
主演・森山未來で丸谷才一の名作小説を初映像化する本日8月8日(土)放送の特集ドラマ「笹まくら」(夜9:00-10:29、NHK BS・NHK BSP4K)。戦時下に徴兵忌避(ちょうへいきひ)という罪を犯し、孤独と恐怖の逃避行を続けた青年・浜田庄吉(青木柚)と、20年後に平穏な生活を得ながらも再び同調圧力に追いつめられる1960年代の浜田(森山未來)の姿を描く作品だ。
WEBザテレビジョンでは若き日の浜田庄吉を演じた青木柚にインタビューを実施。役作りにおいて頭を抱え続けたという葛藤や、同一人物の過去と現在を演じた森山未來とのエピソードなどじっくりと語ってもらった。
■森山未來から掛けられた忘れられない言葉
──本作のオファーを受けた際のお気持ちを教えてください。
オファーをいただき原作を読ませていただいた時、徴兵忌避という選択をして逃げ続けてきた青年は、当時は本当に孤独だっただろうなと感じました。物語に描かれている浜田という人間を、森山さんと僕で演じるにあたり、彼を肯定することも否定することも一言では難しいですが、とにかく自分自身の肉体でその環境に居続けることに大きな意義を感じてお受けしました。
森山さんとは衣装合わせの際に一度ご挨拶させていただいたんです。その時、スタッフの方から「回想時代の青木柚さんです」と紹介いただいのですが、森山さんがボソッと「回想時代っていうかね」と呟いてくださったのが忘れられなくて。その一言によって、単なる回想シーンを担当するのではなく、森山さんの時代にしっかり通ずるような一人の人物の人生をつなげていきたいという思いがより強くなりました。
──作品に参加されて感じた思いをお聞かせください。
自分が20代のいま、この仕事をしている中でこのような意味のある作品に参加できたことは本当にありがたい経験でしたし、完成した本編を見ても、心から参加できてよかったと感じています。事前にお出ししたコメントで「浜田という一人の人生を、瞬間の連続を生きていければ」と書かせていただいたのですが、今回浜田庄吉を演じるにあたっては、まさに想像を巡らせ続ける日々でした。「本当に徴兵を忌避した人はこういう過ごし方をしたのだろうか」「この時どうしていたんだろう」と、頭が痛くなるほど毎日考え続けていましたね。
感情をストレートに吐露するようなシーンはあまりなく、さまざまな人と対面しながらも、基本的には何かを常に隠しながら過ごす日々でした。今までにない体験でしたし、あの瞬間の自分にしかできない表現を感じられた撮影だったなと、終わった今振り返って思います。

■頭が痛くなるほど考え続けた、逃亡生活の“重力”
──最初に台本を読まれた時の印象はいかがでしたか?
台本、そして原作からも、言葉が持つパワーに圧倒されました。僕自身、これまで徴兵忌避について深く知っていたわけではなかったので、そこをテーマに据えた物語に新鮮な驚きがありましたし、描かれているせりふが想像以上にストレートで、伝えたい思いが明確に伝わってくる力強い作品だと感じました。
──そうした重厚な作品に臨むにあたり、プレッシャーもあったのではないでしょうか。
緊張とはまた違う、非常に大きな重圧を感じましたね。数多くいる俳優の中で、この役を託していただけるのは一人しかいないという責任感がありますし、それを担わせていただけるありがたさを強く噛み締めながら現場に臨みました。
──若き日の浜田を演じる上で、どのようにアプローチしていきましたか?
いつ戦争が始まるか分からない、いつ徴兵されるか分からないという不穏な空気を、自分自身でしっかりとキャッチすることの大切さを考えていました。10代の浜田がどのような思いで日々を過ごしていたのかを想像しつつ、逃亡生活の中で彼にのしかかってくる罪の意識や、それに伴うずっしりとした重力のような感情を絶えず抱え続けることを意識していました。
──頭が痛くなるほど考え続けたとのことですが、具体的にどのような苦労がありましたか?
どれほど想像を重ねても到底たどり着けないほどの思いを抱えた青年なので、「こう考えてみたらどうだろう」と試行錯誤を繰り返すうちに思考が巡りすぎて頭が痛くなってしまって。単に心で思うというよりは、自分の肉体の真ん中に重い何かがずっと居座っているような感覚でした。
普段の僕は撮影中であっても日常と役柄を割と切り離せるタイプなのですが、今作の撮影期間中は日常に戻ってもヘビーな感覚が頭から離れず、毎日が山場を迎えているような独特な感覚がありました。役にのめり込むというよりも、その過酷な環境の渦の中に居続けなければならない難しさがありました。

■現場を俯瞰で見守ってくれた監督の存在
──鶴岡慧子監督からのアドバイスや、現場の雰囲気で印象に残っていることはありますか?
制作陣にとっても相当な覚悟と力が入る作品だと想像するのですが、鶴岡監督は揺るぎない芯をしっかりと持たれている方でした。その上で、現場では非常にフラットで余白を感じさせてくれる空間を作ってくださいました。
「集中してください」と追い詰められるような空気ではなく、少し離れた場所からすべてを見守ってくれているような大きな安心感がありましたね。撮影監督も含め、現場の空気が本当に素晴らしかったので、余計なことに気を遣わず、集中して演技に向き合うことができ、本当に助けられました。
──逃亡生活を支える結城阿貴子を演じた堀田真由さんとの共演はいかがでしたか?
阿貴子として登場する最初のシーンで、裸足で海辺に一人佇んでいる姿がものすごく印象的でした。まさに原作からそのまま飛び出してきたかのような説得力があり、「阿貴子と出会えた」とビビッと心にくる感覚がありました。映像の美しさも相まって、強く心に残っています。
堀田さんご自身も、穏やかさの中にしっかりとした芯とユーモアを兼ね備えた方。演技の上でも全幅の信頼を置いて身を委ねることができました。
──劇中では、桜を二人で眺めるような束の間の穏やかなシーンも描かれますね。
桜のシーンは、実は牛も現場にいて、どこか遠足のような雰囲気の撮影でした(笑)。逃亡劇という苦しい日々が続く中で、本当に数少ない癒やしの場面になっていて、撮影自体もすごく楽しかったです。100%手放しで楽しめる状況ではないですが、浜田の人生の中にこうした穏やかな瞬間があって本当によかったと感じましたし、彼にとって阿貴子という存在がどれほど大きかったのかを実感する一つのシーンになりました。
──浜田にとって、阿貴子はどのような存在だったと感じますか?
一瞬の救いであり、絶望の中で寄りかかり合える存在だったと思います。ただ、二人がずっと一緒にいられるわけではないということを、どこかで二人とも悟っていたと感じます。浜田が自分の身の上を初めて打ち明けた大切な存在であることは確かですが、過酷な時代背景も含めて、刹那的な救いであり支えだったのだろうと思っています。
■「遠い過去の話ではない」作品を通して感じた危機感と願い
──劇中の中で、特に印象深く心に残っているシーンはどこですか?
終戦を告げられるシーンですね。あの瞬間、体からひゅるひゅるとすべての力が抜けていくような感覚がありました。
あとは、誰かとの最後となるシーンはすべて強く印象に残っています。戦争というものに振り回された青年が、自分自身の脆さが浮き彫りになり、自分のせいで取り返しのつかないことになってしまったと感じてしまう。過ぎ去る時間をただ待つことしかできず、見送るしかできない無力感と、何も残らない切なさは演じていてとてもつらかったです。
──完成後の会見で森山未來さんと再会された際、何か言葉は交わされましたか?
森山さんから「今度はしっかりとガッツリ共演したいですね」と声をかけていただいて、すごくうれしかったです!今回は同一人物を演じているため共演するシーンがなかったので、そう言ってくださるだけで光栄ですし、僕にとって憧れの存在である森山さんに「柚くん」と名前を呼んでいただけただけで、生まれてきてよかったと思うほどでした(笑)。
一人の表現者として森山さんは誰も真似できない圧倒的な魅力を持った方。完成した本編を見た時も「こんな表現があるのか」と声にならないほど感銘を受けました。もしまた次回ご一緒できる機会があれば、それまでに僕自身ももっと成長できたらと思います。
──森山さんが演じる20年後の浜田の姿をご覧になって、どう感じられましたか?
衣装合わせの時に「回想時代というよりは、個々でもあるし、二人で一つでもある」というニュアンスの言葉をいただいていたおかげで、無用なプレッシャーを感じずに自分自身の役に集中することができました。森山さんも仰っていましたが、それぞれが現場で自分のやるべきことを全うすればいいんだと思えました。
逃亡している当事者としての過去の重みを、森山さんが過去を想像して演じてくださる時にしっかりリンクするよう、自分はとにかく目の前の瞬間に全力を注ぎました。監督から森山さんのちょっとした仕草の癖などを教えてもらいつつ、あとはどうかつながることを祈りながら演じきりました。
──視聴者の方々へメッセージをお願いします。
僕と同世代の20代の方や、お子さんをお持ちの方など、誰もが自分ごととして隣り合わせに感じられるような作品になっていると思います。見終わった後に、不思議と自分の人生についてなど考えを巡らせる時間が生まれるのではないでしょうか。
徴兵というものが決して遠い昔の話ではないかもしれないという緊張感や、一瞬の選択の違いで誰もが想像もしなかった日々へ投げ込まれてしまう怖さを、僕自身も撮影を通して感じました。本来であれば、そのような過酷な選択を迫られるような状況自体が世の中からなくなってほしいと思います。本当に血の通った言葉がたくさんありますので、ぜひ受け取っていただけたらうれしいです。
──最後に、青木さんがハードな撮影や日常の中でリフレッシュできる瞬間を教えてください。
映画や音楽に触れる時間も好きですが、一番は気心の知れた友人と過ごす時間ですね。今回共演した櫻井健人さんとは舞台で共演して以来の親友なのですが、彼と街をぶらぶら歩いたり、お互いのおすすめのお店に行って美味しいものを食べたりする時間が癒やしになっています。一時期二人とも坊主頭だった時期があって、まるで兄弟のように街を歩いていました(笑)。今回の撮影を経て、そうした何気ない日常がいかに尊いものであるかを、改めて感じています。


