ヘルニアと違う? “脊髄梗塞”を疑うべき「3つの症状」【医師監修】

ヘルニアと違う? “脊髄梗塞”を疑うべき「3つの症状」【医師監修】

脊髄梗塞の初期症状は、腰椎椎間板ヘルニアや多発性硬化症など、ほかの脊髄疾患と似ていることがあります。「腰を痛めただけかもしれない」と判断して受診が遅れてしまうケースも見られます。ここでは、脊髄梗塞と他の疾患を区別するうえで重要なポイントをご紹介します。ヘルニアや加齢性の変性疾患では、症状が数ヶ月から数年かけてゆっくりと進行することが多いです。一方、脊髄梗塞は「ある瞬間から急に」「数分〜数時間という短時間で」症状が著しく悪化するという特徴があります。また、脊髄梗塞では発熱や血液の炎症反応の上昇がみられないため、感染による脊髄炎とも区別しやすい面があります。ただし、虚血の進み方によっては症状がゆっくりに感じられる特殊なケースもあります。「少し様子を見よう」と自宅で横になってしまうことが、受診の機会を逃す要因となりえます。背中や首に急な痛みと手足のしびれ・脱力が重なったときは、たとえ軽度であっても専門医療機関への相談を検討されることをおすすめします。

伊藤 たえ

監修医師:
伊藤 たえ(医師)

浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。

脊髄梗塞と糖尿病:血糖コントロールが脊髄に与える影響

糖尿病は、全身の血管や神経を徐々にむしばんでいく代表的な生活習慣病として知られています。命や重大な後遺症に関わる脊髄梗塞の発生リスクにおいても、糖尿病(高血糖)は極めて重大な危険因子(リスクファクター)のひとつとして位置づけられています。このセクションでは、糖尿病が脊髄の血流にどのように影響を与えるのか、そのメカニズムについて分かりやすく解説します。

糖尿病による血管障害と脊髄への影響

糖尿病によって血液中のブドウ糖濃度が高い状態が長期間にわたって続くと、全身の血管が徐々に内側から傷つけられ、動脈硬化(どうみゃくこうか)が進行していきます。動脈硬化とは、血管の壁が分厚く硬くなり、内側が狭くなって血液の流れが滞ってしまう状態のことです。この血管の変性破壊は脳や心臓の血管だけでなく、背骨の中を通る繊細な脊髄に血液を供給する血管にも全く同じように起こります。

脊髄は、主に前脊髄動脈(ぜんせきずいどうみゃく)や後脊髄動脈(こうせきずいどうみゃく)と呼ばれる非常に細い数本の血管によって酸素と栄養の供給を受けています。糖尿病による動脈硬化は様々な血管疾患のリスクを高め、脊髄の血管にも悪影響を及ぼす可能性があります。

特に慢性的な高血糖が続くと、血管の内側をコーティングしている血管内皮(けっかんないひ)細胞が直接傷つけられ、血小板が集まりやすくなって血液が固まりやすい状態が作られます。これが血栓(血の塊)の形成を強力に押し進め、突然脊髄の血管を塞いでしまう原因となります。日頃からHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:過去1〜2ヶ月の平均血糖値の指標)などを管理して適切な血糖コントロールを行うことが、脊髄梗塞の確実な予防につながるのはこうした医学的背景があるためです。

糖尿病性神経障害との関係と混同のリスク

普段から糖尿病をお持ちの方の場合、脊髄梗塞の初期症状が「糖尿病性神経障害(とうにょうびょうせいしんけいしょうがい)」と非常によく似ているため、正しく区別できず見落とされるリスクがあります。糖尿病性神経障害とは、高血糖によって末梢神経(脳や脊髄から手足の先へ伸びる神経)が痛めつけられる病態で、いわゆる糖尿病の三大合併症のひとつです。両足の指先の手袋・靴下型に広がるしびれや冷感、痛みの鈍化といった症状が現れます。

これらの症状は脊髄梗塞の初期に起きる手足のしびれや感覚麻痺と症状が非常に酷似しているため、「いつもの糖尿病のしびれだろう」「歳のせいだろう」と自己判断してしまい、救急搬送されるべき脊髄梗塞の発症に気づくのが遅れてしまう危険なケースが多発しています。

しかし、この2つには決定的な違いがあります。糖尿病性神経障害が数ヶ月から数年単位で「徐々に進行する」のに対し、脊髄梗塞はある瞬間から数分〜数時間単位で「突発的に激しく悪化する」という点です。糖尿病をお持ちの方が、首や背中の急な痛みを伴って「急に手足に力が入らなくなった」「今までと違う突然の激しいしびれや感覚障害が襲ってきた」と感じた場合は、手遅れになる前に速やかに脳神経内科や救急外来を受診することが極めて重要です。

まとめ

脊髄梗塞は、急激な背部痛・麻痺・感覚障害・排尿障害といった症状が特徴で、発症後の迅速な対応が回復の可否に関わります。糖尿病をはじめとする生活習慣病がリスクを高めることから、日頃からの血圧・血糖・脂質の管理が予防の鍵となります。少しでも異変を感じた場合は、脳神経外科への早めの受診を心がけてください。

参考文献

厚生労働省「糖尿病の合併症 | 健康イベント&コンテンツ」

日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイドライン2024」

配信元: Medical DOC

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