舌がんは単一の原因ではなく、複数のリスク因子が長期的に積み重なることで発症すると考えられています。なかでも喫煙と飲酒は代表的なリスク因子で、両方の習慣がある場合はリスクがさらに高まる可能性があります。口腔内の衛生状態や合わない入れ歯による慢性的な刺激なども見逃せない要因です。日常生活の中でできる予防の視点を整理します。

監修歯科医師:
柴原 孝彦(東京歯科大学名誉教授)
著書は「口腔顎顔面外科学(医歯薬出版)」「標準口腔外科学(医学書院)」「カラーアトラス コンサイス口腔外科学(学建書院)」「口腔がん検診 どうするの、どう診るの(クインテッセンス出版)」「衛生士のための看護学大意(医歯薬出版)」「かかりつけ歯科医からはじめる口腔がん検診step1/2/3(医歯薬出版)」「エナメル上皮腫の診療ガイドライン(学術社)」「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死MRONJ・BRONJ(クインテッセンス出版)」「知っておきたい舌がん(扶桑社)」「口腔がんについて患者さんに説明するときに使える本(医歯薬出版)」など。
舌がんの原因|生活習慣以外のリスク因子
舌がんのリスクは、喫煙や飲酒といった生活習慣だけによるものではありません。このセクションでは、ウイルス感染や年齢・性差、慢性的な刺激といった、生活習慣以外のリスク因子について解説します。自分自身がどのようなリスク背景を持っているかを知ることで、より的確な予防と早期発見のための行動につながります。
HPVウイルス感染と口腔がん・咽頭がんへの関与
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸がんの原因として広く知られていますが、近年では口腔がんや中咽頭がんの発症との関連性も注目されています。HPVは主に接触によって感染するウイルスであり、口腔内への感染ががんの一因となり得ると考えられています。中でも「HPV16型」と呼ばれるタイプは、がん化のリスクと深い関連があることが判明しています。
HPVに感染したすべての方が直ちにがんを発症するわけではなく、免疫機能が正常であれば多くの場合は自然に排除されます。しかし、長期間にわたってウイルスが粘膜に残存した場合や、免疫機能が低下している状態が続く場合には、細胞に遺伝子変異が蓄積し、がん化のリスクが高まる可能性があります。
予防の観点では、HPVワクチン(シルガード9等)の接種が、将来的な感染リスクを下げるために極めて有効です。日本国内でも現在、男性を含めた公的な定期接種として推奨が進んでおり、若年層はもちろん、成人になってからの接種についても主治医や専門医へ相談することが有益です。口腔がん・咽頭がんの予防のためにも、こうした予防医学の知見を活用することが推奨されます。
年齢・性差・慢性的な刺激によるリスク
舌がんは、一般的に40歳以上の方に多く見られる疾患です。年齢を重ねるにつれて細胞の修復機能が徐々に低下し、長い年月をかけて発がんにつながるDNAの傷(異常)が蓄積されやすくなるためです。とはいえ、近年では20代・30代の若年層で発症するケースも報告されており、年齢が若いからといって「自分は大丈夫」という安心は禁物です。
性差については、かつては男性に多い疾患でしたが、近年は女性の発症数も増加傾向にあります。背景には生活環境の変化だけでなく、ホルモンバランスや免疫系の影響も示唆されています。
また、無視できないのが「慢性的な物理的刺激」です。合っていない入れ歯の金具や、欠けて尖った歯が舌の同じ部位を繰り返し突き刺す状態が続くと、その部位の細胞は常に炎症と修復を繰り返すことになります。この慢性的なダメージが続くと、粘膜が白く変色する「白板症(はくばんしょう)」や赤くただれる「紅板症(こうばんしょう)」といった「前がん病変(がんになる一歩手前の状態)」を引き起こし、そこから舌がんが発生するケースが多く見られます。歯科での定期的なメンテナンスを通じ、慢性的な刺激源を早期に取り除くことは、舌がんを未然に防ぐための最も基本的かつ重要なステップです。
まとめ
舌がんは早期発見ができれば、治療の選択肢を広く持てる可能性がある疾患です。初期症状として現れる白斑・赤斑・しこり・潰瘍などの変化を見逃さないこと、そして喫煙・過度な飲酒・口腔内の不衛生といったリスク因子を減らす取り組みを継続することが、予防と早期発見の両面で重要です。禁煙や節酒は、決して容易ではないかもしれませんが、医療機関のサポートを活用しながら一歩ずつ取り組むことができます。今の生活を見直し、気になる症状がある場合は口腔外科や耳鼻咽喉科への受診を早めに検討してみてください。
参考文献
国立がん研究センター「口腔がんの検査・診断について」
厚生労働省「がん対策情報」
日本口腔外科学会「悪性腫瘍|口腔外科相談室」
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