駅のトイレで自ら注射する麻酔科医、義母を殺害する人畜無害そうなアーティスト――見た目では見抜けない?|インベカヲリ★

駅のトイレで自ら注射する麻酔科医、義母を殺害する人畜無害そうなアーティスト――見た目では見抜けない?|インベカヲリ★

怪しい奴に声をかける

先日、撮影のために巣鴨へ行ったら、派手な格好のお爺さんが警察官3人に囲まれて職務質問を受けていた。
私の住む中野区では、よくラッパーみたいな男が職質されているが、どうやら「おばあちゃんの原宿」として知られる巣鴨でも、奇抜なファッションの年寄りがターゲットになるらしい。

私は女なので、あまり職質を受けたことはないが、生まれて初めての職質はなかなかインパクトがあった。
あれは、学生時代にコンビニでアルバイトをしていたときのこと。本当は規則違反だけど、私は着替えるのが面倒くさくて、よく家からコンビニの制服を着たまま出勤していた。

その日も、いつものようにコンビニの制服を着て自転車で走っていると、「ああっ! ちょっと!」と、慌てたように正面から警察官に止められた。迷いなくこっちに向かって来たので、よほどピンと来るものがあったのだろう。
私のどこに怪しい要素があったのかまったく分からないが、警察官からしたら、コンビニ店員が店以外の場所にいることに違和感を持ったのかもしれない。あるいはまさか、コンビニの制服を私服にしているヤバい奴だと思われたのだろうか。
結局、普通の職質を受けただけで、特に服装に言及されることはなかったが。

25年以上昔のことなので、もうそのコンビニチェーンは存在しないが、ひょっとして私がやっていたことは、ファミマの制服でセブンイレブンへ行くぐらい変なことだったのだろうか。

警察も打率を上げるために、何かしらの根拠を持って職質する相手を決めるのだろう。
タトゥーや長髪、サングラスといった見た目から、「違法薬物」「闇バイト」などを連想するのは短絡的だなと思うが、実際のところヤカラはヤカラの恰好をしているので、あながち服装は無視できない。

もっとも、本当の危険人物は、見た目ではわからないものだ。無差別殺傷犯が逮捕される姿を見ても、地味で平凡な男ばかりではないか。
まして、社会的に立派な職業に就いている人の中にも、危険人物は潜んでいる。

今年7月、東京の地下鉄駅構内で、麻酔科医の男(39歳)が、トイレの個室で自ら麻酔薬を打ち、「死ぬ死ぬー」と叫んで錯乱状態になっているところを母親と駅員によって取り押さえられた。
医師が自分で注射することは違法ではないため、トイレのゴミ箱に注射針を捨てたことなどを理由に、廃棄物処理法違反容疑で逮捕されたという。
医師の男は、「いろんな薬を自分の体に打ち込むのが好き」「国が許可していない薬の限界が知りたくて多めに打った」などと供述。以前より危機感を持っていた母親が、行く先々に同行しており、この日もトイレの個室に1時間閉じこもる息子を、トイレの外で待っていたらしい。

こんな人でも医師なのだ。
麻酔医が麻酔乱用者とは、まさにミイラ取りがミイラではないか。

日ごろ職質をしまくっている警察官でも、医師を見て、まさか薬物依存だとは思うまい。
職業はときに、人を油断させるということだ。

では、写真業界はどうか。
私は写真家なので、長らく写真の世界に身を置いているが、グラビアカメラマンを除き、アートで写真にかかわる者に悪人は少ないように感じる。

ここ数年は、高校生の写真コンテストの審査員をしているため、年一回、写真部の生徒たちと会う機会があるのだが、みないい子すぎる子ほどいい子ばかりだ。
髪を染めていたり、制服を着崩している生徒は皆無。出品作には家族写真も多いため、おのずと私生活が垣間見えるのだが、妹や弟と遊ぶ姿や、両親と戯れる様子など、反抗期などどこ吹く風。生徒のみならず、顧問の先生たちも、みなおっとりしている。

はて、私の高校時代はこんなに品行方正だったろうか。ちと、ほのぼのしすぎてはないか。最初は不思議に思っていたが、あるときふと気が付いた。
「そうか、写真部だからか」、と。
不良は写真部に入らない。ただ、それだけのことだ。
もしも、「写真部の不良」というキャラがいたら、それだけで漫画の題材になるだろう。

プロアマを問わず、写真とはそういうものらしい。
だが、そんな写真業界にも殺人犯はいる。
殺人犯がいるのである。

2022年8月、沖縄県でおでん店『おでん東大』を営む女性店主が首を絞められて殺害された。遺体の首には、紐のようなものが巻かれており、自殺を装った可能性もあるという。
その後、殺人容疑で逮捕されたのは、店主の娘とその夫(どちらも当時34歳)だった。つまり娘夫婦による犯行だ。
妻は画家として活動しており、夫は沖縄でアートギャラリー『PIN-UP』を経営していた。このギャラリーは、メディアでもたびたび取り上げられ、事件の4か月前にも写真展を開催していたという。

ネットで夫の顔写真を見ると、これがまた、いかにも「新進気鋭」と冠されそうな顔をしている。物事を深く見つめていそうな眼と、アーティストっぽいあご髭。でも、全体的に人畜無害そうな雰囲気。
別にこの男性が写真をやっていたという情報はないが、写真界隈の若手は、だいたいこの種の風貌をしているので、私は10回くらい会ったことがあるような既視感があるのだ。

一体、なぜそのような人物が殺人事件を起こしてしまったのか。
報道によると、ギャラリーは過去に火災で全焼し、再建したために経営が苦しく自転車操業の状態だったらしい。夫婦は、殺害された母親から資金援助も受けており、金銭目的による犯行だった言われている。

私は彼らと直接的な接点はないが、知り合いの写真家がこのギャラリーで展示をしていたり、共通の関係者がいるなど、思いのほか近い存在だったようだ。
だが、これほど大事件なのに、この件が写真界隈で話題に上ることはない。裁判の詳細も報道されず、真相は不明のまま。
写真と事件取材を両方している私としては、なぜ事件が起きる前にかかわっていなかったのか悔やまれるところだ。

まあ、つまりだ。
外見や職業で、人を判断することはできないということだ。

私は素朴な見た目の人間なので、警察に言いたいことは何もない。職質されたくないので、これからも奇抜な奴だけを職質してくれ。

配信元: 幻冬舎plus

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