんの神経学的予後には関与しないという結果であり、脳血管攣縮に対するスタチンの効果は現時点では未確定です。

マグネシウム(Mg)は、カルシウム拮抗薬としての血管拡張作用とNMDA受容体阻害による神経細胞保護作用を持ち、脳血管攣縮の治療薬として期待されてきました。しかし、マグネシウムの静脈内投与を評価したRCT(MASH-2試験)やメタ解析の結果は、DINDや神経状態の改善を示すことができませんでした。静脈内投与では血液脳関門の通過性が悪く、脳脊髄液中の濃度を十分に上昇させにくいことが理由として考えられています。脳槽内投与によって有効濃度を達成しようという試みも研究されており、血管拡張作用のエビデンスが蓄積されていますが、大規模RCTによるさらなる検証が必要な段階です。

まとめ

くも膜下出血後の脳血管攣縮は、発症から数日後に現れ、脳虚血や脳梗塞につながり得る深刻な合併症です。症状は意識レベルの低下から局所的な麻痺・失語などへと進み、見逃されると取り返しのつかない後遺症を残すことがあります。現在の日本では、塩酸ファスジルやクラゾセンタン(ピヴラッツ)などの薬剤を含む予防・治療体制が整いつつあり、適切な管理によって予後改善が期待できます。

くも膜下出血後のご本人やご家族は、攣縮期(4〜14日目)に神経症状の変化が現れた場合には速やかに医療スタッフに相談し、多職種チームによる専門的な管理を受けることが大切です。

参考文献

日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン 2021 [改訂2025]」

厚生労働省「第3回 脳卒中ってなぁに? 」

厚生労働省「脳卒中に関する留意事項」

日本脳神経外科学会「暗ぞ先端承認によるくも膜下出血の予後の変化」

配信元: Medical DOC

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